南国・土佐の夏を熱く盛り上げるよさこい祭り。2026年は、踊り子たちに欠かせない「鳴子」と「衣装」の製作現場が、かつてないピンチを迎えている。遠く離れた中東情勢の混乱が、高知の祭りを大きく揺るがしているのだ。その現場を取材した。
鳴子の塗料の原料が足りない…
高知市にある「小高坂更生センター」は、社会福祉法人が運営し、障害のある人たちが働いている。年間約5万組の鳴子を製作し、本来なら8月の本番に向け作業がピークを迎える時期だ。しかし現在、塗料を使うカラー鳴子の受注をストップせざるを得ない状況に追い込まれている。
その理由は、塗料の希釈や機械の洗浄に欠かせないシンナーの不足だ。記者が取材した現場では、一斗缶から出したばかりの塗料は粘りが強く、そのままでは吹き付けができない状態だった。この塗料にシンナーを合わせて滑らかにしたものは、下塗り作業にも使用される。このシンナーの原料が、石油由来のナフサである。
中東情勢の混乱で供給が滞り、施設によれば3月下旬、小売業者から「4月はシンナーを1缶しか出せない」と宣告されたという。1缶で製作できる鳴子は約500組であり、この先の調達も極めて困難になった。
使用する塗料を水性に変更する案もあったが、働く人たちにとって長年やり慣れた作業を急に変えることは戸惑いも大きく難しい。そのため、カラー鳴子は3月下旬までの注文分で打ち切り、商談が進んでいたチームの注文も断るという苦渋の決断を下した。
原料不足のなか、代替案とは
現在、施設が代替案としてチームに提案しているのは、白木にプリンターや焼き印でデザインした鳴子だ。木工部参事の友村正子さんは、「『これが今年のよさこいよ』『こういう年もあった』『白木で踊るのもいいんじゃない』という声もいただいて助かっている」と語る。
しかし、受注の大幅な減少は、障害のある人たちの工賃をどう確保するかという深刻な問題に直結する。友村正子さんは「鳴子があっての小高坂更生センターなので、注文が減ると収益は激減し、働いている人の収入に直接影響してくる。少しでも注文してもらえるとありがたい」と切実な思いを口にする。
塗料だけではない。その影響は「衣装」にも…
一方、踊り子の個性を彩る衣装の製作現場も悲鳴を上げている。衣装のデザインから製作までを一貫して手がける「ドリーム・カンパニー」では、年間を通して県内外から約30チームの注文を受けている。上着やパンツだけでなく、帯飾りや帽子などもセットで製作し、例年4月から7月にかけて作業のピークを迎える。
しかし、記者が取材した同社の机には、もう発注できない生地のサンプルが置かれていた。波をデザインした白い生地などは、中東情勢の影響や機屋の高齢化により手に入らないという。衣装に使う素材の多くは石油由来のポリエステルで、近年はうっすらときれいな柄が浮かぶ高級感のあるジャカード織りの生地が人気だが、2026年は無地の生地すら手に入りづらいケースが出ている。
3月にはメーカーから「納期が今までのようにいかなくなるかもしれない」との連絡が入った。伊与田梓社長は、「もう本当に資材から生地から、全て値上がりをしている。なかなかここまで『納期を約束できませんよ』と言われることはなかったので、厳しい状況になっている」と危機感を募らせる。ここ数年は、マジックテープや服の芯といった資材も高騰し、作り手に追い打ちをかけているのだ。
生地の納期が分からない中では、縫製自体が進められず、チームから注文を受けるわけにもいかない。そのため、まだ衣装のデザインが決まっていないにもかかわらず、生地だけをあらかじめ確保するチームや、希望の生地が手に入らず別の生地への変更を余儀なくされるケースも起きている。
さらに衣装作りにおいては、新型コロナウイルスの影響で工場が閉鎖したケースもあり、縫製の担い手不足と高齢化という長期的な課題も年々深刻さを増している。伊与田社長は「できる限りチームの希望に沿えるように精いっぱい頑張りたいが、在庫がない物に関しては変更をお譲りしていただくしかない。でも、いろいろなものを提案して満足してもらえる商品を仕上げたい」と前を向く。
思いでつながる「よさこい2026」
こうした事態に対し、踊り子たちの中にも新たな動きが生まれている。全国で約300人が登録する「須賀IZANAI連」では、新しい鳴子の調達がかなわなかったため、保管していた古い鳴子を活用することにした。
ひとりでも多くの踊り子が舞台へ立てるよう、状態のよい鳴子を新メンバーに使ってもらい、かつて所属していた人が自分の鳴子を持ち寄る温かい支援の輪も広がっている。国友裕一郎代表は「いろいろな方々が思いを込めて大切に守り続けてきたよさこい鳴子踊りを絶やさないことに重きを置いて活動を続けていきたい」と語る。
物価高や担い手の高齢化、そして中東情勢のあおり。近年、生地は半年ごとに値上がりする傾向があり、メーカーも頭を悩ませている。これが参加費の高騰を招き、踊り子の減少につながれば、よさこい祭りの持続性さえ危ぶまれる事態になりかねない。
思いがけない試練に直面した2026年の夏。中東情勢の好転を願いながら、祭りを支える人たちの思いと工夫が結集し、新たな歴史を刻もうとしている。
