アメリカ大統領選挙まで1週間あまりとなった。激戦州で民主党のバイデン前副大統領のリードが伝えられる中、トランプ大統領は巻き返しに全力を挙げている。

現職に有利と言われる大統領選で、もし現職大統領が敗れることになれば、異例の事態だ。さらに今回はコロナ禍での選挙ということで、両候補の戦い方や投票方法も前例にない形となっている。 

そして、その異例さはニューヨークの街を歩いていても感じることができる。 

Tシャツからベビー服まで VOTEグッズ激増 

マンハッタンの街を歩いていると、ショーウィンドウに「VOTE(=投票しよう)」というロゴが入った洋服が増えてきていることに気がついた。目抜き通り、5番街では有名デパートのほか、スポーツブランドPUMAでは「NYC VOTE 2020」と書かれた服を着たマネキンがディスプレーされている。 

胸に赤字で大きく「VOTE」と書かれたPUMAのTシャツ
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そして、その隣にあるファストファッションブランドのH&Mは、TシャツだけでなくVOTEと書かれたベビー服まで売っていた。いずれも名だたる有名ブランドばかりだ。日本ではなかなかお目にかからない、「投票しよう」という呼びかけのファッション。一体誰が何のために着るのだろう?

H&Mはベビー服にも「VOTE(=投票しよう)」

ジーンズで有名なリーバイスでも、VOTEと書かれたパーカーやTシャツがショーウィンドウに飾られていた。店内には、男性モノ・女性モノと分かれ、かなりバリエーションも多い。店員に聞いてみると、「毎回選挙の前にVOTEグッズを発売するけれど、今回はかなり種類が多い。理由?それは…今回が重要な選挙だからじゃないかしら?」との回答だった。 

リーバイスのショーウィンドウ

火付け役は前ファーストレディ 

今回の選挙戦でVOTEファッションの火付け役となったのは、オバマ前大統領夫人のミシェルさんだと言われている。8月の民主党大会でビデオメッセージを寄せた際、ゴールドのチェーンに「VOTE」のチャームがあしらわれたネックレスを着用して登場。これがSNSなどで話題になり、売れに売れまくった。 

VOTEファッションの火付け役となったミシェル・オバマ前大統領夫人

そして、ファーストレディを目指すバイデン氏の妻・ジルさんもVOTEと書かれたブーツをはいて選挙運動に臨んでいた。 

ファッションを通じて投票を呼びかけ、政治参加を促す。一見、党派を超えた呼びかけのように見えるが、実態は異なる。今回のVOTEファッションの特徴は、その種類の多さだけでなく、民主党関係者のほうがVOTEファッションを身につけている割合が多いという点だ。ファッションが政治的メッセージを発信する場として積極的に活用されている印象だ。 

ジル・バイデン夫人のブーツにも「VOTE」の文字

強烈!短パンの“タグ”に「あの野郎」 

ただ、投票を呼びかけるだけにとどまらない商品もある。アウトドアブランドのパタゴニアは、短パンの「タグ」の裏側というとても見づらい場所に、こんなメッセージを込めた。 

「VOTE THE ASSHOLES OUT」―決してお行儀のいい言葉ではないが、日本語では 「投票であの野郎を追い出せ!」というニュアンスだろうか。

パタゴニアの短パンのタグには過激なメッセージが…

あの野郎、とは誰を指すのか。パタゴニアに取材を申し込んだ。 

NY市内の店舗のマネージャーは、「あなたが思う環境に反することをしている政治家はすべて、(落選させるべき)“あの野郎”だよ」と話す。

そう、パタゴニアは、以前から環境問題に力を入れているブランドなのだ。環境問題といえば、トランプ大統領は取組に消極的でパリ協定からの離脱も表明した。大統領選でも温暖化対策は両候補が激しく対立する争点の1つだ。

「あの野郎」はもしかしてトランプ大統領のこと?と思ったが、「党派にかかわらず、気候変動の危機を否定したり、軽視する政治家を指している(同社広報)」と特定候補の名指しは避けた。

なお、この商品はかなり話題を集め、すでに売り切れているという。 

バイデン陣営はファッションで若者にアピール? 

なぜ今、「VOTE」のメッセージがアメリカのファッションを席巻しているのか。 

理由の1つは、ファッションブランドも「モノ言う時代」になってきていることが背景にある。 

もともとリベラル派が多いとされるファッション業界だが、前述のパタゴニアは環境問題を重視するメッセージを発信。さらに、GAPが発売しているTシャツは、「VOTE」の文字の中に「BLACK LIVES MATTER(黒人の命は大切だ)」の文章が隠れているデザインだ。

このように、投票を呼びかけると同時に人種や環境問題に関するメッセージも発信することで、ブランドを特徴づけているのだ。また、多くのブランドでは、VOTEグッズの売り上げの一部を市民団体に寄付するという仕組みをとっている。 

GAPのTシャツには「黒人の命は大切だ」のメッセージ

もう1つのポイントは「若者」だ。リベラル派が多いとされる、特に都市部の若者は、「トランプ大統領の再選はイヤだ」と考える傾向が強い。一方で、「バイデン氏を積極的・熱狂的に応援している」層が多いとはいえない。

民主党指名者候補選びで最後まで争ったサンダーズ上院議員は、若者層の熱狂的支持を得ていたが、彼と比べると77歳のバイデン氏に“熱狂感”はなく、「地味」なイメージがついて回る。 

民主党側としては、こうした若者に投票を呼びかけ、投票率を上げることが重要になる。そこで、「VOTE」というメッセージを発することで、投票率が比較的低い(2016年の投票率は全年齢層で56%、18~29歳の投票率は46%)若者層に投票を呼びかけているのだ。

「投票するとしたらバイデンだけど、行くか微妙~」という若者層を取り込むことで、勝利につなげようという思惑がある。VOTEファッションを着用する民主党関係者が多いのはそのためだ。 

異例尽くめの今回の大統領選挙。街にあふれるVOTEファッションは若者の投票行動を変えるのか。実際の投票率が勝敗にどのような影響を及ぼすのかにも注目したい。 

【執筆:FNNニューヨーク支局 中川真理子】