175センチの点取り屋

8月21日に中国・天津でバレーボールアジア選手権が開幕する。

12の国と地域が出場する大会で優勝すれば、2年後のロサンゼルス五輪出場が決まる。今季の女子日本代表にとって最も重要な戦いだ。

5月の始動から3カ月、フェルハト・アクバシュ監督のもと、さまざまな課題を掲げ、6月から7月26日まで開催されたネーションズリーグでは決勝トーナメント進出を果たしたものの、ブラジルに惜敗。アクバシュ監督も「今季最大のターゲット」と公言してきたアジア選手権優勝に向け、攻撃力にも磨きをかけてきた。

パリ五輪にも出場したセッターの関菜々巳、35歳で日本代表初選出の栄絵里香、2人の司令塔が繰り出す多彩な攻撃が日本の武器ではあるが、相手よりも1点でも多く点を取り、勝利に導くべく、虎視眈々と燃えるのがオポジットの和田由紀子だ。

初めて日本代表入りを果たしたのは2023年、前衛からのスパイクはもちろん、伸びやかなジャンプから放たれるバックアタックも得意とする和田はパリ五輪にも出場した。世界を見渡せば、同じポジションには2メートルにも迫る大型選手も珍しくない中、和田は175センチと小柄な部類に属するが、高さでは劣ってもスピードと上空に到達するまでの速さは決して引けを取らない。

滞空時間が格段にアップ

むしろネーションズリーグを終えてから、より着実に得点するために高さとプラスして速さにも磨きをかけてきたと明かす。

「相手の高いブロックに対して、自分も高さは落とさないようにということをずっと意識してきました。でも、ネーションズリーグではブロックされることも多かったので、高さだけでなくスピードを磨いたほうがいいんじゃないか、と思ったんです。そのほうがブロックも見やすいし、自分の武器であるキレや、スイングの速さも活きる。セッターは難しいと思うんですけど、離れたところからでもできるだけ速いスピードのトスを求めるようにしています」

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ブロックが完成する前にトスが来れば、攻撃側に有利ではある。だが、トスが速くなればそれだけ空中で余裕がなくなるのではないか。そんな疑問も抱くが、和田は淡々とした口調の中に自信をのぞかせる。

「トスが速くなる分、自分がスパイクに入る助走や、姿勢の立ち上がりのスピード、テンポも上げているので、空中でトスを待って打つことができる。(ジャンプの)高さ自体はあまり変わっていないかもしれないですけど、ジャンプするテンポは速くなっているので、その分空中での滞空時間が増えた感覚は間違いなくあります」

最大のライバルは中国

アジア選手権は3組に分かれた予選ラウンドで4チームが総当たりし、上位8チームが決勝トーナメントへ進出。準々決勝からは負ければ終わりの戦いで、すべての試合が重要ではあるが、五輪出場をかけ、一番のライバルと目されるのは開催国の中国だ。

高身長の選手が揃い、ネーションズリーグでは予選1位通過のアメリカに準々決勝で勝利した。爆発力も備え、なおかつホームの大声援というアドバンテージもある。これまでの対戦成績を回顧し「日本に対していつもアグレッシブで、強いイメージがある」と和田も苦笑いを浮かべるが、アジアで1位になるためには、中国も含めたアジアのすべてのチームに勝たなければならない。昨年から国際大会で上位進出を果たしている日本に対して、各国の対策もより高まっていることは想像に容易い。その中で、どう勝ち切るか。和田の答えはシンプルだ。

「対策されているからこそ、いろんなことにチャレンジしたい。点数を決める人は注目が集まると思うんですけど、自分自身はそこに満足することなく、目指すところに向かって信じて進む。コート内の全員が役割を果たさないと勝てないと思うので、それぞれの良さを活かし合って、頼り合って、勝てるチームになりたいです」

アジア制覇は“ユッコにおまかせ”

表情を変えることなく淡々と話し、淡々とプレーする。クールな印象が強いが、実は意外とおしゃべりで、自ら選ぶキャッチコピーでは“ユッコにおまかせ”をセレクトするお茶目な一面も併せ持つ。会場を沸かせるジャンプサーブや、勝負所でめっぽう強いラリーを制するスパイクなど、いくつもの武器と魅力を備えた和田が“目指すところ”はどこなのか。

「世界で一番のオポジットになることです。こうしてスタートで試合に出し続けてもらっていることは初めてですけど、1年1年に集中して、一つひとつ積み上げて、オリンピックまで止まることなく成長していきたいです」

世界へ向け、アジアを制す。スピードに磨きがかかった和田のスパイクに注目だ。

田中夕子
田中夕子

神奈川県生まれ。『月刊トレーニング・ジャーナル』編集部を経て、2004年からフリーランスライターに。主にバレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を中心に取材。著書に『日本男子バレー勇者たちの軌跡』、『高校バレーは頭脳が9割』、共著に『青春サプリ。』、構成に『Saori(木村沙織著)』『頂を目指して(石川祐希著)』などがある。春高バレーをはじめとする高校バレーの取材がライフワーク。