高知県の職員3人が、実際には完了していない公共事業を「完了した」とウソの報告をして県に損害を与えたとして、県監査委員が先月、職員個人に損害賠償を求めるよう知事に勧告した。

このニュースを聞いて、不思議に思った。「なぜ、すぐにバレそうなウソをついたのだろう…」

しかし、調べてみると「職場でのウソ」は意外と多いようだ。仕事上のウソはリスクが大きいと思うのだが、なぜそうなるのか?人材育成・組織育成のプロ、株式会社エナジーソースの高村幸治氏に話を聞いた。

「ウソは特別なことではない」

【株式会社エナジーソース 高村幸治代表取締役】
私の会社が実施した調査では、「3人に1人が職場でウソをついたことがある」という結果が出ました。管理職と一般職、合わせて約300名を対象としたアンケート調査(複数回答)です。

ではどんなウソをついたのか?

一番多かったのは「仕事にかかった時間が実際より多いフリをした」です。約6割の方が該当しました。つまり「頑張って早く終わらせても、すぐ次の仕事が来るだけ。それなら急いで損をしたくない」という心理が働いているのです。

次に多かったのが「遅延している業務の進捗状況をごまかした」で約2割。三番目が「完了していない業務を完了したと報告した」で1割でした。

私が研修に携わる企業でも、「ウソの報告」は多くの管理職の悩みになっています。「職場でのウソ」は決して特別なケースではないのです。

人は“今”の痛みから逃れたい

人がウソをつくのには、3つのメカニズムが深く関わっています。

一つ目は「脳の仕組み」。人間の脳は「今この瞬間のトラブルを回避することを最優先する」ように設計されています。

「バレたら大変なことになる。だけど、今この瞬間の痛み…『なんで出来ていないんだ!』と怒られることから逃げたい」——そういう本能が、ウソをつかせてしまうのです。

行動経済学で『現在バイアス』と呼ばれる概念で、将来のことよりも目先のことを優先し、合理的でない意思決定をしてしまう心理傾向のことです。

日常生活でもよく見られます。

例えば虫歯になった時。「歯医者に行かなければいけないけど、今日はあまり痛くないから今度にしよう…」。先延ばしにすれば悪化するのは分かっている。だけど、とりあえず「今は治療による痛みから逃げたい」というのが脳の本能なのです。

人は自分の行動を“正当化”したい…

二つ目は『認知的不協和の解消』です。心理学者フェスティンガーが提唱したこの概念を簡単に言うと、「人は、ウソをついてしまった自分への嫌悪感(不快感)を和らげるために、その行動を正当化したがる」という心理メカニズムです。

一度、小さなウソをつくと、そのウソを正当化させるために「あれは仕方がなかった」と自分を納得させようとします。そうやって正当化できたら、次も同じようにウソをついてしまう。それを繰り返すうちに引き返せないほど大きなウソになっていくのです。

企業の不正などもそうです。入口は「今期だけ、少しだけ数字を調整しよう」という小さな間違った判断だったのが、積み重なり、取り返しがつかないことになってしまうのです。

「悪意のある人のウソ」より「善良な人の沈黙」が大ごとに

三つ目は、『集団的沈黙』です。

組織の中で、「自分だけが正直に話すと仲間を売る形になるのではないか」というジレンマが生まれます。

誰かがウソをついて、誰かが「まぁいいか」と黙認する。その連鎖の中で一人一人は「自分がウソをついている」という意識が薄れていってしまうことがあるのです。

複数の『組織行動研究』が示すのは、「悪意ある人物よりも、善良な人が沈黙したことで不正が起こるケースのほうが圧倒的に多い」という事実です。

「最初の報告」ですべてが決まる

部下が上司に「悪い状況を正直に報告できるかどうか」は、"最初の報告"の時にほぼ決まる——多くの管理職へのヒアリングを通じて、私はそう確信しています。

株式会社エナジーソース 高村幸治代表取締役
株式会社エナジーソース 高村幸治代表取締役
この記事の画像(3枚)

最初の報告というと、多くの場合、まだしっかりとした人間関係ができていない状態だと思います。勇気を出して「進捗が遅れています」と伝えた時に、「何で遅れているんだ」と責めるように言われたら、次から悪い状況を報告しづらくなるのも仕方がありません。最初が肝心です。

とはいえ、最初の報告という機会は非常に限られています。すでに良くない刷り込みが入っている場合はどうすればよいのか。

「部下が“自ら心を開く”環境を整える」ことが重要になってきます。

自分の失敗をさらけ出せる上司はカッコいい

私が会社員時代に体験したことです。仕事の失敗をどうやって報告すればよいか悩んでいた時、上司が昼食に誘ってくれて、何気ない会話からさらっと自分の失敗談を話してくれたのです。

それを聞いてハッとしました。そして、正直に報告したところ、上司は「話してくれてありがとう。どう挽回するか一緒に考えよう」と言ってくれました。

私の失敗に気づいていて、さりげなく「報・連・相」の大事さを伝えてくれたのです。

「自分の失敗をさらけ出せる上司ってカッコいい」。その時、強く思いました。

上司がまず自分の失敗をさらけ出すことで、部下にとっての安心感や共感を生む出発点となるのです。

「失敗の報告会」

「職場のウソ」の改善には、“心理的安全性”を確保することが重要です。これは、「失敗や懸念を正直に口にしても、責められたり排除されたりしない」と感じられる職場環境のことです。

ハーバード大学のエイミー・エドモンドソン教授が提唱し、Googleの組織研究でも注目された概念です。

ある企業では1週間に一度、「失敗の報告会」をしています。

社員の「こういう失敗をしてしまいました」という報告を受けて、「その失敗から我々は何を学べるか、仕組みをどう変えていけばいいのか」などを話し合います。

「社員の失敗は会社をよりよくするための支援になる」と捉え、“失敗を共有する文化”を会社全体で育んでいくことで、『ミスを恐れない安心感』が徐々に組織内に浸透していくのです。

「ありがとう」の積み重ねが組織のパフォーマンスを上げる

部下がどのような報告をしてきたとしても、最初に「報告してくれてありがとう」という感謝の言葉を伝えることは非常に重要です。

その時に、「報告してくれて助かったよ」「正直に教えてくれたから問題に対処できるね」など、部下が“自分の行動が評価されている”と実感できる表現を意識することも重要です。

職員3人によるウソの完了報告が発覚。県は謝罪会見を開いた(2025年10月)
職員3人によるウソの完了報告が発覚。県は謝罪会見を開いた(2025年10月)

相手を尊重し、感謝を伝えることの積み重ねが、『心理的安全性』の確保につながり、組織全体のパフォーマンスを上げることになります。

「報告してくれてありがとう」——このたった一言が、部下の正直さを守り、組織の不正を防ぐ最初の一手になると思います。
(株式会社エナジーソース 高村幸治 代表取締役)

取材: 高知さんさんテレビ