テレビ用パネルで2025年の世界シェア第2位を誇る中国TCL系パネル大手「CSOT」。7月初旬、中国南東部・深センにあるその工場を訪れた。工場に入ると、まず驚いたのは意外なほどの静けさだった。筆者はカメラマンだが、カメラの持ち込みは禁じられたため、「文字」で工場内部の様子を伝えたいと思う。
とにかく巨大な空間は、照明が最小限で薄暗く、人の姿もほとんど見当たらない。目に飛び込んできたのは、ガラス基板上に半導体膜などを形成する巨大な成膜装置。105トンの重さがある1台8000万元(約16億円)という機械だ。工場内では、厚さ0.5ミリのガラス基板をロボットアームで吸着し、次の工程に運ぶ仕組みになっている。基板には一枚ずつ識別コードが付き、製造工程は自動で管理されている。ここで作られているのは、テレビの心臓部ともいえる「パネル」だ。
2026年3月、ソニーはTCLと手を組み、テレビやホームシアター向け製品を扱う合弁会社を設立すると発表した。その名も「BRAVIA(ブラビア)株式会社」だ。TCLグループ傘下のTCL電子(TCLエレクトロニクス)が51%、ソニーが49%を出資し、2027年4月に事業を始める予定だ。
背景にはソニーのテレビ事業を取り巻く厳しい競争がある。中国の市場調査会社・群智諮詢によると、2025年のソニーのテレビ世界出荷台数は前年比13.3%減の410万台。一方、TCLは2025年も出荷台数を伸ばした。テレビの世界出荷台数は前年比6.4%増の3070万台で、Samsungに次ぐ世界2位。日本の国内市場でも液晶テレビ販売台数のシェアは10.8%で4位となり、液晶分野では5位のソニーを上回っている。
強さの源泉は“垂直統合型”
TCLの強さを理解する鍵の一つが、この工場で製造される「パネル」だ。
多くのテレビブランドがパネルを外部調達する一方、TCLはパネルの開発・製造から完成品までをグループ内でカバーする「垂直統合型」を柱とする。重要部品の製造を自社グループで押さえることで、コストを抑えながら、製品開発のスピードも上げやすい。中国の自動車メーカーなどでもみられる、中国製造業の強さを支える一つのモデルだ。TCL製テレビを見て「この大きさでこの価格なのか」と感じる背景には、こうした生産体制がある。
カメラマンの目に映った 液晶と有機ELの実力差
家庭用テレビでは明るさを得やすい「液晶」と、深い黒や高いコントラストを強みとする「有機EL」が主流。TCLは前者の「液晶」の進化に力を入れている。
TCLスマートスクリーン事業部副責任者の左波氏は、家庭用テレビの中心となる50~120インチでは「液晶+Mini LED」がコストと性能のバランスに優れるとみている。特に、2026年5月から日本でも販売を始めた「SQD Mini LED」搭載の液晶モデルは、パネルの色再現、Mini LEDの光制御、AIによる画質処理を組み合わせ、より純度の高い色と緻密な明暗表現を目指している。
今回、カメラマンとして「腕」ではなく「眼」を問われる場面があった。TCLの施設で「他社製RGB Mini LED」「SQD Mini LED」「他社製有機EL」の3種類を見比べた。薄暗い部屋に差し込む外からの光は、「RGB」では青白く見えたのに対し、「SQD」ではより自然な白に見え、光が当たる壁の質感の印象も変わった。
「SQD」と「有機EL」を比べると、夜空に浮かぶ星の映像では、「有機EL」は背景の黒が深く沈み、その中に星の光だけが一点ずつ浮かび上がるように見えた。暗闇と星の光の境目もくっきりしており、明暗差の表現では、やはり「有機EL」の強さを感じた。
一方、「SQD」も暗部と明部の描き分けは十分で、液晶方式ながら「有機EL」にかなり近づいていると感じた。さらに画面全体は「SQD」の方が明るく、その分、筆者には見やすかった。「SQD」を見た後に「有機EL」を見ると、薄いサングラス越しに見ているように感じるほどだった。この比較はTCL側が用意した環境で、映像素材や視聴環境、設定によって印象は変わる。それでも、カメラマンとして日々映像の色を見ている立場からすると、液晶テレビの色再現がここまで進んでいることには驚かされた。
TCL幹部が語る日本市場の重要性「技術とブランドの高地」
もちろん、世界2位まで成長したTCLにも課題はある。左波氏は「マーケティングについては、正直まだかなり弱い。世界のトップ企業の水準には達しておらず、伸びしろが大きい。製品づくりに集中しすぎて、マーケティングに注力してこなかったのが理由の一つだ」と話した。技術的な説明を聞けば違いは分かるが、それを店頭で消費者に伝えるのは簡単ではない。製品の魅力をどう伝え、ブランド力をどう高めるかは、TCL自身も課題と認識している。
そのTCLにとって、日本市場は特別な意味を持つ。アジア太平洋地域のマーケティング責任者、張国荣氏は、日本を「技術の高地であり、ブランドの高地」と表現した。画質への要求が高い日本で評価されることが、周辺市場でのブランド力にもつながるとみている。そして、その日本市場で手を組む相手がソニーだ。
『BRAVIA』はどう変わるのか テレビ市場の勢力図も変化へ
では、合弁によって(ソニーのテレビブランド)『BRAVIA』はどう変わるのか。合弁会社は東京・品川に本社を置き、代表取締役会長兼CEOにはソニー側の木井一生氏が就く予定だ。

『BRAVIA』は新しい合弁会社が管理・運営し、TCLブランドは現在の日本法人が引き続き展開する。TCL側は両ブランドについて、製品や市場、ユーザー層、マーケティングで「比較的独立した運営を維持する」と説明する。
ただ、「ソニーのテレビの中身は変わるのか」という筆者からの問いに、今回明確な答えは得られなかった。ソニーが培ってきた画質処理技術と、TCLが強みを持つパネルやMini LED技術が、どこまで組み合わされるのか。
張氏は、TCLのサプライチェーンと効率的な工場を活用することで、「製品のアップグレードや技術導入のスピードが上がることが期待できる」と述べるにとどまった。群智諮詢の試算では、TCLとソニーを合わせたテレビの世界シェアは2027年に16.7%に達し、Samsungの16.2%を上回る可能性があるという。

日本で存在感を増す中国のTCLと、日本で長く親しまれてきたソニーの『BRAVIA』。ブランドは分けたまま、経営基盤では手を組む。2027年4月、新しい『BRAVIA』がどのような姿で走り出すのか。その行方は、日本のテレビ市場の変化を映す象徴的な動きになりそうだ。
(取材・執筆:FNN上海支局 工藤雄矢)

