ネパールと中国の国境付近で起きた大規模な土石流災害で、水力発電所のトンネルから9日ぶりに救出された2人の男性作業員について、閉じ込められていた当時の状況が明らかになりました。
2人の命を支えたのはトンネルに残されたわずかな空気と泥水、そして救助隊が暗闇の奥から聞き取ったわずかな音でした。
濁流にのまれた発電所
ロイター通信によりますと、4日に救出されたのはカビール・マハルジャンさん(45)とサンジャイ・サハさん(30)の2人。
土石流が発生した8月26日の朝、マハルジャンさんは水力発電所のトンネルに入る直前、妻に電話をかけていました。
「トンネルに入らないといけない。中では携帯電話がつながらない」

これが被災前に交わした最後の会話となりました。
その約1時間後、40キロほど上流の山で氷河の一部が崩れ、大量の土砂が川に流れ込みました。

泥や岩を巻き込んだ濁流は集落をのみ込みながら渓谷を下り、川沿いの水力発電所を次々と襲いました。
上向きのトンネルへ
首都カトマンズの電力当局によると、発電所の稼働状況を示すモニターから、施設の表示が一つ、また一つと消えていったということです。
発電所の内部では、サハさんが各階を駆け回り、同僚たちに避難を呼びかけました。
しかし、間もなくトンネルにも冷たい水と泥が流れ込みます。

2人は濁流から逃れようと、上向きに傾斜したケーブル用のトンネルへ入り、出口から約160メートルの場所に取り残されました。
そこには水が届かなかった空間があり、わずかな空気が残っていました。
難航する救助活動
一方、地上では救助活動が難航していました。
発電所に通じる4本のトンネルは、泥や岩、木材などでふさがれ、場所によっては厚さ30メートル近い土砂に埋まっていました。
さらに、設計図に記された座標が実際の位置と数メートルずれていたため、救助隊は当初、トンネルとは違う場所を掘っていました。
地上から細い穴を開けてトンネルの正確な位置を確認し、ようやく掘削を進めましたが、激しい雨が降るたびに掘った穴が再び水や泥で埋まり、作業は何度も中断されました。
泥の向こうに人の手
土石流発生から9日の午前4時ごろ、救助隊員が暗闇の奥から聞こえるかすかな音に気づきました。
救助隊は重機のエンジンを止め、何度も声をかけながら耳を澄ませました。
さらに掘り進めてライトでトンネルの奥を照らすと、泥の向こうに人の手が見えました。
午前7時ごろ、救助隊が泥に覆われた壁に穴を開けると、中から生存を知らせる声が返ってきました。

洪水発生から9日。2人はようやく暗闇のトンネルから救出されました。
「夫はもう一度、命を授かった」
いずれも自力では立てない状態で、サハさんは救助隊員に背負われ、マハルジャンさんは担架に乗せられて運び出されました。
サハさんは顔を泥に覆われながらも、周囲の歓声に応えるようにカメラに向かって手を上げました。

マハルジャンさんは足に深い傷を負い、病院で手術を受けました。
意識がもうろうとしていたため、妻と再会した際には一時、妻の顔も分からなかったといいます。
なぜ2人は奇跡の生還を遂げられたのか。2人は食料のない暗闇の中、泥水を飲み、祈りを唱え、ほとんど動かずに体力を温存し9日間を耐え抜いたのです。
夫は生きていないかもしれないと覚悟していた妻は、「夫はもう一度、命を授かった」と喜びを語りました。
また、2人が救出された翌日には、別の水力発電所のトンネルから中国人男性も救出されました。
いまだ121人がトンネルに
ネパール軍は、被災した複数の水力発電所のトンネルに少なくとも121人が取り残されている可能性があるとして、すべてのトンネルを確認するまで捜索を続ける方針です。
8日現在、土石流による死者はネパール・中国合わせて1399人、安否不明者は日本人5人を含む5513人にのぼります。

