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コロナ禍が落ち着きを取り戻し、マスクの常時着装の緩和や訪日外国人の入国規制の緩和など、冷え切った国内ホテルの利用者数にも回復傾向が見られ始めている。観光庁がまとめた2023年2月の客室稼働率(速報値)をみても急速に回復しているのがわかる。

(観光庁HPより 令和5年3月31日速報値)
(観光庁HPより 令和5年3月31日速報値)

今回はその中でもJ.D.パワーによる宿泊客満足度調査のエコノミー部門で8年連続1位の株式会社スーパーホテルの客室稼働率は2019年(コロナ禍以前)と比べ90%超える店舗が続出し、同水準まで急速に持ち直している株式会社スーパーホテルの秘密を探った。

(株式会社スーパーホテル山田周一朗執行役員)
(株式会社スーパーホテル山田周一朗執行役員)

山田周一朗氏
ホテルはいわゆるシティーホテルとビジネスホテルの2形態に分かれます。シティーホテルは宴会場などが併設され、お客様がホテル内に滞在する時間が多いのに比べ、ビジネスホテルは概ねお客様の滞在時間は10時間程度です。そこで私どものホテルは「安全・清潔・ぐっすり眠れる」に特化する事業方針をとっています。当ホテルを利用する方の利便性を最大限に考え、宴会場を作らないことや、ビジネスユーザーなどチェックアウト時間が集中する際の待ち時間を無くすなど、不要なものを徹底的に省き、枕などの寝具やホテル内の空気、水・静寂性などの品質向上に必要なものへの投資を惜しみません。

ーー現在、各店舗でサービスの質の均一・維持するためにされていることは?

山田周一朗氏
現在(2023年4月)全国で172店舗を展開しているのですが、毎日、Faith=フェイスという経営理念や行動基準、仲間への約束・サービススタンダードが記されていて常に全スタッフが携行している冊子を声に出して読んでいます。またフェイスアップと題してお互い顔を合わせて問題点や良かったことなどの情報共有を行うなどの機会を設けています。ただ理念を暗記するのではなく、お互いに実例を発表し合い経営理念を自らの行動に落とし込んでいくのです。もちろんこれはそれぞれの部署の代表による委員会を設けて、時代や状況に合わせて改定しています。

(朝礼での共通認識などの確認)
(朝礼での共通認識などの確認)

ーーフランチャイズ方式が店舗数を増やす鍵となっていますが?

山田周一朗氏
当ホテルが土地や建物を所有するのではなく、地権者などがオーナーとなり、ホテルの運営を当ホテルが行うことで、オーナーと当ホテルが一体となり出店先の地域を活性化するビジネスモデルを創出しました。ホテルで提供する食事も地産地消を意識しています。また、特に「ベンチャー支配人制度」は私どもが宿泊客の満足度8年連続1位になっている原動力の1つとも言える自慢の制度です。

ーー「ベンチャー支配人制度」とは何ですか?

山田周一朗氏
私どもは決してコストを削減するだけが目的ではありません。1番重要な事は社員やスタッフのマインドの維持です。人の育成への投資は決して削減しません。「ベンチャー支配人制度」とは、独立し起業を目指す人物と最短4年の業務委託契約を結んで店舗の運営責任を任せ、起業のためのノウハウを学んでもらう制度です。支配人は経営者です。しかし、業務委託されるベンチャー支配人は、将来の「独立」という熱い夢であり目標がはっきりしているので、発想力などの「熱量」を感じます。私どもはこれを「自律型感動人間」と呼んでいます。また、配属先のホテル内に居住区域があるため、住宅費や光熱費がかからず、実質、年収プラスアルファの収入を得られ、それを起業の際の資金に充てられるメリットもあります。

実際にベンチャー支配人制度を利用している若松穣統括支配人に話を聞いた。

(株式会社スーパーホテル 若松穣統括支配人)
(株式会社スーパーホテル 若松穣統括支配人)

ーーどうして応募されたのですか?

若松穣 統括支配人
もともと起業志向が強く、以前は経営の勉強をするにはお金を払ってセミナーに参加していたのが、お金がもらえて経営の勉強が実践を通じてできることに大変興味を持ちました。

ーー支配人の裁量はどの程度あるのでしょうか?

若松穣 統括支配人
本部との話し合いが必要なときもありますが、部屋の空室率や天候・季節などに鑑み、部屋の料金やキャンペーンなどを発案してホームページ上に掲載して販売することも可能です。発案したキャンペーンで残室が販売できたときは嬉しかったです。接客やスタッフの採用・指導、地元業者との関係構築の他、トラブル処理など失敗・成功体験として将来の糧になります。同じ学びでも実務なので、緊張感が伴います。

ーー最初と今では?

若松穣 統括支配人
店舗の地域環境によって、他社と張り合って客を取り合うということもありましたが、店舗の地域によっては、地域を活性化して「街を興す」ということにも挑戦意欲が沸くし、大きな充実感を得ています。

ーーこれからの「ベンチャー支配人制度は?」

若松穣 統括支配人
夢をかなえようというエネルギーを持っている人間がいたから色々な知恵が生まれて、それをフットワーク軽く全国展開していこうという本部があることが当ホテルの発展の原動力になってきたと思う。その仕組みをやってくれる歯車のような人を募集するのではなく、より夢をかなえたいとする人をもっとたくさん採用して欲しいと思っています。

取材を終えて

大型連休を前に客室稼働率が改善傾向にあることは、仕事や余暇等のために人が動き出したと言うことだ。これは国民に笑顔が戻ってきたことと言えよう。

今後もコロナ禍の不自由だった生活を忘れずに、二度とあの状況に戻らないためにも、公共交通機関やホテルなどを利用する側にも状況に応じたしっかりとした対応が求められる。

“コロナ“とは引き続き共存していかなくてはならないのだから。

【執筆:フジテレビ 解説委員 小泉陽一】

小泉陽一
小泉陽一

フジテレビジョン解説委員・危機管理 1991年フジテレビジョン入社。アナウンス室、ニュースキャスター、社会部、経済部、報道番組ディレクター、NY支局、パリ支局長、秘書室、WE編集長を経て現職。メディアリテラシーや時事問題を学生や地域の人々と共に考えるのが最近のライフワーク。