近年、公立の小学校や中学校でも、国際教育に重きを置いたカリキュラムを構築しているところや、いち早くICT(情報通信技術)を導入しているところが出てきている。

その中でも、耳にする機会が増えている新たな取り組みが「小中一貫教育」。公立の「小中一貫校」が設置され始めているのだ。

ところで、そもそも「小中一貫校」とは? 教育ジャーナリストの中曽根陽子さんに、小・中学校を統合する狙いを聞いた。

“9年間”を1つの括りと捉える「小中一貫校」は導入段階

教育ジャーナリスト・中曽根陽子さん
教育ジャーナリスト・中曽根陽子さん
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「同じ地域の小学校と中学校が連携し、行事や特別活動に合同で取り組む『小中一貫教育』は、いろいろな自治体で行われてきました。そこから一歩進めて生まれた形態が『小中一貫校』。9年間を1つの括りとしてカリキュラムを編成するので、これまでのように6年間と3年間で分ける『6・3制』とは違う『4・3・2』や『5・4』などの新たな区切りを設けて、教育計画が立てられます」

「6・3制」は見直すべき、という流れが来ているのだろうか。

「これまで学校の編成はガチッと決まっていましたが、ここに来て自由度が高くなったということです。AIの進化などにより社会構造が急速に変化していること、また、子ども達の身体的な発達や思春期を迎える時期が早まっていることなどから、教育内容や制度も見直す必要があるといわれています」


社会の変化や子どもの成長も加味し、教育現場が多様になってきているというわけだ。では、「小中一貫校」はどの程度増えているのだろう。

「文部科学省が発表した『小中一貫教育の導入状況調査について』によると、2019年度の全国での設置数は、義務教育学校が82校、併設型小学校・中学校が461校です。まだ様子をうかがっている自治体も多いので、今は導入が始まってきている段階といえます」

「義務教育学校」とは、9年間のカリキュラムが自由に編成され、教員も小学校段階と中学校段階で同一の学校のこと。「併設型」は、「6・3制」はそのままに、小・中学校が連携しながら指導内容の入れ替えなどを行う学校。

ほかにも、「6・3制」のカリキュラムは変えず、小・中学校それぞれの教員が交流し、小学校から中学校への円滑な接続を目指す「連携型小学校・中学校」という形もあるが、現在は0校。ひと口に「小中一貫校」といっても、その形態はさまざまだ。

思春期の子ども達の問題を解消するメリットの裏で、教員の負担増

「小中一貫校」導入の理由の1つには、先述の子どもの成長スピードの変化が挙げられる。9年間を1つの枠組みと考えて「6・3制」を見直すことで、長期的な教育が可能となる。同じ教員が長く指導することで、生徒それぞれの能力を把握しやすくなり、特性に応じた教育、サポートを施せると期待されているのだ。

教育面以外のメリットについても、中曽根さんに聞いた。

「小学校から中学校に上がると、教科ごとに教員が違ったり定期テストがあったり、急に教育環境が変わりますよね。そこで馴染めない子が出てくる“中1ギャップ”は、以前から問題視されていました。不登校や問題行動は、中学1年生でもっとも多く発生するという調査結果も出ているのです」

小・中学校が連携することで、教員間での情報共有がスムーズに行われ、急激な環境変化もなくなるため、“中1ギャップ”の解消につながる可能性が高いという。

「同じ校舎内、もしくは近い距離感で9年間一緒に過ごすことで、小学校段階の生徒が中学校段階の生徒を身近に感じられる部分もメリット。思春期に入り始める5、6年生の年代の子が先輩の姿を見ることで、自分の将来像を描くことができるので、情緒が安定しやすいと考えられています」

もう1つ、社会的な側面のメリットもあるそう。

「少子化によって、地方では学校の統廃合が進んでいます。自治体としては、学校が分散しているより集約している方が予算を抑えられるメリットがあるので、『小中一貫校』という形を使って統廃合を進めるところが増えるでしょうね」

一方で、デメリットや課題も見えてきているようだ。その1つが、9年間、同学年のメンバーが変わらないこと。

「『小中一貫校』では、基本的に途中入学はないので、顔ぶれが変わりません。もし、子どもが友達関係などでつまずき、息苦しい環境になってしまった場合、リセットしにくいのです。また、学校の運営の面でも課題があります。小学校と中学校が別の場所にある場合、教員が行き来しなくてはいけないため、指導以外の部分の負担が増えています」

「6・3制」を見直す場合、新たな指導教材の開発も、自治体や学校にとっての課題。カリキュラムをどのように編成するか、中学校段階の教育をどこまで前倒しにするかといったことを、考えていかなければならない。

学校の形態とともに「教育方針」がより重要な選択基準に

「統廃合の観点から、『小中一貫校』は地方で増えていく可能性が高いです。都市部では、中学受験の人数がここ数年で増えているので、需要は低いかもしれませんね」

都市部では、公立での導入も増えている「中高一貫校」がさらに注目されるかもしれない。その一番のメリットは、「中高一貫にすることで、中学校段階の3年間を受験勉強に費やさず、成長段階に合わせて、生徒の可能性を広げるための幅広い学習に当てられること」だという。

「地域の状況に合わせて、『小中一貫校』『中高一貫校』がそれぞれ増えていくでしょう。ただ、今後は形態だけでなく、学校個々の教育の進め方も見ていく必要があると思います。2020年4月から学習指導要領が新しくなり、知識重視から思考力・判断力・表現力重視に変わることで、学校での探究的学習やICTを活用した個別学習が進んでいくはずですから」

学校側も、これまでの一斉一律の教育から、独自の教育方針や個性を工夫するようになっていくことだろう。中曽根さん曰く、「教育にはタイムラグがある。親世代と子ども達では学校環境が大きく異なる」とのこと。親の経験だけで判断せず、今の子どもに必要な教育を考え、義務教育のうちから学校を選ぶ時代になってきている。


中曽根陽子
教育ジャーナリスト。小学館勤務後、情報発信ネットワーク「ワイワイネット」を発足。女性のネットワークを活かした企画・編集を行う。教育機関の取材やインタビュー経験が豊富で、教育雑誌、経済誌、新聞連載など幅広く執筆。2014年に「Mother Quest」を立ち上げ、母親力を育てるワークショップなどを定期的に開催。著書に『一歩先行く中学受験 成功したいなら「失敗力」を育てなさい』など多数。
オフィシャルサイト:https://waiwainet1.jimdo.com/

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プライムオンライン編集部
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