真価が問われるシンゾー・ドナルド6度目の首脳会談

日本時間の18日と19日、安倍首相とトランプ大統領との注目の日米首脳会談が、フロリダ州のトランプ氏の別荘で開かれる。
会談では、今月27日の南北首脳会談や6月上旬までに行われる見通しの米朝首脳会談を前に、北朝鮮政策での綿密なすり合わせが最大の焦点となっている。

 アメリカへの出発に際し、安倍首相はこう強調した。
「強固な日米同盟の絆を発信していきたい。北朝鮮による完全検証可能、そして不可逆的な方法による核・ミサイルの廃棄の実現に向けて、最大限の圧力を維持していくことを確認していきたい。そして何よりも大切な拉致問題について、初の米朝首脳会談に向けて、拉致問題が解決に前進するよう、トランプ大統領とすりあわせをしていきたい」

 そのおよそ2時間前、菅官房長官は記者会見で、両首脳が今回もゴルフ外交を行うことを明らかにした。菅長官は2人がゴルフを行える特別な関係であることを強調している。
実は、菅長官は安倍首相とトランプ大統領との20回に及ぶ電話会談のすべてに同席していて、2人の関係を最も近くで見続けている人物の一人だ。

 

 
 
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米朝首脳会談合意を伝える安倍―トランプ電話会談の舞台裏

「シンゾー、グッドニュースだ!」3月9日午前9時前、史上初の米朝首脳会談開催の知らせをトランプ大統領は真っ先に安倍首相に伝えた。

この会談にも同席していた菅長官は、その2時間ほど前の午前7時、アメリカのハガティ駐日大使と都内で朝食を共にしていた。そして7時20分過ぎ、ハガティ大使のもとに「トランプ大統領が何としても、9時前に電話で首脳会談をやりたいと言っている」という報告の電話が入った。

それを伝えられた菅長官は直ちに要請にこたえるよう指示した。緊急の電話会談がセットされた瞬間だった。

 電話会談でトランプ大統領は「韓国が発表する前にシンゾーだけには事前に伝えたかった」「我々の圧力が功を奏した」「核廃棄、不可逆的、シンゾーの言う通りになってきている」と述べた。
さらに、金正恩委員長と会談した韓国特使からの報告を、詳細に安倍首相に説明し、アドバイスを求めた。


 

菅長官の大きな疑問

この日も会談の一部始終を聞いていた菅長官だが、北朝鮮の側から対話を求めるという、日本が描くシナリオ通りの展開への期待とともに、一つの大きな疑問を抱き、それが頭から離れなかったという。

それは「北朝鮮はなぜ、あれほど嫌がっていた米韓合同軍事演習の続行を容認したのか」という謎だ。

4日後の3月13日、菅長官は疑問を払しょくすべく、特使として北朝鮮を訪問し、トランプ大統領とも会談した韓国の徐薫国家情報院長との会談で、この疑問をぶつけた。
会談での実際のやりとりは明らかにされていないが、菅長官がこの会談から得た答えは明快だった。すなわち、「北朝鮮が抱く米国の軍事力へのおびえ」だ。北朝鮮は核ミサイル開発を進めたところで、米国の巨大な軍事力に脅えていて、どうあがいても勝てるわけもないことを認めた、というわけである。


 

 
 

米国から蚊帳の外におかれる歴史を教訓に…

トランプ大統領は安倍首相と会談するたびに「シンゾーはどう思う?」と尋ねるという。菅長官は、これを「日米のかつてない強固な連携」と表現するが、それと対比的に、日米関係を巡るかつての苦い歴史もたびたび口にしている。

 一つはオバマ政権時代。第二次安倍内閣発足後、安倍首相と当時のオバマ大統領の初めての首脳会談はわずか45分間だった。安倍首相がワシントンまで出向いたのに、である。
一方でオバマ大統領と中国の習近平国家主席との会談は7時間に及んだ。菅長官は「オバマ大統領とは、電話会談さえなかなか調整がつかず難航した」と振り返る。
実際に安倍首相とオバマ大統領との首脳会談は4年間で9回、電話会談は11回。トランプ大統領とは、わずか1年あまりで、直接会談が5回、電話会談は20回に上り、関係性の違いは数字でも明白だ。

 さらに菅長官は、日本がアメリカから「蚊帳の外に置かれた」例として、当時のニクソン米大統領が米中国交正常化に向け電撃訪中した、いわゆる「ニクソン・ショック」と、クリントン政権時代に、日本や韓国の頭越しに締結された「米朝枠組み合意」をあげる。

今回も、米朝首脳会談で日本が置き去りにされるとの懸念が指摘されているが、菅長官は としては過去の経験を教訓に、「ドナルド・シンゾー」の信頼関係なら大丈夫だと、大きな期待を寄せている。
その一つは、政権の最重要課題と位置付ける拉致問題の進展だ。「米朝がうまくいけば日朝もうまくいく」…菅長官が描くシナリオである。

 ただ今回の日米首脳会談では、経済分野でトランプ大統領から攻勢をかけられる懸念も指摘され、政府内からも「金正恩氏よりもトランプ氏の方が、考えが読めない」との声が漏れている。果たして菅長官の思惑通りの成果があげられるかどうか、注目の会談となる。

(政治部 官邸担当 千田淳一)

 

千田淳一
千田淳一

FNNワシントン支局長。
1974年岩手県生まれ。福島テレビ・報道番組キャスター、県政キャップ、編集長を務めた。東日本大震災の発災後には、福島第一原発事故の現地取材・報道を指揮する。
フジテレビ入社後には熊本地震を現地取材したほか、報道局政治部への配属以降は、菅官房長官担当を始め、首相官邸、自民党担当、野党キャップなどを担当する。
記者歴は25年。2022年からワシントン支局長。現在は2024年米国大統領選挙に向けた取材や、中国の影響力が強まる国際社会情勢の分析や、安全保障政策などをフィールドワークにしている。