近年、都心部の賃貸マンションの家賃が上がり続けています。大阪市内の物件も大幅に上昇し、特にファミリー向けマンションでは平均家賃がおよそ17万円と、関西で最も高い水準に達しています。
そんな中、見直されているのが、かつて時代遅れのイメージを持たれていた団地です。
入居率がV字回復した団地を取材。手頃な家賃だけではない、令和の団地暮らしの実態に迫りました。
■高齢化などにより入居率が低下 一時は20%が空室に
大阪府堺市の南部、泉北ニュータウンの一角にある茶山台団地は1971年に誕生した大規模賃貸団地です。
高度経済成長期には、当たり前のお風呂や水洗トイレなどの最新設備が整い、入居倍率が50倍を超える”夢の住まい”でした。多くのファミリー層が暮らす人気の団地でしたが、2000年代以降は高齢化などにより入居率が低下。2016年にはおよそ20%が空室という状況に追い込まれました。
しかし住民と行政が一体となった取り組みが始まり、2021年以降は入居率が9割以上にまで回復しています。
■2つの部屋をセットで貸し出す「ニコイチ」が人気
茶山台団地で注目を集めているのが「ニコイチ」と呼ばれる物件です。2つの部屋をセットで貸し出し、玄関やベランダを通じて行き来できる間取りになっています。
およそ5年前に大阪狭山市から引っ越してきた永井さんは、フルリモートの仕事部屋と家族の生活スペースをニコイチでうまく使い分けています。
2部屋でおよそ90平方メートルで家賃は月8万7000円。大阪市内中心部で同サイズのマンションを借りれば平均20万円以上かかるため、10万円以上の差が生まれる計算です。
元々古いので結露などの問題は認めつつも、「変な家で飽きないで楽しめている」と満足している様子。
埼玉県出身の永井さんは「地域の自分を支えてくれるみたいな人がいなかったので、それがいま、少しずつできてきてうれしい」と話しています。
■戸建てを売って家族5人で越してきた人も
一方、男の子3人を育てる前野さんも、「ニコイチ」の物件を借りています。
前野さんは戸建てを売って家族5人で茶山台に越してきたといいます。
【前野さん】「茶山台にほれ込んでしまって。どうしても茶山台に来たくて」
地域の小学校の評判に加え、「年齢を超えたつながりも、新興住宅ではなかなか味わえない」というご近所付き合いの温かさも、移住の決め手だったといいます。
■リノベーションの自由度も魅力
茶山台団地のもう一つの魅力が、リノベーションの自由度です。一般的な賃貸マンションでは退去時の原状回復が原則ですが、この団地ではライフスタイルに合わせて自由に部屋を改造でき、退去時に元に戻す必要がありません。
およそ2年前に入居した佐竹さんは、畳だった床をフローリングに張り替えるなど、室内を自らの手で作り上げました。
「自分で好きなように変えられる。自分の好きな空間を作っていけるのもいい」と、その魅力を語ります。
家賃はおよそ45平方メートルで月4万1900円で、今後は床をタイル風に変えることも検討中だそうです。
■団地内にはDIY工房も
団地の敷地内には、住民をはじめ誰でも無料で使えるDIY工房も設けられています。工具の貸し出しや図面の作成など、初心者でも丁寧にサポートを受けられる場所です。
夏休みの工作で訪れる子どもも多く、世代を超えた交流の場にもなっています。
■団地の一室を活用した惣菜屋は団地以外の人にも人気
入居率回復を支えるもう一つの取り組みが、団地の一室を活用した惣菜屋「やまわけキッチン」です。およそ8年前にオープンし、1人で夕食をとる高齢住民の孤食問題や買い物の不便さといった声に応える形で生まれました。
店主の湯川さんは茶山台団地出身で、「自分のふるさとに何かできたら」という思いから戻ってきた一人です。
人気メニューの「やまわけ揚げ定食」は、素朴で家庭的な味が幅広い層に支持されており、大阪狭山市など団地の外からも多くの人が訪れています。
湯川さんは「どういう人が住んでるかを知らないと、いろんなことが不便になってきている。できる限り顔があう機会を作っていけたら」と話します。
そのほかにも、集会場を使って不定期にオープンするパン屋や、子どもたちの宿題をサポートする夏休み学習サポートなど、住民に寄り添った取り組みは多岐にわたります。
■坂道が多い団地内 電動カートを導入し移動の助けに
移動手段の面でも変化が生まれています。甲子園球場およそ2個分の広さで坂道が多い茶山台団地では、今年4月から電動カートが導入されました。毎週月曜日に1日5便が運行され、高齢住民の移動を助けています。
月に2回オープンする出張カフェには社会福祉士のスタッフが健康相談からおしゃべりまで気軽に立ち寄れる場になっています。
長年茶山台団地で暮らすシニア世代が「3人でおしゃべりする時間が生きがい」と話す姿もありました。
■若い世代にも人気の理由
若い世代も増えています。入居して8カ月の松田さんは、実家暮らしを経て1人暮らしを始めた一人です。
【松田さん】「仕事から帰ってきたときに『おかえり』とか、誰か知ってる人に会うだけで、ちょっと心が豊かになるかなと思って。そういう関係を求めて引っ越してきました」
月1回開催される「オトナカイギ」は、それぞれが一品を持ち寄り、語り合う交流の場です。「たくさん煮物作ったから、隣近所で分け合うのがまだここには残っている」という住民の言葉には、昭和の暮らしの記憶と令和の現実が重なります。
家賃高騰が続く中、「安さ」だけを理由に団地を選ぶ人は少数派かもしれません。リノベーションの自由、ゆとりある間取り、そして顔の見えるコミュニティが揃った茶山台団地の取り組みは、令和の住まい選びに一石を投じています。
(関西テレビ「newsランナー」 2026年8月12日放送)
