今月は多様化する「夫婦のカタチ」を特集しているが、夫婦関係において、社会問題となっているのが配偶者からの暴力。ドメスティック・バイオレンス(以下、DV)とも呼ばれ、被害者の中には、PTSD(心的外傷後ストレス障害)などの後遺症に悩まされる人もいるという。

コロナ禍でDV相談は増加傾向

内閣府男女共同参画局のデータによると、全国の配偶者暴力相談支援センターに寄せられた、DVの相談件数は、2018年度で11万4481件。これは2002年度に統計を取り始めてから、過去最多の数字となる。

内閣府男女共同参画局の発表より
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翌年度以降のデータはまだ発表されていないが、内閣府男女共同参画局に聞いたところ、2020年は新型コロナウイルスの影響で、例年よりも相談件数は増えているという。

ストレスを抱えながら、自宅で一緒にすごす時間が増えていることが影響していそうだが、お互いに注意すべきことはあるのだろうか。また、どんな行為がDVに当たるのだろうか。

夫婦生活で注意すべきことはあるのか(画像はイメージ)

DV被害者の支援や加害者の更生に取り組む、NPO法人「女性・人権支援センター​ ステップ」の代表であり、自らも更生の講師を務める、栗原加代美さんにお話を伺った。

DV=身体的暴力だけではない

ーーDVとはどんな行為のことを言う?

まず、DVとは何かというと、夫婦に支配関係性が起きることです。妻や夫が主従関係になったり、奴隷化していくことを言います。種類としては大きく次のように分けられます。

・身体的暴力(例:叩く、殴る)
・精神的暴力(例:怒鳴る、無視する)
・性的暴力(例:セックスなどの強要)
・経済的暴力(例:生活費を渡さない、無理に働かせる)
・社会的暴力(例:GPSで行動を監視、スマホを無断で見る)


これらの暴力は全て、パートナーを支配するための道具として使われます。世間一般だと、DV=身体的暴力と想像しがちですが、それだけではないことは知ってほしいですね。

「女性・人権支援センター​ ステップ」代表・栗原加代美さん

ーーコロナ禍でDVに悩む人は増えている?

増えていると思います。私たちはDV加害者の更生プログラムも行いますが、2020年4~6月の新規受講者は昨年同時期の約6倍で、月に20人近くなることもありました。加害者が増えているので、当然ですが被害者も増えていますね。


ーーコロナ禍の環境はDVにつながりやすい?

コロナ禍の環境がDVを発生させるというよりは、ステイホームの生活で暴力を振るう機会が増えると考えられます。例えば、加害者がずっと家にいると、パートナーや子供の動向が目に入りやすくなるので、しつけ・教育と称して朝から晩まで被害が続くでしょう。

特に女性の被害者からは、家にいる夫が何かにつけて怒鳴ったり、叩いたりするという相談もあります。主婦にとって、夫や子供がずっと家にいる生活は負担となります。そのストレスが子供に向いてしまい、「自分もDV加害者では」と不安になる人もいます。

ステイホームの生活が要因と考えられる(画像はイメージ)

雰囲気や表情で傷付けてしまうことも

ーーDVを受けたら、被害者はどう対処すべき?

心の傷にふたをして誰にも相談しないと、その傷は怒りに変わり、子供の虐待や自分の体調不調につながることもあります。1人で悩まずに、専門機関に相談してほしいと思います。

私は悪くないと思うことも大切です。被害者の中には、「パートナー(加害者)はこんな悪い私のそばにいてくれる」と思う人もいるのですが、これは危険な状況です。他者から客観的な意見を聞かなければ、自分らしさを失って支配されることにもつながります。


ーー加害者はそう思っていなくても、DVになる行動・言動はある?

否定する、説教する、不機嫌になる、話をしないといった態度は、多くの人はDVではないと思われるかもしれませんが、相手側には重く受け止められることも
あります。対人コミュニケーションの「メラビアンの法則」では、会話内容のうち、言葉で伝わるのは全体の約7%で、残りは雰囲気や表情などに影響されるとも言われています。

被害者は相手が怒っていると思うと、自分の言いたいことを控えて、加害者の言う通りに従いがちです。語気が強かったり、笑顔がなかったりする態度にも注意が必要でしょう。

態度や表情で傷付けてしまうことも(画像はイメージ)

ーー自身が加害者かどうか判別する方法はある?

私たちの団体では、DV診断のチェックリストがあり、5項目のうち一つでも該当したら加害者の可能性があるとしています。実際の加害者だと、全て当てはまる人も多いですね。

【DV加害者のチェックリスト】
・パートナーが思い通りに動かないとイライラする
・自分が怒るのはパートナーのせいだ
・パートナーを自分のものと思う
・自分は正しくてパートナーは間違ってると思う
・パートナーと相談しないで1人で物事を決める

あなたは当てはまる?DV加害者のチェックリスト

人間関係を「壊す習慣」「築く習慣」

ーー加害者に当てはまるような人が更生するには?

私たちは、アメリカの精神科医、ウィリアム・グラッサー博士が提唱する「選択理論」を基に加害者の更生に取り組んでいます。選択理論は「全ての行動は自分の選択の結果で、相手が自分を怒らせるのではない」「過去と相手は変えられない、変えられるのは自分の思考と行為と未来」という考え方を基本とした、心理学の一つです。

選択理論では、人間関係を「壊す(破壊する)習慣」と「築く(良くする)習慣」も示しているので、参考になると思います。更生プログラムの受講者の約9割は、「パートナーが自分を怒らせる」という被害者意識があるのですが、築く習慣を続けると加害者意識を持てるようになります。

【人間関係を壊す習慣】
文句を言う、責める、罰する、ガミガミ言う、脅す、批判する、褒美で釣る

【人間関係を築く習慣】
支援する、励ます、傾聴する、受容する、信頼する、尊敬する、違いを交渉する

夫婦仲にも影響する「壊す習慣」「築く習慣」

ーー実際の夫婦生活にはどう取り入れればいい?

築く習慣のうち「傾聴する」を取り入れるだけでも、夫婦関係は変わります。加害者の多くはパートナーの話を聞いていません。例えば、妻が何かに悩んでいても、夫は物事の解決方法だけを考えていたりします。妻は共感してほしいんですね。

具体的には、パートナーの話を傾聴することを意識しつつ、否定的な言葉が多い「ダ行」を使わずに、肯定的な言葉が多い「サ行」で反応するように勧めています。

【「サ行」の言葉の例】
そうなんだね、それでどうしたの、すばらしいね、知れてよかったよ

【「ダ行」の言葉の例】
だめだよ、だから言っただろ、どうせできないよ、でもさ

パートナーの話を傾聴する姿勢が大切(画像はイメージ)

こんなことで本当に夫婦関係が変わるのかと思うかもしれませんが、実際の加害者は「ダ行」の言葉を本当によく使います。「サ行」の言葉を使いこなせれば、パートナーは「聞いてもらった」という感覚になれ、価値観の共有にもつながるでしょう。


ーー加害者になりそうな人に呼びかけたいことは?

加害者の多くは「自分は間違っていないという思い」があるので、被害者の心の傷などには関心を持っていません。まずはパートナーに関心を持ち、表情などを観察してほしいですね。

パートナーや子供は「自分の所有物ではなく、最も身近な他人」と考えてほしいです。実際の加害者は、実は他人には礼儀正しかったり、外ではリーダーシップを発揮して尊敬されている人も多いです。しかし、家庭でもそうしたリーダーシップを優先すると、DVにつながることもあります。パートナーや子供は、対等な他人と考えてほしいですね。

ステイホームの環境は夫婦仲を見つめ直す機会にもなる(画像はイメージ)

身体的暴力だけではなく、態度や表情などによる精神的暴力の積み重ねがDVにつながってしまうこともあるようだ。

コロナ禍で一緒に過ごす時間は増えるだろうが、被害者になりそうな人は一人で抱え込まないこと、加害者になりそうな人は行動や言動が相手を追い詰めていないか、今一度、意識してみるべきかもしれない。

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