「忘れないで欲しい。韓国が我々と一緒に戦った同盟国であることを。」

数年前、約束を守らない彼の国の肩をどうしてそんなに持つのか苦情を言った筆者に対し、知り合いのアメリカ国務省外交官がかなり強い調子でこう釘を刺したのを今でもはっきりと覚えている。

確かに朝鮮戦争やベトナム戦争で韓国はアメリカと共に戦った。だが、それが21世紀の今でもこれほど大きな記憶として残っているのは意外でしかなかった。

この外交官氏は今でも現役である。

氏は、慰安婦を巡る日韓合意で、渋る安倍政権を水面下で説き伏せ、朴槿恵政権に歩み寄らせたアメリカの担当チームの一員でもあった。

時のアメリカ政府はオバマ・バイデン政権だった。その外交チームにいた面々が次期政権の外交を担うために再び政府に戻る可能性が高い。バイデン外交を占うに当たってはこれを考慮に入れるのが自然である。

報道によれば、韓国政府は早速バイデン陣営に接触すべく使者を送ったらしい。安倍前総理がかつてそうして成功したように次期大統領にいきなり会うことは難しいだろうが、日本政府もうかうかしていられない。

勝利宣言をしたバイデン氏
この記事の画像(6枚)

菅政権に対韓国政策で厳しい判断を迫る局面も

アメリカ国務省の元シニア外交官で香港総領事や在日米国大使館のDCM(=首席公使)を務めたカート・トン氏は、隔月刊誌「外交」第63号に寄稿し、バイデン政権の対日政策のプライオリティーについて以下のように予想した。念の為、申し添えるが、トン氏は上記の外交官ではない。

「バイデン政権下の米国が、日本に求めると予想される政策」は
「緊密なコミュニケーションとチームワークで、地域およびグローバルな外交や経済政策に関する重要課題に対応すること」
「中国が行使する圧力に対峙するため、日本に実質的軍事力の増強で貢献するよう、防衛費増額を要請する」
「米軍基地維持費の問題を素通りすることは無いが、むしろ、最新防衛システムの導入をより強く要求する」
「オバマ政権下の副大統領として推進した時のように、日韓関係改善を日本に強く求める。」これを「日本の政策決定者は念頭にいれておくべきだろう。」
 

菅政権に対韓国政策で厳しい判断を迫る局面も

つまり、バイデン政権は、日本に対し、
・同盟関係の強化を実質的な行動でも実現すること
・中国に対抗する為、米国製最新防衛システムを購入すること
・日韓関係を改善すること
を求めるという。

しかし、韓国への安易な妥協は日本の世論が受け入れない。

少なくとも韓国に約束を守らせる何らかのメカニズムが必要になるのだろうが、いずれにせよ、対韓国政策という点ではバイデン政権が菅政権に厳しい判断を迫る局面がやってくると覚悟すべきだろう。

対北朝鮮政策が“圧力一辺倒”になることも考えにくい

次に対北朝鮮政策について考えてみる。

現地時間で先月22日に開催された候補者同士による最後の討論会で、バイデン候補は金正恩委員長を何度か「悪党=A Thug」呼ばわりした。バイデン政権は、非核化を求めて北朝鮮への圧力を強めることになるだろうし、対する北朝鮮は大陸間弾道ミサイルの発射実験を強行するなど新たな挑発行動に出る可能性が高くなると言えるかもしれない。

北朝鮮 金正恩委員長

ただし、だからと言って、圧力一辺倒になることも考えにくい。

トランプ大統領のようにビッグ・ディールをいきなり求めるようなことはないだろうが、圧力を強めつつ、実質的な非核化交渉に持ち込もうとする努力は続けるだろう。

バイデン氏の外交チームの主要メンバーに北朝鮮問題に詳しくないという人は入らないと予想されるのだが、北朝鮮への圧力と日米韓の連携を強化する意味でも、日韓の和解は必要と彼らは考えているのだろう。

中国との“戦略的競合”は長く続きそう

次に、対中国に移るが、バイデン氏は討論会で「ルールを守らせる」と断言した。

ワシントンでは党派に関わらず、中国への見方は非常に厳しいものがあり、前出のトン氏によれば、何かを得るために別の何かを譲るというような「トレードオフで解決できるイシューはほとんどないし、そうした解決方法は理にかなわない」とバイデン氏も理解しているという。中国のその手には乗らないということだ。

更に、トン氏によれば、バイデン氏のブレーン達は、対中国政策の基本的な考え方として、
・同盟国およびパートナーとの緊密な協力関係を構築する
・経済関係の優先課題においては達成可能な目標に注力する
・技術面の競争では透明性が高く効果的な解決策を目指す
・インド太平洋地域で確固たる軍事プレゼンスを維持する
・国際機関で主導的な役割を果たす
・新疆と香港の危機的状況を踏まえ、米国的価値と人権擁護を推進する
・中国によるプロパガンダを封じ込める
ことを強調しているという。

中国 習近平 国家主席

トランプ大統領のように時に身勝手で突拍子もないことをすることは無いが、中国には厳しく対処するという大方針自体に変わりはないようである。

“新冷戦”とまではいかないが、中国との“戦略的競合”は、アメリカで誰が大統領になろうと、長く続きそうだ。

また、バイデン政権は早々にパリ協定とWHOには復帰すると衆目は一致する。だが、TPPは一筋縄ではいかないらしい。筆者のメールでの問い合わせに対し、トン氏は「バイデン氏本人はTPP復帰を望んでいる。しかし、今回の勝敗を分けた中西部のラストベルトの反応を考慮すると、民主党内から当面同意を得られないだろう。」と予想している。

カート・トン氏の寄稿からは、本人の許可を得た上で、多くを引用した。感謝したい。

大統領選の今後は…

最後に選挙の話に戻りたい。
もううんざりと思う方はここで読了していただきたい。

長年の共和党員ながら今回はバイデン支持に回った選挙専門家のジョン・ガードナー氏は「トランプ陣営が仕掛けた法廷闘争はほとんどのケースが比較的早めに却下され、成功しないだろう。」

「法的にはウィスコンシン州やジョージア州は再集計になるだろうが、例えばウィスコンシンの約2万票差がひっくり返ることは無いだろう。2000年のフロリダ州の再集計は、ウィスコンシンよりずっと大きな州なのに537票差しかなかったのを思い出すべきだ。」という。

ちなみにガードナー氏は弁護士資格を持つ法律の専門家でもある。そして「連邦最高裁が選挙結果全体をひっくり返すことはほとんど考えられない。」

「だが、トランプ大統領が敗北宣言を近く行うことは正直言って期待していない。このまま敗北を認めないままかもしれない。」という。負けを認めない可能性については前出のトン氏も同様に諦め気味だ。予断は出来ないが、さもありなんである。

8日 2日連続でゴルフをするトランプ大統領

また、各種世論調査が今回も情勢を読み違え、大接戦を予想できなかったのは「土壇場で態度を決めた有権者が、例年に比べれば比較的少なかったとはいえ、それなりの人数だった。しかし、各種調査は、その態度未定の有権者の多くがトランプ氏に投票する可能性を正確に読み込めなかった。それが原因の一つだろう。」

さらに「世論調査の質問項目が多く長くなり、進んで真面目に回答してくれる有権者が減ってしまった」ことがより大きな誤差を生んでいる。調査モデルを再考すべきという。

大統領選挙と同時に実施された連邦議会選挙でも、世論調査の予想と異なり、共和党が大善戦していることにも留意すべきだろう。女性やマイノリティー出身の候補の奮闘が目立つという。

この議会との関係でいえば、上院議員歴36年というワシントン政界の大ベテラン・バイデン次期大統領が、あくまでもケースバイケースだろうが、共和党とも上手くやっていけるのか、お手並み拝見でもある。上院の同意を得られなければ閣僚・省庁幹部人事でいきなり躓くことになる。

共和党にはトランプ支持者が非常に多い。特に州レベルの組織でそうなっているという。敗れたとは言えトランプ大統領の7,000万超えという得票がそれを如実に物語っている。

日本が長年頼りにしてきた共和党の穏健派や国際派が党内の主導権を再び握るのは容易ではないらしい。2024年の共和党がどのような姿になっているか、楽観できないようだ。

【執筆:フジテレビ解説委員・二関吉郎】