長野県御代田町の里山に2025年夏、パン店がオープン。店名は「グーテ・ラウネ」。ドイツ語で「ご機嫌」を意味する名の通り、店を訪れた人は笑顔になって帰っていく。店主はドイツ出身のマリアさん。10年前来日した彼女がなぜ信州でパン店を始めたのか。物語は一つの思いから始まっている。
「故郷のパンが恋しくて」夢を形に
マリアさんの本名は、吉田・デイコフ・マリアさん。
10年前、来日してすぐに故郷のパンが恋しくなったが、当時は本格的なドイツパンがなかなか手に入らず「自分で作らないと」と思ったのが始まりだという。
最初は趣味として作り始めたライ麦パンだったが、奥が深くとても楽しいと感じるようになり、「いつか店を持てれば」という夢を温め続けた。
現在は、建築士の夫が建てた店舗で、週2日だけ店を開いている。
一人で切り盛りする小さな店には、地元の常連客が集まり、「いつも全種類買って帰る」という顔なじみも現れた。
吉田・デイコフ・マリアさん:
「自分の好きな味をお客さんとシェアできて、話ができて、もう本当にとっても楽しいです」
ライ麦100%は「おにぎりのご飯」
グーテ・ラウネが誇るラインナップの中で一番人気なのが、ライ麦100パーセントのパン。
吉田・デイコフ・マリアさん:
「なかなか日本では手に入らないようなドイツパンってなると、ライ麦の配合が多いもの」
客の要望から生まれたという、ライ麦100パーセントは今や店の看板商品に。
薄くスライスして食べるこのパンは、しっとりとした食感にライ麦のうまみと香ばしさが広がり、外側はサクサクとした食感が心地よい。
マリアさんはこのパンを「おにぎりのご飯みたいなもの」と表現する。
吉田・デイコフ・マリアさん:
「基本的におにぎりでおいしい具は、このライ麦パンもおいしい」
昆布も明太子も、残ったパスタのソースも合うという。
「何を乗せても負けない」という懐の深さが、このパンの最大の魅力といえる。
特徴的な製法 8年継ぐ自家製酵母
マリアさんのライ麦パン作りには、2種類の特徴的な製法が取り入れられている。
一つは「湯種」と呼ばれる製法で、もちもちとした食感やしっとり感を長く持続させるために用いられている。
もう一つは、8年間種継ぎをしている自家製酵母を生地に加えること。
こうした手間を惜しまぬ積み重ねが、軽やかな食感と深い味わいを生んでいる。
ライ麦50パーセントのパンはプレーンのほか、くるみ、レーズンなど実が入ったものも。
スープ系の料理には、「ライ麦100パーセントよりライ麦50パーセントを合わせるのがおすすめ」と、マリアさんは食べ合わせのアドバイスも惜しまない。
カマンベールチーズとはちみつを合わせると、ライ麦の風味がライトに感じられ、食べやすさが増す。
「私のためのものをここで作っています」
「グーテ・ラウネ」では、ライ麦パン以外にも本場ドイツの味を表現した商品が並ぶ。
甘さ控えめのシナモンロールは、マリアさん自身がおやつによく食べる品で、プレッツェルも本格的なドイツの味わいを大切にして作られている。
吉田・デイコフ・マリアさん:
「私のためのものをここで作ってます。私これがもう大好きで、おいしいからみんな食べてください、という感じ」
自分が本当においしいと思うものを作り、それを人と分かち合う喜びが、このお店の原動力になっている。
試食用を用意して、客にパンの味を知ってもらうことを大切にしているマリアさん。
吉田・デイコフ・マリアさん:
「お客さんとの接することが、大変楽しい時間になってます」
店を持つ前には想像もつかなかった喜びが、今のマリアさんを動かしている。
新たな夢「ライ麦粉を御代田産に」
オープンから約10か月。
地元の客や常連客を中心に、「グーテ・ラウネ」はじわじわと存在感を高めている。
常連客:
「毎週通わせていただいてます。マリアさんに会いに来てます」
小さな店が地域に生み出しているにぎわいと笑顔は、本物だ。
マリアさんには近い将来への夢がある。
吉田・デイコフ・マリアさん:
「一番最初は、やはりライ麦粉を御代田産のものにしたいなと思ってます、近いうちに」
故郷ドイツへの郷愁から始まったパン作りが、今度はこの土地の恵みと結びつこうとしている。
静かな里山に吹く新しい風は、少しずつ、しかし確かに、この地域の景色を変えていこうとしている。
※この記事は、2026年4月10日にNBS長野放送でOAした「フォーカス信州 DJ KOOの軽井沢パン DO DANCE」をもとに構成した内容です。(全3回の記事その3)
