こちら、『沈み込んだ電柱』の画像を記憶している人も多いと思います。熊本地震の液状化被害です。県内で最も広範囲に液状化被害に見舞われたのが熊本市南区でした。

【今年3月・尾谷いずみキャスター】
「南区近見です。今は建物や道路も復旧し平穏な街並みを取り戻していますが10年前は全く違うものでした」

熊本市南区の近見1丁目から南高江2丁目付近では857戸が被災しました。地域のあちこちで地面から砂が吹き出し道路もガタガタに・・。地盤沈下が発生し住宅が傾くなどの被害に見舞われました。ここではその後、南北に3キロ、約40ヘクタールの面積で対策工事が行われました。

用いられたのは『地下水位低下工法』。地下水の流れを遮るため板状の鋼鉄の杭『矢板』を打ち込み、水を汲み上げて水位を下げる工事です。

ことし3月に開かれた有識者による23回目の技術検討委員会。

【2026年3月16日委員・市川 勉 東海大名誉教授】
「これで完了でいいと思います」

地域を8つに分けて行われてきた工事はいずれも効果が確認されこの日、工事の完了が委員会で承認されました。

熊本大学の北園 芳人 名誉教授は発災から10年での工事完了について「維持費も公費負担とし住民に求めなかったこと」などを要因に挙げた上で、こう述べました。

【2026年3月16日会長・北園 芳人 熊本大名誉教授】
「本当に液状化対策は難しいんです。他の(液状化)地域では(工事が)進んでいない所もあるが(熊本市と住民の)丁寧な対話によって住民の同意が得られたことが一番大きかったと思う」

専門家も言うように被災後の液状化対策工事は住民の同意を取るのが『難しい』とされていて、2011年の東日本大震災ではまだ完了していない地域もあります。

熊本市の工事完了のポイントは『維持費も公費負担』とし住民に求めなかったこと、そして『住民の同意が取れた』ことでした。

では熊本市ではどのようにして住民の同意を取ったのか、カギは『市と住民の対話』でした。

地震発生から4カ月、液状化の被災地でも建物の解体が始まっていました。

【2016年8月住民・荒木 優さん】
「スラム化していくというのは目に見えています。どうすればいいか分からんのです」
「このままでは地域が衰退してしまう」、自治会長を務めていた荒木 優さんは地元有志とともに行政へ支援を求めるため復興対策協議会を立ち上げ、話し合いを重ねました。

【2017年4月協議会副会長 荒木 優さん】
「私たちができる努力は限られている。やはり公的な支援がないとどうしようもありません」

【同日・大西 一史 熊本市長】
「公式に皆さんと対話をする時間が十分取れなかったことはおわび申し上げる」

その後、市は『地下水位低下工法』の導入を目指し、地区の公園で実証実験を行うことにしました。

熊本地震発生から2年が経過していました。

【2018年4月協議会・荒木 優 副会長】
「向こうは当たり前にやってても私たちからすると遅い。明らかに遅いと思う」

【2018年4月市震災宅地対策課・上野 幸威 課長】
「お時間がかかっているという話はお聞きしておりますけれどもやはり慎重に、地盤が見えない部分もありますので、探りながら今回の実験にこぎつけたと思っている」

当時、担当課長だった上野 幸威 さんは現在熊本市都市建設局のトップ、局長です。

【2026年3月市都市建設局・上野 幸威 局長】
「(荒木さん)一言一言の言葉が重いんですよね。やっぱり厳しかったというのは覚えております」

実証実験を始める際、当時の上野課長たちが始めたものがあります。

【2026年3月熊本市・上野 幸威 局長】
「このままでは(対策工事の)同意が取れないと思う時期があって『ちかみらい通信』を出して対話というか(読んだ住民から)連絡があったら(説明に)行くことを続けた。これが最終的に同意につながっていったのではないかと思っている」

『ちかみらい通信』は市が近見地区の住民向けにその時々の状況や工事の内容などについて伝えた小さな新聞のようなもので、回覧板で各世帯に届けました。住民との対話が進むきっかけとなりました。

【2020年1月復興対策協議会 荒木 優 副会長】
「(進むのは)いいことと思う。どういう工事をするのか皆さん興味を持っています

【2026年3月・荒木さん遺影】
住民の先頭に立って熊本市に苦言も呈した荒木さんは工事の完了を見ることなく2021年1月、胆管がんで亡くなりました。

【2026年3月・妻 淑美さん(76)】
「終わりましたよって伝えました。『良かった』とホッとしてると思います」荒木さんは地域を一軒一軒回って困りごとを尋ねていたといいます。

【2026年3月・妻 淑美さん(76)】
「どうしても困っている人を助けたいという気持ちだけなんですよね。(Qちかみらい通信は)皆さんに伝わるからありがたいことだと言ってました」

熊本市は最終的に約1000人に上る住民の同意を取り、液状化対策工事を完了することができました。

【2026年3月・上野 幸威 局長】
「伝えるだけでは進まなくて、やはり伝わるまで(説明を)続けなきゃいけない」

発災から10年での液状化対策工事完了は全国的に見ても先進事例として評価されています。

こちらが『ちかみらい通信』です。現在も発行が続いていて第95号まで発行されています。そしてこちらをご覧ください。

近見地区の人口・世帯数の推移です。熊本地震後に減少したものの対策工事を始めた2019年度以降増加傾向となっています。

確かに液状化対策工事が完了したといっても被害の軽減策であって、今後被害が起きないということではありません。

熊本市では新たに住宅などを建てる人にはリスクを伝え、個人での対策も行うよう呼びかけています。ここまで、熊本市の液状化対策の10年お伝えしました。

テレビ熊本
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