声でなくとも、心の中の言葉が届く。沖縄県名護市に暮らす福知由菜さん(18)は、介助者の手のひらに指先でひらがなを書く「指談(ゆびだん)」というコミュニケーション方法で、自分の思いを伝えている。この春高校を卒業した由菜さんは新たな目標を見据える。

指で伝えるコミュニケーション

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由菜さんには重度の知的障害があり、小学6年生の時に受けた発達検査では「1歳5ヶ月」と診断された。発話やジェスチャーによる意思疎通も難しく、自分の思いを誰かへ届ける方法を長い間持てずにいた。

そんな中で出会ったのが指談だった。

介助者の手のひらに触れ、指先でひらがなを一筆書きするように動かすことで言葉へと変換する指談は、手話や点字と同様に、声による対話が難しい人が用いるコミュニケーション方法の一つだが、社会的な認知度はまだ低い。

由菜さんはお母さんの里恵さんとともに指談を身につけてきた。

体をコントロールすることが難しい由菜さんは「興奮すると体が寝転んだりするから どう見ても嫌がっている風にしか見えなくて 困っています」という。

お母さんの里恵さんが興奮してしゃべり過ぎると、由菜さんはすかさず指談で反応する。

2人のやりとりにはどこかユーモアがあって、指先の文字が生き生きと機能していることを実感させる。手のひらに書かれた一文字一文字に、由菜さんの確かな意思がある。

「ゆい教室」での高校生活

由菜さんは那覇市にある真和志高校の「ゆい教室」に通っていた。障害を持つ生徒とそうでない生徒が共に学ぶクラスだ。

学校は由菜さんにとって「情報がいっぱい入ってきてしんどい」場所でもあるが、同時に「友達に会ったり先生と一緒に勉強するのはとても楽しい」場所でもあった。

担任の國吉真平さんは由菜さんに寄り添い続けた一人だ。何を言いたいか、何を訴えたいかに向き合い、本人が「できる」と選択したことを全力でサポートしてきた。何に取り組むにおいても、「諦めないのは由菜さん自身」と國吉さんは語った。

肌寒い1月の放課後、由菜さんはSUP(スタンドアップパドルボード)に乗っていた。12歳から続けているこの習慣は、海の上という解放された空間で由菜さんを自由にする。浜に上がってきた由菜さんのひと言。

「カッコいいでしょう」

サポートしていた新里彩さんはその言葉を受け取って、笑顔になった。

疑念の壁

手話や点字と違い、指談は社会的に確立された伝達手段として広く認められてい。そのため「介助者が当事者の意思を正確に伝えているのか」という疑念を持たれることがあるという。

由菜さん自身、指談での発信を「本当は書いていない」と否定されることがあると明かす。

「社会にとって 由菜たちがどんな風に思われているかを考えるとすごく辛くなります だから最近は考えないようにしています」

それでも、由菜さんの周りには信頼できる仲間がいる。

由菜さんが「師匠」と慕う金城太亮さんは、脊髄性筋萎縮症(SMA)という難病を患いながら、訪問介護事業所やフリースペースを立ち上げて運営してきた。金城さんは指談で由菜さんの指談に関心を寄せ、普及に取り組もうと声をかける。

「指談が手話のような言語になればいいなと。頑張りましょう一緒に」(金城さん)

その言葉を受けた由菜さんは、指談でこう返した。

「感動して由菜は もう無理だから 帰ろうと思います もう私は崩れ落ちそうなくらい感動しています」

もっと生きやすい社会に

2026年春、由菜さんは高校を卒業した。教室に入ることから精一杯取り組んできた3年間の終わりに笑顔が溢れた。

18歳の誕生日には、大切な人たちに囲まれてお祝いをした。由菜さんが指先で綴った言葉は「18歳になりました。障害児を卒業して障害者になります」。

ユーモアとも、宣言ともとれるその一言の中に、由菜さんの覚悟がのぞく。

これからの目標は、沖縄で指談を広めること。

由菜さんは既に指談の普及活動を行う東京のNPO法人に所属しており、現在は沖縄での団体立ち上げを目指している。

「喋られないから 分かっていないと思われている人が 沢山いるから 沢山の人が (指談を)できるようになると もっと私たちは生きやすくなると思います」

沖縄テレビ

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