世界初の偉業に向けた挑戦が、鹿児島から始まった。火星を周回する衛星からの砂や岩石の採取を目指す火星衛星探査機を載せたH3ロケット10号機が、20日未明に種子島宇宙センターから打ち上げられ、成功した。夜空を明るく照らした炎に、見物客からは歓声が上がった。探査機の軽量化にまつわる緻密な工夫も、今回のミッションの大きな見どころである。
夜空を照らした炎に「昼みたいになってきれいだった」
H3ロケット10号機は、20日午前4時41分3秒、南種子町の種子島宇宙センターから打ち上げられた。ロケットから噴き出した炎は発射場周辺を明るく照らし出し、種子島の夜空を突き進んでいった。

南種子町の公園には、未明にもかかわらず多くのロケットファンが集まった。打ち上げの瞬間には歓声が上がり、見物に来た人からは次のような声が聞かれた。
「人間の力はすごいと思った」
「昼みたいになってきれいだった」
現地で取材した記者は、「大きな光を放ちながらH3ロケット10号機が種子島から宇宙へ飛び立ちます」と伝えた。

打ち上げから1時間余り、予定の軌道へ投入
打ち上げから1時間以上が経過した午前5時50分すぎ、ロケットは火星衛星探査機「MMX」を予定の軌道に投入した。これにより、打ち上げは成功となった。

H3ロケットの打ち上げは、これで3機連続の成功である。打ち上げの成功率も8割となった。
三菱電機などが開発したMMXは、約1年かけて火星付近に向かう。その後、火星を周回する衛星「フォボス」に着陸し、砂や岩石などのサンプルを採取する。サンプルは2031年度に地球へ持ち帰る計画だ。

このミッションで目指すのは、次の二つである。
- 「フォボス」が誕生した起源の解明
- 将来の有人火星探査につながる技術の獲得
衛星からサンプルを採取して地球に持ち帰るのは世界初の挑戦であり、その第一歩が種子島から始まったことになる。
JAXA関係者「肩の荷が下りた」
JAXAの関係者も、打ち上げ成功の喜びをかみしめている様子だった。
H3プロジェクトチームの有田誠プロジェクトマネージャは、「歴史的な世界的にも注目されているMMXの打ち上げの第1幕を最強の形態で打ち上げることができて、大変うれしく思っている。安堵すると同時に肩の荷が下りた」と語った。
MMXプロジェクトチームの川勝康弘プロジェクトマネージャは、ロケットとの分離後には探査機が通信を確保して運用しなければならないと説明した。そのうえで「プレッシャーがきてドキドキした。計画通りいってホッとしている」と振り返った。

実現の鍵は探査機の「軽量化」
今回、打ち上げに向けて大きなハードルとなったのが、探査機の軽量化だった。
JAXAは探査機を、役割によって大きく三つに分けている。
- 火星付近を目指す「往路」
- フォボスの観測などを行う「探査」
- 地球に帰還する「復路」
仮にこれらすべてを地球に持ち帰ろうとすると、その分の余分な燃料を積まなければならない。そこで工夫されたのが、役割を終えた部分を順に切り離す仕組みである。
「往路」の役割を果たす探査機の一部は、火星近くで燃料を使い切ると切り離す。観測機器などを積む部分は、フォボスでの探査を終えると、地球へ戻る際には不要になるため切り離す。そして「復路」の役割を果たす部分だけが地球に帰還する。こうして燃料の節約を実現した。

本当のスタート地点はこれから
緻密な計算の末に実現した今回のミッションだが、この先も、遠く離れた地球から探査機に信号を送るという難易度の高い挑戦が続く。世界も注目する前人未踏のミッションは、20日が本当の意味でのスタート地点である。種子島から飛び立った探査機の今後を、これからも見守っていきたい。

