「主文 被告人を懲役27年に処する」
北海道旭川市で2024年、女子高校生を橋から落下させ殺害した罪などに問われている女の裁判員裁判。殺人や不同意わいせつ致死などの罪に問われている内田梨瑚被告(23)に対し、旭川地裁は6月22日、懲役27年を言い渡した。
旭川市の無職、内田梨瑚被告。「舎弟」と呼んでいた共犯の当時19歳の女と女子高校生を監禁し、神居古潭で服を脱がせた上、橋から落下させて殺害した殺人、不同意わいせつ致死、監禁の罪に問われた。
今回の判決のポイントとなったのは殺人の実行行為性と殺意の有無。
どのような点が判決に影響したのか、これまでの裁判での内田被告の証言を振り返る。
■【初公判】宣誓拒否から1年…「殺意はありませんでした」
5月25日。1年前に共犯の女の裁判では宣誓を拒否した、主犯とされる内田被告の注目の裁判に、傍聴券を求めて313人の人が列を作った。
法廷に現れた内田被告に派手な印象はなく、深く一礼してただまっすぐ前を見つめていた。
起訴状が読み上げられ、言っておきたいことはあるかと問われると、ゆっくりと、そしてはっきりとこう答えた。
「私には殺意はありませんでしたし、橋から落下させていません。そのほかの部分については弁護人にお任せします」
■【第3回公判】共犯の女の食い違う主張「梨瑚さんの供述は全部ウソ」
5月27日。殺人の罪を認め懲役23年が確定している共犯の女が証人として出廷した。女の証言は内田被告とは全く異なるものだった。
「梨瑚さんが女子高校生の肩甲骨のあたりを両手で押しました。(女子高校生は)私の前から一瞬で消えました」
内田被告が押したことで女子高校生は橋から落下した、と証言した。
「梨瑚さんの調書はでたらめで全部作り話で最初から最後まで全部ウソです」
「一番の償いは私たちの・・・のみだと思います」
すすり泣く共犯の女に対し、内田被告はその表情を一切変えることはなかった。
■【第5回公判】注目の被告人質問「女子高校生は自力で戻ってきた」
被告人質問が行われた5月29日。これまでじっと裁判を聞いてきた内田被告が4日ぶりに何を話すのか注目された。
これまではまっすぐ前を向いてただ話を聞いていた内田被告に変化が見られた。
入廷するやいなや弁護人から紙とペンを受け取り、何かをメモするようなそぶりを見せた。
話を聞きながら手元の資料に目を通し、被告人質問に向けて準備をしているように見えた。
監禁の事実や暴行、暴言などについては争わず淡々と進んでいった被告人質問。しかし弁護士に橋の上での行動について問われると…
「女子高校生が橋から落ちたかどうかを私は見ていない」と話した。
内田被告は女子高校生は一度欄干の外側に落ちていったとした上でこのように証言した。
「(女子高校生は)橋の外側についているロープにつかまって体は上向き、足は柱に絡ませて落ちないように耐えていた」
「女子高校生は自力で戻ってきた」
「うちら帰るからと言って、ケータイと最初に渡された4000円を置いて、共犯の女と車に戻った」
車へ戻る途中、「キャー」「ダン」という音が聞こえたと供述。
欄干に座らせたことに関しては、「本当に死ぬ気があるかわからないから確かめたかった」というあいまいな発言をしていた。
■【第6回公判】厳しい追及に語気強める場面も「自分の都合のいい話しかしていないんじゃないか」
6月3日。弁護士からの被告人質問とは一転し、この日は検察からの厳しい質問に言葉を詰まらせたり、語気を強める内田被告の姿が見られた。
女子高校生を欄干に座らせた状況や殺意について次のようなやりとりが。
Qあえてそのような状態に置いて助からないのはわかっていたんじゃないですか
「はい」
Q人が死ぬ可能性があるとわかっていたのでは
「はい」
Qそれは殺意があるのだと思いませんか
「今は思う」
Q今は思うというのは
「当時は殺意があって欄干に座らせたり、体を押したりしていたわけではなかったが、今はそんなに危険なことをしていたので、殺意があったと言われるのは当然だと思う」
さらに共犯の女の発言についてどんな思いで聞いていたか問われると…
「共犯の女は殺意を認めて、懲役23年の受刑者の立場で事件から2年経って、殺意を争っている私に腹立たしい気持ちでいっぱいなのかなと思った」と話した。
ところどころ回答に詰まって黙り込んだり、都合のいい話しかしていないんじゃないかと指摘され弱々しい声になる場面も。
しかしその一方で、女子高校生が自力で橋の上に戻ってきた話を作り話ではないかと問われると、「絶対違う」と語気を強める場面もあった。
■【第7回公判】内田被告が涙…検察官の質問で”顔が激変”
6月4日。続く弁護人からの被告人質問で内田被告は涙を流す姿を見せて、反省の弁を述べた。
Q2年以上たって逮捕からも2年以上これまでどう過ごしましたか
「取り調べ中はやっていないことをやっていないと訴えることに必死で、被害者の気持ちを考えられなかった。取り調べが終わって令和6年7月4日に拘置所に移ってひとりの時間を過ごしていくうちに被害者をなくしてしまった責任と…」
ここで20秒ほど言葉に詰まり、泣き出した内田被告。傍聴席でメモを取っていた人が顔をあげ、内田被告の様子を確認するような様子も見られた。
「被害者を亡くした責任と向き合えるようになって、それからは被害者への思いが深まり、反省と謝罪の日々を送ってきた」
しかしその後、検察官から「なぜ泣いたんですか」と指摘された内田被告。
沈黙が続き、回答に困っているのかと感じられたが、表情を見ていた裁判員の1人は、のちにその時のことをこう語る。
「検察官からの”なぜ泣いたのか”という質問で顔が激変していました。それがすべてだと思いました」
その後も時折女子高校生を思うような証言をした内田被告。死の結果については…
「直接的に橋から落下させてはいないが、私の言動によって追い詰められて亡くなったのは間違いないと思う」と、検察官の主張する“殺人の実行行為性”を認めるような発言をする場面もあった。
■【第8回公判】検察の求刑は“有期刑の上限”の懲役27年
6月8日。検察と弁護士、それぞれの主張が対立し、裁判は結審した。
裁判の争点となる実行行為性について検察は…
「仮に、被告人が突き落としたのではないとしても、被告人らの言動のせいで転落したのであれば、実質的に殺人の実行行為にあたる」などと主張。
共犯の女の懲役23年も考慮したうえで殺人罪の上限の20年と監禁罪の上限7年を合わせた有期刑の上限である懲役27年を求刑した。
一方の弁護側は…
「被告人が流れをコントロールしたわけではなく、すべて被告人の責任とは言えない。計画性のない犯行」と主張。あくまで内田被告は突き落としていないとして情状酌量を求めた。
この日の最後に証言台に立った内田被告は遺族に深々と一礼。
「今日まで8回の裁判を通して改めて結果の重大さを身にしみて感じました。今後も反省、謝罪、償いの日々を送ります。以上です」
■懲役27年の判決…男の乱入「こんな判決おかしいだろうが」
6月22日。判決が下される重要な日に内田被告はこれまでと変わらない落ち着いた様子で法廷に現れた。
「主文 被告人を懲役27年に処する」
内田被告に下された判決は検察の求刑通りの懲役27年。
内田被告自身も傍聴席も特に動揺する様子やざわめくこともなく、判決理由に移った。
その時、法廷の外では、何かぶつぶつと話しながら、廷内に向かっていく男の姿があった。
男は、手荷物検査を実施していた職員の横をすり抜け、声をかけられてもお構いなし。
小窓から廷内を覗いて中を確認すると、職員を無視して突然廷内へ侵入した。
次の瞬間、廷内では男の叫び声が響き渡り、判決理由の読み上げが行われている静かな廷内の空気は一変。男はすぐに取り押さえられたが、廷内から外に向かって「誰か!110番!」という声が相次ぎ、現場は騒然となった。
男は取り押さえられたあとも「こんな判決おかしいだろうが」「家族が報われないだろうが」「死刑だろうが」「27年なんて生ぬるいこと言ってんじゃねえよ」と叫び続けた。
一度休廷した裁判は45分後に再開。何事もなかったように裁判は閉廷したが傍聴した人の中には恐怖が残ったままだった。
傍聴人は「怖かった」「びっくりした」と声を震わせながら手をぎゅっと握りながら当時の気持ちを話した。
内田被告は一切動じる様子を見せなかったが、弁護士によると、「びっくりした」と話したという。
■判決は検察の求刑通りに…なぜ
判決理由の主なものは以下の通り。
「被害者自ら落下した、被告が押して落下させた、のいずれであっても、殺人の実行行為にあたると認められる」
「被告の行為は被害者の人格と尊厳をふみにじる残虐で卑劣なものである」
「動機は自己中心的で酌量の余地は一切ない」
「法廷で謝罪の言葉を述べたことや若年であること、前科前歴がないことを考慮しても有期懲役の最長の27年を課するほかないと判断した」
検察の主張がほとんど認められる形となった。
事件から2年2カ月が経過し、一審判決が言い渡された。
検察、弁護側ともに即日控訴はしなかったが、今後の動向が注目される。
