2024年4月1日から始まった医師の「働き方改革」。長時間労働が常態化する医師の勤務時間を是正し医師の健康を守ることが目的とされているが…。法と使命のはざ間で揺れる現場を取材した。

労働時間理由に医療提供体制に影響

月に100時間以上という「過労死ライン」を超えた時間外労働が「当たり前」とされてきた医療現場で、医師の労働時間短縮と地域の医療体制をどのように両立させるのか。

福岡市医師会は3日の定例会見で、労働時間を理由に患者を診察できない医療機関が出ると言及。地域医療体制がかつてないほどの危機にあるとした。

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福岡市医師会・平川勝之常任理事:
本来、必要な救急患者の搬送が困難になるという流れが発生するだろうと容易に予想される。こういったことになると本来の救急医療体制、それから日勤帯の通常の医療提供体制にもかなり大きな影響が出てくるだろうと予想されます

「発信器」で勤務と休憩時間を管理

福岡・筑紫野市や太宰府市などの地域の医療を支える拠点として24時間体制で患者を受け入れている済生会二日市病院では、長時間労働が常態化する医師の「働き方改革」のため、勤務医の休日や時間外労働について、4月から年間960時間を上限とした。さらに、連続での勤務時間を制限するため、勤務と勤務の間に休息時間を設けることが必要になった。

この動きを受け済生会二日市病院では、労働時間を管理するため、2023年6月から医師たちが「発信器」を身につけて働いている。

直径3cmほどの発信器と各場所に設置された受信機で、医師が院内のどこに・どれだけの時間滞在していたかを記録する。病棟にいる間は「勤務時間」、宿直室や医局にいる間は「休憩時間」と分離し、医師自身も労働時間を認識できるようにしたのだ。これまで医師の詰め所である医局に置いていた患者のカルテを入力するパソコンも別の部屋に移すなど、業務とそれ以外を“場所”で区別できるよう工夫した。

済生会二日市病院医局長 循環器内科・中村亮部長:
ここから自己研さん(勤務外)、ここから勤務というのは、なかなかクリアには現状難しいとは思いますけど、ある程度は分けられますので、そういうメリットはある。勤務時間の管理を病院がやりやすくなるというのはあると思います

済生会二日市病院では、労務担当者が80時間を超えそうな医師に早い段階で声がけするなど対応を重ね、記録を取り始めた2023年6月以降は全体の労働時間は減少傾向にあるという。

患者も意識改革を 必要な人が救急へ

ただ、病院に救急搬送される患者の数は増え続け、2023年度に受け入れた救急車の数は約4700台にのぼった。

常勤の医師は約60人。壁村院長は「救急搬送を断る」という事態を避けるためにも、病院側だけでなく患者側の意識改革も必要だと訴える。

済生会二日市病院・壁村哲平院長:
救急車の台数もコロナ後、急速に増えている。すべてが重症とか中症ではなくて、やはり軽症の方も大多数いらっしゃって、わたしたちを必要としている人(重症、中症)のための枠がなくなってしまいます。軽症の方は、かかりつけの先生に移っていただくというような分担が、非常に必要になってくる。そういうことを理解していただきたい

労働時間で揺らぐ地域医療…現場の声

一方で、働き方改革を受け、筑後市の筑後市立病院は”診療体制縮小”に踏み切った。
この病院は市内唯一の総合病院で、24時間体制で救急患者を受け入れているが、4月から土曜日の外来を休診するという。

筑後市立病院・高森信三院長:
うちのスタッフの数では、土曜日を開けておくというのは、働き方改革に対応するには、無理があると判断した

筑後市立病院では、地方における医師不足の影響で常勤医師の数が減っていて、2024年度は27人のスタートと2023年度より4人も減ってしまった。救急対応や当直などは、大学病院から派遣される医師がいないと回らないのが現状だ。今回の働き方改革で、派遣された医師の労働時間までも制限されることになると、診療体制が維持できなくなる恐れもある。

そこでやむを得ず、土曜日を完全に休診にして日勤時間を減らすことを決めた。ただ、これでも医師の負担軽減につながるかは不透明だという。

筑後市立病院・高森信三院長:
シミュレーションにおいてはですね、平日の方にシフトして診療内容とかサービスとか上げようということにしていますけれども、実際的にどの程度なるかというのはよくわかりません

現場の医師の見方も懐疑的だ。

筑後市立病院心臓血管外科・友枝博医師:
見かけの時間外業務は減るんですけど、仕事量が減っているかはわからない。いままで土曜日に業務をしていたのが、平日に移行するだけで、需要が変わらなければ、多分、仕事量は変わらないんですね

心臓血管外科医として夜間の救急対応にもあたる友枝医師は、今回の働き方改革は現場の実態に即していないと指摘する。

筑後市立病院心臓血管外科・友枝博医師:
現状としては、断らず救急を受け入れるんですけど、それを継続した場合に法律で翌日働けないので、外来を減らしたり手術をやめたりということになりますので、病院の機能として維持できない。もともと時間外勤務を制限しようとすること自体に結構、無理がある

医師の働き方改革と地域の医療体制の維持はどうすれば両立できるのか。医師や病院側だけでなく、医療を受ける患者側も考える必要がありそうだ。

(テレビ西日本)

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