トランプ大統領は21日、イランが48時間以内にホルムズ海峡を完全に開放しなければ、「イラン各地の発電所を壊滅させる」と警告した。報復の連鎖で、エネルギー供給途絶が深刻さを増す可能性に、市場関係者は警戒度を高めている。

「在宅勤務や速度制限を」

中東からの供給懸念は一段と高まっている。原油やLNG価格には強い上昇圧力がかかり、先週、国際原油指標のWTI先物は1バレル=100ドルを超える場面が複数回見られたほか、アジア向けのLNG=液化天然ガスのスポット価格もロシアのウクライナ侵攻後の高値以来の水準をつけた。

IEA=国際エネルギー機関は19日、加盟国が合意した協調放出について、各国の予定放出量を明らかにした。合計4億バレルのうち、日本とアメリカで全体の6割に達する。一方で、IEAは、政府や企業、家庭が実施できるエネルギー節約策をまとめた提言を公表した。企業が在宅勤務を増やし、家庭では料理にガスによる加熱ではなく電気を使うよう勧めているほか、高速道路の速度制限や公共交通利用などを奨励し、航空機利用の抑制を対策として掲げている。

電気代は夏にかけ段階的に上昇か

日本では、ガソリンへの補助金が19日に再開された。16日時点の全国平均のレギュラーガソリン1リットルあたりの店頭価格は190円80銭だったが、30円20銭を補助し、170円程度に抑える。政府は、専用基金の残高を充てることにしていて、2025年度予算の予備費活用も視野に入れるが、事態の長期化で底をつく懸念が出てきている。

こうしたなか、電気料金は、夏にかけて段階的に上昇ピッチを強めていく可能性がある。

電気・ガス料金の補助金は3月で打ち切り予定
電気・ガス料金の補助金は3月で打ち切り予定
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まず、第一段階は、4月にやってくる。政府による補助金がなくなるのに加えて、太陽光や風力など再生可能エネルギーの普及のため電気料金に上乗せされている再エネ賦課金が引き上げられる。4月使用分から、低圧1kWhあたり月額1.5円の補助金が消え、3.98円だった賦課金が4.18円に上がることで、400kWhを使う標準世帯では月額680円、年間で8160円負担が増える。賦課金部分の負担は年間で2万円を超えることになる。

2026年夏は全国的に「平年より高い」予想
2026年夏は全国的に「平年より高い」予想

続いて、懸念されるのが猛暑の影響だ。気象庁は2月24日、2026年6~8月の天候見通しを発表した。この夏は、太平洋高気圧の本州付近への張り出しが強まり、気温は全国的に「平年より高い」予想で、ここ数年のように「猛暑」が続くおそれがある、とした。2024年の東京都の調査では、集合住宅に住む平均的な3人世帯の場合、電気使用量は5月に254kWhだったのが7月には434kWhに、戸建住宅だと290kWhだったのが513kWhに、それぞれ増える。猛暑により冷房需要が一段と高まり、電気代負担が大きくなることが想定される。

そして、追い打ちをかけるおそれが強まっているのが、LNG価格の高騰だ。LNGは火力発電の原料として使われ、電源構成に占める割合は、東京電力や中部電力では3割を超える。LNGの約2割は需給で決まるスポット取引で、約7割は原油価格に連動する長期契約で調達されている。大手電力の標準的な契約は、燃料の輸入価格に連動して毎月調整する「燃料費調整」を組み込むしくみが中心となっているが、原油やLNG高が時間差で波及し、夏ごろの使用分から電気代を押し上げる懸念が出ている。LNGは都市ガスにも使われ、ガス料金も同様に上昇していくことがあり得る。

新電力契約者への影響は

影響は、新電力と契約する消費者にも及ぶ可能性がある。

新電力は自前で発電所を保有していない企業も多く、新電力などが電力調達に利用するJEPX=日本卸電力取引所の全国平均のスポット価格は、LNG価格の急騰を受けて、18日受け渡し分が1kWh16.79円と、アメリカ・イスラエルによるイラン攻撃が開始された2月末の2倍を超える水準をつけた。新電力などと「市場連動型」契約を結んでいる場合、電気代が時間を置かずに上昇するケースも考えられる。2022年のロシアによるウクライナ侵攻などでエネルギー需給がひっ迫し、電力市場の価格が高騰した際には、ヘッジなしで市場調達に依存するなどしていた新電力が事業撤退などに追い込まれる事例も相次いだ。

アメリカ軍によるイラン攻撃(3月20日公開の映像より)
アメリカ軍によるイラン攻撃(3月20日公開の映像より)

アメリカとイスラエルによるイランへの攻撃からまもなく1カ月となるのを前に、市場関係者は、報復による事態の長期化を前提とした見方に傾きつつある。エネルギー調達リスクが、ガソリンに続き、電気ガス料金などに広範囲に及んでいく局面が一段と強まってきた。
(フジテレビ解説副委員長 智田裕一)

智田裕一
智田裕一

金融、予算、税制…さまざまな経済事象や政策について、できるだけコンパクトに
わかりやすく伝えられればと思っています。
暮らしにかかわる「お金」の動きや制度について、FPの視点を生かした「読み解き」が
できればと考えています。
フジテレビ解説副委員長。1966年千葉県生まれ。東京大学文学部卒業。同大学新聞研究所教育部修了
フジテレビ入社後、アナウンス室、NY支局勤務、経済部にて兜・日銀キャップ、財務省・内閣府担当、財務金融キャップ、経済部長を経て、現職。
CFP(サーティファイド ファイナンシャル プランナー)、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、農水省政策評価第三者委員会委員