この春、各地で倒木が相次ぎ、自治体は緊急点検などで対応に追われています。
樹木の安全を守るため需要が高まっているのが、木のお医者さん「樹木医」の存在です。

木の治療は恩返しと語る樹木医の思いと、街路樹先進国の取り組みを取材しました。

この春に倒木が相次いだ東京・世田谷区の砧公園。
4月26日、上空から様子を見てみると、至る所に規制線が張られていました。
ボール遊びをしている人も規制線の手前で遊んでいます。

園内に入ってみると、規制線のそばには「現在、樹木医による診断中です」「囲いの中は立入禁止とさせていただきます」という注意書きがありました。
大きな木が近くにあるため、ベンチも使えなくなっています。

公園の木をぐるっと囲むように張られた規制線。
子供たちの遊び場のすぐそばにもあります。

東京都は現在、園内の約5000本の樹木を対象に、樹木医による緊急点検を行っていて、安全が確保されるまで通行を禁止しています。

公園の利用者は「けがした方もいるから(点検すると)安心ですね」と話します。

樹木の状態を診断し治療を行うのが、木のお医者さん「樹木医」です。

倒木事故が相次ぐ中、樹木医の需要は高まっているといいますが、その道25年のベテラン樹木医は「重要なのは人間側の意識」だと話します。

樹木医・後藤瑞穂さん:
「心配だ」ということで、お客さまから問い合わせがある。私たち人間がしっかり管理することで良好な緑環境が維持できる。

継続的に樹木と向き合っていくことが大切だと話すのは、樹木医の後藤瑞穂さん。
なぜ、そう思うようになったのか、その仕事ぶりからひもときます。

後藤さんは町の天然記念物から個人の思い出の木まで、全国を飛び回り、これまで3000本以上の樹木の診断・治療を行ってきました。

樹木医・後藤瑞穂さん:
私たちは木のおかげで生かされている。緑陰をつくってくれたり、大気汚染を吸着してくれたり。私たちを生かしてくれてありがとうございますと恩返しの気持ちで治療している。

この日も毎年通い続けている寺で樹齢65年のソメイヨシノの花を1輪1輪確認していました。

樹木医・後藤瑞穂さん:
(花が咲くのは)お産だから、すごいエネルギーがいる。それが済んだら、今度は使ったエネルギーの分を補充してあげないといけない。

後藤さんの仕事は4月中旬、花が散ったあとから始まります。

樹木を診断する時に欠かせないのが、木の幹にぐるっと囲んで取り付けた音波診断機です。
音の伝わり方で木の内部の腐食具合が分かるという、いわば“樹木のCTスキャン”です。

樹木医・後藤瑞穂さん:
緑色の部分は初期腐朽だよね。茶色のこのあたりは健全な状態。

2年前の画像と比べ、腐食を示す緑色の部分が減り、大部分が健全を示す茶色に。
状態は改善していました。

樹木医・後藤瑞穂さん:
もうすごく理想的。よかったです。

診断のあとは治療。枯れ枝の剪定(せんてい)です。
切る場所を間違えると枯れてしまうため、剪定は桜の寿命を左右する重要な作業。

樹木医・後藤瑞穂さん:
(枝には)ちゃんと傷口がふさがる位置がある。深く切りすぎると、そこに菌が入って腐ってしまう。適切な位置で切ることは、ものすごく大事なんです。

対処療法としての剪定が終わると、本格的な治療が始まります。
欠かせないのがオリジナルの竹筒です。

樹木医・後藤瑞穂さん:
土壌の通気透水性をよくして、根の伸長を促す。土壌微生物も活性化する。

これは後藤さんが開発した土壌改良材で、竹炭や腐葉土などを配合したものを年に数回、土の中に入れることで、枯れが目立っていた5本の桜は命を吹き返しました。

依頼者は「桜が咲いたあとには栄養を入れなきゃいけないとは知らなかった。先生の指導でだんだん元気になってきた」と話します。

樹木医・後藤瑞穂さん:
管理は継続していかないといけないので、ずっとやっていくこと。(樹木を)危険にするのもしないのも、人間の向き合い方にかかっている。

人間の手で樹木を維持・管理する。
後藤さんは相次ぐ倒木事故の背景には、診断や治療を継続するという樹木管理者の意識が低いことにあると話します。

一方、樹木管理の先進国がフランスです。

パリ市は街路樹をデータ管理していて、樹木1本1本のデータをホームページに公開。
種類やいつ植えられたかなどの詳細のほか、伐採予定の樹木は赤色にするなど色分けもされています。

実際に赤色に記された樹木の場所に行ってみると、病気になっている樹木には、倒木の可能性があるとして、危険を呼びかける貼り紙が貼られていました。

住民は「こういった、木が病気であるなど、危険の呼びかけがあることはとても大切です」と話しました。

10年以上前から続いているこのシステム。
樹木の状態を公開し管理することで、パリの街路樹は守られています。

日本で25年以上、樹木の診断・治療にあたってきた後藤さんが今、力を入れているのが、樹木を次世代へつなげる活動。

この日、移植のため山形県から運ばれてきたのが樹齢200年を超える大木です。

樹木医・後藤瑞穂さん:
先祖代々伝わるキャラボクをずっと大事にされてこられたんですが、「自分たちが亡くなったあとも、この木が元気でいてほしい。どこか引き取ってくれるところはないか」と相談が来た。

古木の移植は難易度が高いため、後藤さんはこの日の移植に向け2年がかりで準備をしてきました。

クレーンで慎重につり上げ、移植。
樹齢200年の古木は、故郷から約400km離れた場所で新たな命をつないでいきます。

樹木医・後藤瑞穂さん:
樹木の治療が人を生かして、人も癒やして、人(の心)も治療していくと思っている。一本でも多くの木を助けていきたい。

そして、東京都は1日、緊急点検を行った公園や道路脇などの樹木約80万本のうち、全体の2%弱にあたる1万4000本ほどに異常が確認されたと発表しました。
今後は植え替えなどの対応を進めるとともに、AIを活用して、より効率的な点検を行う考えだということです。