桑田佳祐さんも手術

歌手の野口五郎さん(62)が先日、事務所スタッフにも知らせずに、食道がんの手術を昨年受けたことをコンサートで明かしました。
日頃から体調に気を使うことから早期発見につながり、年明けからは仕事を始めたとのことです。
2010年には、桑田佳祐さんも食道がんの手術を受けています。

 
 
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食道は、のどと胃をつなぐ長さ約25㎝、太さ2~3㎝、厚さ約4㎜の管状の臓器で、食べ物を胃に流し入れる役割を果たします。
食道の内面を覆っている粘膜表面の上皮から発生したがんを、食道がんと呼びます。

食道がんには「扁平上皮がん」と「腺がん」という2種類の組織型がありますが、日本では90%以上は「扁平上皮がん」といわれています。
「扁平上皮がん」は、「腺がん」よりも増殖速度が早いことが知られています。このため、一般に胃がん・大腸がんよりも、食道がんは進行しやすいといえます。

食道の周囲には、気管・気管支や肺、大動脈、心臓など重要な臓器が近接しているので、がんが大きくなるとこれらの臓器にも広がっていきます。腹部や首のリンパ節、他の臓器に転移することもあります。

<飲酒×赤くなる×喫煙>は、リスク100倍超!

扁平上皮の食道がんの場合、「喫煙」と「飲酒」が大きなリスクとなります。さらに喫煙と飲酒習慣の両方がある場合、そのリスクは相乗的に増加していきます。

では、飲酒や喫煙によってリスクはどれくらい高くなるのでしょうか。
「飲酒も喫煙もしない人」のリスクを1とした場合、「毎日1.5合以上のお酒を飲む人」のリスクは約12倍、「毎日20本以上タバコを吸う人」のリスクは約5倍になります。さらにその両方の習慣がある人のリスクは、実に33倍にも及びます。(愛知県がんセンターHP掲載データ等より)

また、ビール1杯程度で顔がすぐに赤くなったり、頭痛がしたりする人は、食道扁平上皮がんのリスクがさらに高くなることがわかっています。
これは、アルコールがうまく代謝されずに、アセトアルデヒドという発がん性物質が体内に蓄積されるためです。
このタイプ(フラッシング反応)の人が、飲酒&喫煙をしてしまうと、食道がんのリスクは100倍以上になるという調査もあります。

 
 

熱すぎる飲み物も、食道に炎症を起こす原因となり、食道がんのリスクの一因となります。熱いものは、少し冷ましてから摂るほうがいいでしょう。
また、肥満も食道がんのリスクであるとされます。

見逃しがちな初期症状

食道がんは小さいうちは無症状であることがほとんどであり、多くは胃カメラ検査で偶然発見されます。
ただ、食道がんの発生初期であっても、食べ物を飲み込んだときにしみる感じ、チクチクする感じを自覚することがあります。
この時点で医療機関を受診し、胃カメラ検査等を受けられればいいのですが、症状はごく軽いため、違和感を覚えながらも放置してしまうことが少なくありません。
しかも、がんが進行すると、これらの自覚症状は見られなくなることもあるのです。

がんが少し大きくなると、食道が狭くなり、食べ物のとおりが悪くなります。特に肉などの固形物を飲み込むときに、はっきりと胸がつかえるような感じを受けます。
こうした嚥下障害(食べ物が上手く飲み込めない)が現れた段階では、すでに進行がんであることが多くなります。
食べ物がつかえるようになると食事摂取量が減り、栄養が吸収できずに体重が減少します。ダイエットをしているわけでもないのに3か月で5~6㎏の体重減少が見られたら要注意です。

手術時には「食道の再建」も

治療には、外科的治療(手術)、放射線治療と化学療法(抗がん剤による治療)などがあります。
食道がんの手術は、これまでは極めて大きな手術が必要となりました。
食道は、周囲に心臓・肺など重要な臓器がたくさんあり、かつ胸の奥側に位置しています。
さらには、切除した食道部分を、胃や小腸を移植するなどして再建することも必要となります。
そのため、胸やおなかを大きく開く、大手術となりました。

現在では、傷が小さく痛みの少ない胸腔鏡手術や腹腔鏡手術が増えています。昨年からは、ダヴィンチによるロボット手術も保険適用となりました。
ある程度進行したケースでは、外科療法(手術)、放射線療法、化学療法を組み合わせた集学的治療が行われます。
手術も、抗がん剤でがんを小さくしてから行うのが主流です。
手術後には、食事摂取量を増やしていくことが課題となりますが、多くの人が健康時の70%前後の量を摂ることができるようになるとされています。

5年生存率は…

 
 

食道がんの5年生存率を見てみると、I期で86.3%です。Ⅱ期になると56.1%、Ⅲ期で29.3%、Ⅳ期で12.4%となっています。
がんが粘膜でとどまっている場合、手術で切除できれば5年生存率は100%とされています。

〇〇と◇◇で、リスクが大幅低下も!

飲酒に喫煙と、特に男性には耳が痛い方が多いかもしれません。
では、食道がんを予防することはできるのでしょうか。
実は、野菜と果物を多く食べる人ほど、食道の扁平上皮がんのリスクが低いことが分かってきました(厚生労働省研究班の調査)。
あまり野菜や果物を食べない人(170g以下/日)と比較すると、よく食べる人(540g以上/日)は、食道がんのリスクが52%と大幅に低下します。
さらに、野菜や果物を100g多く取るごとに、リスクが10%ずつ低下するという結果も出ています。
特に、十字花科の野菜(キャベツ、大根、小松菜など)は、リスクを低減する効果が高いことも分かりました。
ただし、野菜や果実を十分摂ったとしても、飲酒と喫煙は がんのリスクを高める要因であることは忘れないでください。

早期発見できた野口五郎さんはブログを更新し、『何も心配しなくて大丈夫!ずーっと歌い続けますから』とつづりました。
食道がんは、初期には症状が出にくいもの。
早期発見には、検診などで胃カメラの検査を定期的に行うことが大切です。

かなまち慈優クリニック 院長 
高山 哲朗(医学博士)

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高山哲朗
高山哲朗

日々の診療では患者さんの健康維持・増進により深く貢献できるよう努めております。的確な診断、共に疾患をコントロールすること、日々の健康を管理し病気にならないようにすることは内科医の責務と考えています。常に学ぶこと、根拠に基づく説明を分かり安く行うことを心がけてまいります。
慶應義塾大学病院、北里研究所病院、埼玉社会保険病院等を経て、平成29年 かなまち慈優クリニック院長。医学博士。日本内科学会認定医。日本消化器病学会専門医。日本消化器内視鏡学会専門医。日本医師会認定産業医。東海大学医学部客員准教授。予測医学研究所所長