嫌われたくない。だからコミュニケーションが下手になる!?

カテゴリ:ワールド

  • 最悪の事態は『遠慮して人間関係が築けないこと』
  • 下の立場の人へちょっかいを出すことに遠慮がち
  • 人間関係を前に進める原動力は無謀な行動に出ること

卒業や就職、転勤、部署異動など、何かと生活環境が変わり始める。

新しい人材が入ってきたり、誰かが抜けてしまったり、人間関係にも変化が表れ、新しい顔ぶれとコミュニケーションをはかるのは、人嫌いな人にとっては面倒な時期でもある。

特に大人になってから、新たな人脈づくりや誰かと打ち解けるのが苦手になったと感じたことはないだろうか?

「失敗したこと」にとらわれすぎている

たとえば子どものころは、公園で遊んでいる名前も知らない子どもに「一緒に遊ぼう!」と声をかけ、すぐに打ち解けることができた。

しかし、大人になるとそういったことはしなくなり、むしろ慎重になっているような気がする。

これについて、『大人の人間関係』(日本文芸社)や『大人力検定』(文春文庫PLUS)など数々の著書を手掛ける石原壮一郎さんは、「子どもと比べて無邪気さみたいなのはなくなってしまいますよね。その要因は3つあります」と分析する。

まずひとつ目は、「失敗した時のことを考えてしまう」こと。

「ある程度の経験を積んできた大人たちは、痛い目にあった経験が結構あります。人間関係で恩恵を受けたとか、楽しいことがあったというよりも、『いたたまれないこと』や『つらいこと』、『恥ずかしかったこと』のほうが記憶に残っているもの。そのため、自ずと警戒心がはたらき、慎重になっているのではないでしょうか」(石原さん、以下同)

一度経験した苦い思い出は、できることなら繰り返したくはない。そのリスクを背負うくらいなら、最初から挑戦しないという考えが、自然と自分の人間関係にも影響しているというワケだ。

しかし石原さんは、そのような考え方について、以下のように続ける。

「気まずい思いをしたり、仲良くしようと思ったけど冷たくされたり、たしかに“イヤな経験”かもしれませんが、今思い出してみれば大した話ではないことも多いです。

それに比べれば、人間関係を恐れて、遠慮して、仲良くなれるかもしれなかった人と仲良くなるチャンスを潰してしまったとか、なんとなくグループで孤立してしまった方が最悪。つまり、私が考える『最悪の事態』は、『自分が遠慮して人間関係が築けないこと』です」

自分の生き方が固まってくることも要因のひとつ

大人が人間関係を築くことに遠慮がちな理由のひとつは、「失敗を恐れてしまうこと」とのことだが、2つ目は、「自分の生き方が固まる」こと。

「30代、40代になると、『俺はこういうのは苦手』『こういうノリにはついていけない』と、自分の付き合い方のスタイルや付き合う相手のタイプが固まってきてしまいます。そのため、自分が普段付き合う相手のタイプとは違う人と接することに尻込みしてしまうのです」

石原さんは、上記のようなタイプの人は、「もったいない」とも。

「まだまだどんな可能性があるかはわからない。やったことのないことに挑戦したり、行ったことのない場所に行ってみたりすれば、何か発見があるかもしれない。

人間関係も一緒で、接したことのない価値観を持った人と接することで、人間関係の幅が広がる=自分の幅が広がる。人とのかかわりはとても大事なことです」

30代、40代はコミュニケーションのあり方の中間世代

3つ目は、「30代、40代のビジネスパーソンたちが育ってきた環境の違い」が理由だそうで、この世代は、「コミュニケーションの狭間の世代」とのこと。これが、自分よりも年下の人とのコミュニケーションに大きく影響しているという。

「自分が若いときは、『上の人の誘いは断れない』というのが常識で、飲み会やゴルフに強引に連れまわされた世代です。一方、今はなんでも『ハラスメント』になりかねません。自分より下の立場の人へちょっかいを出すことに、遠慮がちになっているように見えます」

たしかに、最近の若い世代はONとOFFの切り替えを重視しているように感じるし、「仕事以外で職場の人と一緒にいたくない」なんて声も漏れ聞こえる。先輩・上司の立場なら、遠慮してしまうのも無理はないように思うが…。

「自分はこうされてきたけど、今の人たちに同じようにするのは気が引けるというのも理解できますし、新しいコミュニケーションが取りづらい要因でもあると思います。しかし、『遠慮する』と言えば聞こえはいいですが、ちゃんと後輩を育てる、面倒を見るというのをサボるようになってきた印象です。

『うっとうしい』『うざい』と思われる可能性はありますが、それを怖がっていてもしょうがない。自分たちを引っ張ってくれた先輩や上司だって、『しょうがないな、あの先輩は…』なんて陰口をたたかれていることは百も承知だったはずです。

たとえうっとうしがられても、それすら受け入れて先輩や上司の役目だと思い、当時はおせっかいに感じられたようなこともやってくれていたのではないでしょうか。自分だけがいい子になろうとするのは虫が良すぎる。

“嫌われない先輩”になることばかり考えてしまって、人とかかわることをやめているように感じます」

「無謀な行動」なしでは先に進まないのが人間関係

石原さんは、大人になってコミュニケーションが苦手になる理由を3つ話してくれたが、では、今後積極的に人間関係を築いていくためには、どうすればいいのか。

人間関係を前に進める原動力は、どちらかが無謀な行動に出ることだと思います。お互いがけん制しあって、遠慮しあっていたら、ただの顔見知りで終わるだけです」

「無謀な行動」とは、「そんなに仲良くないけど、誘ってみる」などが一例だと石原さん。たしかに、2人のそれまでの関係性を考えれば、無謀な行動かもしれない。しかし、「それがあって、その先にもうひと段階進めるようになる」という。

「『今日は都合が悪くて…』と断られても、『職場の人と飲みに行きたくない』というポリシーだったとしても、『お近づきになりたい』という気持ちは伝わるもの。そのためには、まず一歩踏み出すことです」

とはいえ、誰かを誘うとき、「相手に配慮した誘い方をするのが、大人力」とも付け加える。

「大切なのは、『逃げ道を残すこと』。つまり、『行かない』という選択肢を与えることです。『いつ空いてる?』と言われれば、確実に予定が空いている日を聞かれていて、逃げられない。

『今日空いてる?』と言われれば、仕事で残ってほしいのか、飲みに行きたいのか、何の用事かわからない。仕事なら残ってもいいけど、飲みに行くのはイヤという相手なら困ってしまいます。

『今日空いてたら飲みに行かない?』とか、誘い方は重要なんです。そこにも配慮できることが『大人力』です」

最後に石原さんから、コミュニケーションを取ることに遠慮がちな人たちへ、こんなアドバイス。

「人間関係のありがたいところは、失敗をリカバリーできるところ。チャンスは1回だけじゃありません。スポーツならスタートで失敗したら、そのレースは終わりかもしれない。仕事の失敗は、損害が出たり、お得意様を失ったりする。

しかし、人間関係は深まったり浅まったりを繰り返すものです。一つひとつの言動に、そこまで神経質になる必要はありません。お互いに委縮しあっていても、何も変わらない。

人間関係はドキドキするけど、そこを乗り越えればパラダイス的なものが待っているはずです。まあそのパラダイスも錯覚かもしれませんが(笑)」

「失敗したときのこと」を思い出して臆病になるのも、時代的な背景から気軽にコミュニケーションを取りづらくなっているのも、多くの人が実感しているだろう。

しかし、そこから一歩踏み出せば、新たな人間関係が広がり、また自分の人生の幅も広がっていくのだ。


取材・文=明日陽樹/考務店
イラスト=さいとうひさし
取材協力=石原壮一郎
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