手足が震え、歩くことが困難になる難病「パーキンソン病」。その治療薬の多くが富山で製造されていることをご存知だろうか。いま、その供給に黄色信号が灯っている。国会でも取り沙汰されたパーキンソン病治療薬の問題。現場を取材すると、製造原価すら下回る薬価制度の歪みと、それでも製造をやめられないメーカーの葛藤が浮かび上がってきた。

「忘れると、ガーっと落ちてしまう」
富山市に住む高木睦子さん(82歳)は、週3日、富山市八尾地区のデイサービスに通っている。この日は送迎の車から玄関までのわずかな距離を、自力で歩くことができなかった。

「私の病歴も長くなったからね。やっぱり車イスにしようか」
高木さんは20年以上前にパーキンソン病と診断された。パーキンソン病は、脳内の神経伝達物質であるドーパミンが減少することで、手足の震えや筋肉の硬直といった運動障害が起こる進行性の病だ。厚生労働省が3年前に実施した調査では、全国に約25万人の患者がいると推計されている。


高木さんは1日5回、決まった時間に治療薬を服用している。飲み忘れは許されない。
「人が来たり用事があると忘れる。忘れるとガーっと落ちてしまうから上げるのが大変。だから忘れないようにいつも薬のことを考えている。私が生きていく上であの薬がないと生活できない」

薬が日常生活そのものを支える命綱になっている。
国会で指摘された「供給困難」の懸念
今年3月の衆院予算委員会で、国民民主党の長友慎治衆院議員がこう指摘した。

「パーキンソン病の治療薬で、重要な役割を果たす医薬品、レボドパ・カルビドパ配合錠、いわゆるドパコール配合錠というものがあるんですが、9割のシェアを引き受けようとしている会社が、ドパコール配合錠をつくり続けることが困難な状況になっている」

このドパコール配合錠を製造しているのが、富山市の医薬品メーカー「ダイト」だ。現在75%のシェアを持ち、来月には先発品メーカーが販売を中止するため、シェアが9割にまで上がる可能性がある。
なぜ、それほどのシェアを持ちながら製造継続が困難になるのか。その答えは、日本の薬価制度の構造的な問題に行き着く。
「ババ抜き現象」と呼ばれる薬価の歪み
ダイトの松森浩士社長は、現状をこう説明する。

「通常の経済原則が働けば、製造原価に利益を乗せて売るのが当たり前だが、日本の医療用医薬品に関しては薬価制度で全くそういったことが加味されていない。長く使われている薬は基本、薬価改定でどんどん下がり続けていく。その果てにどこかで製造原価を割る現象がどうしても起きてしまう。私はババ抜き現象と呼んでいる」

医療用医薬品の価格は国が定めており、医療費削減などを目的に毎年改定が行われている。ドパコール配合錠の薬価を見ると、その実態は明らかだ。当初1錠64円40銭だったものが、10年前には11円60銭に。そして現在はわずか7円90銭にまで引き下げられている。
採算が悪化したメーカーは次々と撤退し、現在製造しているのは4社のみ。松森社長が「ババ抜き現象」と呼ぶように、シェアの小さい会社が次々と離脱し、残った会社に負担が集中していく構図だ。
「ある程度シェアを持っていて責任を果たしている会社にシェアが乗っかってきて、小さいシェアで採算が悪い会社はどんどんやめていく。ひとつの会社にどんどん負担がかかっていく。ドパコール配合錠の場合は最たるもので、先発品メーカーすらやめていく」
赤字でもやめられない理由
経営的に見れば、採算の悪い製品ラインを高付加価値のものに切り替えるのが合理的な判断だ。しかし、ダイトにはそれができない事情がある。

「もしドパコールを杓子定規にやめて高付加価値のものに製造ラインを置き換えることができれば、経営的には改善の方向に向くが、我々は医薬品に責任をもっているので、赤字だからと言ってやめる、しかも75%の患者が頼っているという製品をやめるという選択肢は赤字であっても事実上ないというのが現状」

ダイトでは製造販売する122品目のうち27品目、約2割が薬価引き下げによって不採算の状態にある。中東情勢などによる物価高騰が医薬品メーカーにも影響を与えているが、薬はそう簡単に価格転嫁できないのが現状だ。
松森社長は、ドパコール配合錠について「不採算品再算定」の対象として薬価引き上げを国に求めるとともに、薬価制度そのものの見直しが必要だと訴える。
「これはドパコールだけの話ではない。氷山の一角。慢性期の病気で薬に頼っていかなければいけない種類の薬もあって、患者さんにとっては命綱。そういう薬はたいてい古くて、今の日本の薬価制度だと逆相関のように(需要があっても)必ず下がっていく。この仕組み自体をどこかで変えないといけない」
「パーキンソンパンデミック」に備えるために

高木さんが通う「デイサービス地球の子」の中川美佐子代表も、薬の安定供給に強い危機感を抱く。
「これからはパーキンソンパンデミックが起きてくると言われているので、パーキンソン病の方が増えると思う。大切なお薬がないというのはライフラインなので、そうじゃないような状態をつくってもらわないと困る。本当に動けないので。動けるような薬がないと皆さんの生活がうまく回らないですよね」

患者の命綱となっている薬を守るためには、制度の見直しが不可欠だ。毎年の薬価引き下げが続けば、ダイトが直面している問題は他のメーカー・他の薬にも広がっていくことになる。富山から全国へ届けられる薬が、今後も安定的に供給され続けるかどうか。薬価制度改革への国の対応が注目される。
(富山テレビ放送)
