新ひだか町に拠点を置く猪野毛ファームは、独自の酵素液で育つブランド豚「健酵豚」の加工販売、さらには自社ブランドの豚しゃぶ専門店「豚しゃぶ火影」の運営まで、多角的に食の事業を展開しています。代表取締役の猪野毛優作さんに、養豚の現場から加工・飲食へと事業を広げた経緯、「健酵豚」が持つ可能性、そして今後の展望について聞きました。

――そもそも「健酵豚」とは、どのような豚なのでしょうか。
 「元々は2012年頃から父親が始めたブランド豚です。私の住んでいる新ひだか町は競走馬が盛んな地域なのですが、そこで競走馬の健康管理に使われていた酵素液に注目しました。これを豚に飲ませたらどうなるのか、という試みから始まったものです」

――酵素液を飲ませたことで、どのような変化が生まれたのでしょうか。
 「腸内環境が整うので、豚が非常に健康になり、薬をほとんど使わずに育てることができました。豚肉自体の味も脂身が甘く、さっぱりした豚肉となっております」

――おすすめの食べ方はありますか。
 「シンプルに、塩コショウで焼いて食べていただくのが一番美味しいです」


銀行員としての経験と、経営への目覚め

――子供時代は家業の養豚についてどう思っていましたか。
 「当時、家業は養豚のほかにお米もやっていました。お米の手伝いはちょこちょこしていましたが、豚に関しては大きくて怖い存在というイメージが強く、全く携わっていませんでした。自分が継ぐという意識も全くありませんでした」

――大学卒業後は銀行に就職したそうですが、そこでの経験は現在にどう活きていますか。
 「基本的には法人の外回りを担当していました。多くの経営者の方と接する中で、その決断力や人をまとめる力に魅力を感じ、自分も何か事業をしたいという思いを抱くようになりました。それと同時に、一人暮らしをしていた期間が長かったので、たまに実家から送られてくる豚肉と、スーパーで買うお肉の違いを深く実感するようになりました」


帰郷と手探りの加工事業立ち上げ

――その後、実家に戻る決断をされたきっかけは何だったのでしょうか。
 「銀行の業務は数年ごとの転勤があります。ちょうど4年経った転勤のタイミングで、一度実家に戻って何かできないかと考え、退職しました。ただ、父親は戻ってくると思っていませんでしたし、むしろ事業を縮小しようと考えていた時期だったので、迷惑だったと思います。給料も渡せないと言われ、他の牧場でのアルバイトをしながら、父親から養豚を学び、並行して加工業務の勉強を始めたのです」

――そこから、どのように加工事業を展開していったのでしょうか。
 「もともと父親は生産で手一杯でしたので、お肉の加工は外部委託し、パックされたものを売るという形をとっていました。私はその事業を引き継ぎ、売り先を増やすことから始めました。ちょうどコロナ禍でネット販売の需要が高まっていた時期とも重なり、評判も良かったので、自分たちで加工した方がいいと確信しました。そこで空き家を買い取り、DIYで加工場を建てて、設備を揃えて本格的にスタートしました」


豚肉の魅力を直に伝える「豚しゃぶ」の挑戦

――新たな会社を立ち上げた狙いはどこにあったのでしょうか。
 「生産と加工販売ではコスト構造が異なります。仕入れて売る形の方が生産コストの計算も明確ですし、商業と農業を分けて明確化したいという意図がありました。現在は、生産の運営は父親が行い、私は別事業として加工・販売・飲食を担っていますが、育てる段階では二人で連携しています」

――飲食店「豚しゃぶ火影」をオープンした経緯を教えてください。
 「ブランド豚として付加価値がついている分、どうしても値段は普通の豚肉より高くなってしまいます。それを地元の方にもっと気軽に食べてほしいという思いがきっかけです。当社の豚肉は、しゃぶしゃぶにした時にアクが極めて少ないのが特徴です。その強みを体験してもらうには、しゃぶしゃぶ屋が最適だと考えました」

――地元の方の反応はいかがですか。
 「アクが出ないことに皆さんびっくりされます。その姿を見るのがとても嬉しいですし、お店で美味しさを知っていただくことで、親戚や知人へのギフト需要など、新たなつながりが生まれています」


可能性を広げ、地域で愛される企業へ

――現在、事業において力を入れていることは何でしょうか。
 「自社生産のため、どうしても一頭買いをしなければなりません。人気のある部位とそうでない部位が出てくるため、需要の少ない部位をハンバーグなどの加工品にして、いかにバランスよく販売するかに注力しています。加工品も作っただけで売れるわけではないので、素人ながらSNSでの発信にも力を入れています」

――経営者として、従業員との関わりで大切にしていることはありますか。
 「飲食店を始めるにあたり法人化し、従業員を雇用しました。生産は365日休みがないため、店舗を任せられる人材が必要です。そのため、単に飲食の技術を教えるだけでなく、経営の視点も伝え、私の分身となるような人材を育てることを意識しています」

――今後の展望や夢を聞かせてください。
 「まずは札幌など市外への進出を考えています。養豚という核から加工・販売・飲食と広げていく中で、豚肉の可能性を追求していきたいです。『北海道の豚肉といえば健酵豚』と言っていただけるブランドに育て上げ、どんな挑戦にも応えられる企業体力をつけていきたいと思っています」

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北海道文化放送
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