思考を外注したら「負債」になる?

ここで注目したいのが、「認知負債(cognitive debt)」という考え方です。これは近年、MIT Media Lab を中心とした研究で広まった言葉で、AIなどに思考を外注することで、その場ではラクになる一方、自分で思考する経験が蓄積されにくく、自分で考える力への“返済”が後々必要になる可能性を示しています。

借金と同じで、少し借りる分には便利です。しかし、返済のことを考えずに借り続けると、いつの間にか重荷になります。AIも同様で、考える前に使っていたり、考えない手段として使い続けていると、

「考えるのは疲れる」
「自分でやるのはコスパが悪い」

という感覚が、知らないうちに育ってしまうかもしれません。

この「考えなくなるかもしれない」という懸念は、感覚的な話だけではありません。

MIT Media Labの研究者らによる査読前の実験研究では、文章を書く課題において、

・AIを使って書いた場合
・検索エンジンを使って書いた場合
・何も使わずに自力で書いた場合

を比較しています。

その結果、実験条件下では、AIを使用したグループにおいて、

・自己の文章への所有感が相対的に低い傾向
・思考プロセスの再生が難しい傾向
・認知的関与の指標が低い傾向

が観察されたと報告されています。

認知負債の3つの兆候
認知負債の3つの兆候

もちろん、この研究は査読前の小規模実験であり、まだ発展途上です。AI使用が長期的に思考力を低下させると断定するものではありません。

ただ重要なのは、「AIを使うと頭が悪くなる」という単純な結論ではなく、考える前にAIを使うクセがついてしまうと、そもそも考えることから遠ざかってしまうかもしれない可能性があるということなのです。

『「考える力」と「好奇心」をぐんぐん伸ばす AI×学び入門』(日経BP)

安井政樹(やすい・まさき)
札幌国際大学基盤教育部・教職センター准教授。文部科学省学校DX 戦略アドバイザー。デジタル庁デジタル推進委員。

安井政樹
安井政樹

札幌国際大学 基盤教育部・教職センター准教授。道徳教育および教育における生成A I 活用の研究に取り組む、A I リテラシーの第一人者。文部科学省学校DX 戦略アドバイザー。デジタル庁デジタル推進委員。
北海道・札幌市の小学校教諭として20年間勤務の後、2022年より現職。教育用AI「スクールAI」や「ClassCloud」、ARデジタル体育機器「DIDIM」の共同研究、NHK for School 番組監修など、教育とテクノロジーの両分野において実践的な研究を展開。JICA の技術協力としてカンボジアにおける「生成AI・ICT活用による教育DXや授業力向上にかかわる技術協力」プロジェクトのリーダーも務める。Interop Tokyo2025や、衆議院第一議員会館を会場とした教育AIサミットなどにも登壇するほか、児童生徒・教員・保護者などに向けたAI時代の教育のあり方やAIリテラシーについての研修・講演に力を注ぐ。近年の講演実績は年間150回以上、受講者は年間のべ1万以上。著書に『「考える力」と「好奇心」をぐんぐん伸ばす AI×学び入門』(日経BP)、共著に『ChatGPTと共に育む学びと心』(東洋館出版社)などがある。