福島県西会津町で、害獣として駆除された野生動物の「命」を革製品として再生させる取り組みが始まっている。神奈川県から移住した鞄職人の片岡美菜さんは、豊かな自然と伝統文化が残る町で新たな産業を興した。原発事故の影響で食肉としての利用が制限される県内の現状を背景に、捨てられるはずだった皮に職人の技術で新たな息吹を吹き込む。奪われた命に敬意を払い、地域に根ざした「命の循環」を目指す職人の挑戦を追った。

移住職人が営む鞄製作所

福島県西会津町にある古民家を改装し、2年前に「やまあみ鞄製作所」がオープンした。
黒や茶など自然な色合いの鞄や小物が並ぶ店内で、ミシンを走らせるのは店主の片岡美菜さんだ。神奈川県出身の片岡さんは、かつて東京都内で鞄職人として研鑽を積んでいた。

福島県西会津町 やまあみ鞄製作所
福島県西会津町 やまあみ鞄製作所
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片岡さんは、ミシンを踏み物を作る時間に何よりの幸せを感じるという。会津地方に根付いた伝統工芸や豊かな自然に惹かれ、2020年に「地域おこし協力隊」として西会津町へやってきた。活動が終了したあとも、自身の手で今までにないバッグブランドを立ち上げたいという情熱が、片岡さんを西会津の地にとどまらせた。

野生動物が刻む「生きた証し」

製作所で使用される素材は、会津地方で害獣として駆除された野生動物の皮だ。
細やかなしわがあり柔らかく手になじむクマの革や、丈夫で生命力にあふれるイノシシの革が、片岡さんの手によって形を変えていく。

片岡さんが使うのは駆除された野生動物の皮
片岡さんが使うのは駆除された野生動物の皮

野生動物の皮には、生きていたときについた傷や、狩猟時の鉄砲の跡が刻まれている。個体の年齢や性別によって風合いは一つひとつ異なり、製品として使用できる部分は一般的な革に比べて多くはない。しかし片岡さんは、傷の入り方を含めた個体ごとの違いを「その動物が生きた証し」という魅力として捉えている。

被害深刻な農村の現状と課題

素材となる毛皮を届けるのは、同じく神奈川県出身の力武未歩さんだ。
力武さんは地域おこし協力隊として、2025年からジビエの利活用に取り組んでいる。面積の8割以上を山林が占める西会津町では、野生動物による農作物被害が深刻化しており、離農を加速させる一因となっている。

力武未歩さん(左)と片岡さん
力武未歩さん(左)と片岡さん

地元猟師による駆除や解体に立ち会う力武さんは、必死に生きる動物の姿を目の当たりにしてきた。福島県内では原発事故後、野生動物の出荷制限が続いており、駆除された個体の多くは処分せざるを得ない状況にある。そうした制限下で、毛皮は利用が認められている貴重な資源だ。託された命を少しでも活かしたいという願いが、職人と協力隊員を結びつけた。

命への敬意を込めた手仕事

毛皮を製品用の革にするためには、「せん打ち」という工程が不可欠だ。
片岡さんは、この工程を独学で習得した。外部の業者に委託することも可能だが、自らが制作する革製品に“命への敬意”を込める大切な工程だと考えている。

せん打ちは“命への敬意”を込める大切な工程
せん打ちは“命への敬意”を込める大切な工程

片岡さんは「こういうことやっていると批判されることもあるが、殺したくてやっているというより、獲った命を無駄なく使い切ることこそが重要」と話す。福島県において食肉の利活用が困難な現状があるからこそ、皮を革製品に変える活動には大きな意義がある。

片岡さんが作った鞄
片岡さんが作った鞄

片岡さんは、自身が取り組まなければ捨てられてしまうはずの皮に光を当て、福島ならではの価値を創出しようとしている。西会津の地で生まれた革製品は、単なる道具としての枠を超え、失われた命を次へと繋ぐ新たな産業の形を示している。

(福島テレビ)

福島テレビ
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