松江城の「令和の大修理」 当初14.5億円から29億円に

春の観光シーズンを迎えた島根・松江市。晴れ渡った空のもと、松江城には台湾や愛知から訪れた観光客の姿があった。
「国宝の五城をコンプリートです」と笑顔で話す旅人の目線の先には、約400年前の築城当時の姿をそのままに残す天守がそびえている。
だがその城を巡って、松江市の行政は重大な局面を迎えていた。

松江市の上定市長は、4月21日の定例記者会見で、「14.5億円が倍の29億円ということで想定している」と述べ、2027年6月に開始予定の「令和の大修理」の総事業費の見通しを明らかにした。わずか半年前に示された当初見込みの2倍に膨らむ見込みだという。
明治、昭和に続き約70年ぶりとなる大規模修理は、想定をはるかに上回る難事業へと姿を変えつつある。

ドローンによる調査で見えた想定外の傷み

なぜ、これほどの「上振れ」が生じたのか。
その第一の要因は、詳細調査によって明らかになった破損の深刻さにある。

最上階の屋根に構えられた「五重妻面(ごじゅうつまめん)」。
天守を象徴する装飾品の一部が失われていたという。
城内では雨漏りも確認された。屋根瓦の一部が浮いて隙間が生じているという。
こうした破損箇所は、ドローンによる詳細な空中調査の結果、初めて全容が把握された。

この発見が、工事の規模を根本的に変えた。
瓦を全て取り外したうえで、一枚一枚点検・修理する工程が必要となり、当初9億5000万円と見込んでいた工事費は約1.8倍の17億円へと膨らんだ。
「修理場所が増えた」という一言の裏には、築400年の城が抱える傷の深さがあった。

ドローン調査で確認された屋根飾りの欠損箇所
ドローン調査で確認された屋根飾りの欠損箇所
この記事の画像(6枚)

物価高騰と工期延長が「ダブルパンチ」…守るほどに膨らむコスト

工事費の増加だけではない。
もうひとつの要因が、昨今の物価高騰と、それに伴う工期の延長だ。

当初3年間(2029年度まで)を予定していた工事期間は、3年7か月へと延びる見通しとなった。
上定市長は「物価高の影響は大いに受ける」と率直に認める。
工期の延長は維持管理費の増加を直撃し、当初見込みの2.4倍にあたる12億円に達する試算だ。
工事費17億円と合わせると、総額29億円という数字が浮かび上がる。

工事費の膨張と物価高騰という二重の逆風が、松江市の財政計画を根底から揺るがした格好だ。

松江市・上定市長
松江市・上定市長

「中途半端な修理になっては本末転倒」 国宝を次世代へ

上定市長はこの状況を前に「コストをかけずにやっていきたいというのはあるが、中途半端な修理になっては本末転倒なので、市民のご理解をもらったうえで議員のみなさんと検討を進めていきたい」と述べた。

費用を圧縮したい思いと、国宝を次の世代に伝える責任との間で揺れる言葉だ。
その覚悟は、市が2026年度中に事業費の予算案を市議会へ提出する方針からも見て取れる。

観光客からは「いろんな物が上がっている最中なので、長い年月で見るとやむを得ない」と理解を示す声も聞かれた。
しかし一方で、地元の松江市民からは「当初の見積りが甘かったのかなとか、透明性がはっきりすればみなさん納得されるのでは」と、率直な疑問も上がっていた。
丁寧な説明と情報公開を求める声は、事業の行方を左右する重要な要素となる。

別名“千鳥城”とも呼ばれる姿の美しさも高評価受ける松江城
別名“千鳥城”とも呼ばれる姿の美しさも高評価受ける松江城

松江城修理費29億円を支える資金確保の道筋は―

29億円という巨額をどう賄うのか。
市はいくつかの手を打とうとしている。

まず工事費17億円については、国と県から最大4分の3の補助が可能とされている。
また工期の約8割にあたる2年11か月間は、天守を一般開放し続ける方針で、7億8000万円の登閣料収入を見込む。
さらに、企業版ふるさと納税などを活用した寄付による基金を、6億円積み立てることを目標に掲げる。

すでに松江市内の企業・藤原技研工業の藤原陽吉会長は「松江の大きな宝、財産であるので、これは我々が守っていかないといけない」と語り、100万円を寄付した。
市民・企業の共感を形に変えようとする動きは始まっている。

しかし記事執筆時点での寄付額は2100万円に留まっており、目標6億円への道のりは険しい。
取材した記者が「寄付集めはこれからという状況」と伝えるように、支援の輪をどこまで広げられるかが事業の成否を左右する。

藤原技研工業・藤原陽吉会長
藤原技研工業・藤原陽吉会長

70年ぶりの修理が問うもの 29億円の重みと市民理解

全国に5つしかない国宝の城のひとつとして、松江城はこれまでも大切に守られてきた。
その天守が今、時代の重みと費用膨張という現実を同時に背負っている。

29億円という数字の大きさは、単なる予算の問題ではない。
築城から約400年を経た貴重な木造建築を未来へつなぐための問いかけだ。
市民の理解をどう得るか、透明性ある説明をいかに重ねるか。
「令和の大修理」は、工事が始まる前からすでに、その問いと向き合う段階に入っている。

多くの観光客で賑わう松江城周辺
多くの観光客で賑わう松江城周辺
TSKさんいん中央テレビ
TSKさんいん中央テレビ

鳥取・島根の最新ニュース、身近な話題、災害や事故の速報などを発信します。