不法滞在などの外国人を出国させる「強制送還」について、その一部始終をFNNがメディアとして初めて取材した。
2025年11月のある日、早朝の午前7時に取材班が向かったのは、東京・港区にある「東京出入国在留管理局」です。早朝にも関わらず、すでに80~90人ほどの人が行列を作っていた。

留学や永住者などの在留資格を持った外国人は去年、約395万人と過去最多を更新。
ルールをしっかり守る外国人がいる一方で、オーバーステイをする違法外国人が約7万5000人いるなど、“ルールを守らない外国人”が後を絶たない。

帰ろうとしない不法滞在外国人は、母国に強制的に送還されることもあるが、その対応にあたっているのが、「入管」の入国警備官たち。時には暴れるなど送還に抵抗する外国人もいるため、特別な訓練を受けているスペシャリストだ。
今回、FNNは、強制送還の一部始終をメディアとして初めて取材することができた。
20年間不法滞在
取材班が向かったのは、入管職員が強制送還について初めて伝える部屋。職員とともにこの部屋に入ってきたのは、紫色のダウンを着た東南アジア出身の女性。20年間にわたり、不法滞在していた。

護送官:じゃあちょっと今から退令(退去強制令書)を執行されたから、あなた入管に収容する手続きに入ります。わかる?
女性:わからない
護送官:カバンの中を確認するから。私たちに貸して
退去強制令書という「正式な書類」を提示され、女性は机に突っ伏した。

この女性はこれまで何度も帰国するよう説得を受けたものの応じてこなかったため、ついにこの日、強制送還が実施される。
女性は“あと1日時間が欲しい”と訴えたが、送還はすでに決定してた。
もう一人の不法滞在外国人
この日は東南アジア出身の別の男性も強制送還されることが通知されていた。
護送官が男性に風邪など引いていないか確認すると、男性は「大丈夫」と応じた。この男性は以前、他人のパスポートで不法入国した過去があり、今回で2回目の送還。

男性は日本への入国禁止期間に来日したほか、虚偽の申請を行ったりしていたという。
過去に強制送還された経験がある男性も、この日は想定外だったようで、「ドキドキする」と話すなど、動揺している様子が見えた。
体調不良の訴えも
一方、20年にわたり不法滞在していた女性は、突然体調不良を訴え始めた。

「痛い痛い」と声を出してのけぞり、護送官が「大丈夫」と気遣うと、「首が痛い」と身をよじった。
女性は車椅子に乗って、入管職員が付き添いながら薬などを取りに一度自宅へ向かった。
封筒から約50万円の現金…
その後、2人の送還対象者は帰国の準備を行い、持ち帰る荷物のチェックが行われた。
荷物をパッキングする部屋は、床一面にブルーのマットが敷かれていて、暴れてもけがをしにくい作りになっている。

強制送還される男性が護送官に促されて、機内持ち込みと預け荷物の仕分けを始めると、小分けにされた封筒から現金が次々に出てきた。総額は48万5053円。

男性はこの現金について、重機を売って作ったお金で、何があるか分からないから持ち歩いていたと説明した。
日本再入国は10年後
荷物の確認が終わると、男性にはおにぎりが手渡された。日本で食べる“最後の晩餐”だ。
笑顔でおにぎりを受け取ると、男性はおにぎりを頬張り、思わず「最高」と声を出した。母国では作っていないという。感傷的になってしまったのか、おにぎりを口にした男性の目には涙が溢れた。

護送官はティッシュを渡して涙を拭くように促し、「あなた日本長いからね…トータルで30年ぐらいでしょ」と語りかけると、男性は「人生…俺の人生は日本」と語った。
この男性が最初に来日したのはまだ昭和の時代。バブルの頃にはダンサーとして働いていたという。今回、男性は家族を日本に残して、一人母国に送還される。
男性が次に来日できるのは10年後だ。
日本食への愛
一方20年不法滞在していた女性は、「いま気持ち悪いから」といって食事を拒否。男性とは対照的に、おにぎりが喉を通らないという。
荷物をまとめる部屋では、職員のパッキングの仕方に対して、「だからここ入れてよって」と大声を出す場面もあった。

1時間ほどかけて荷物のパッキングが終わると、いよいよ成田空港への移動が始まった。
万が一、対象者が抵抗する場合に備えて、護送官が前後左右に付き添い脇を固める。
移動のバスの中で護送官が男性に「日本ではよく何食べていたの?」と聞くと、男性は、「私が好きなのはカキ。寿司。ラーメンもよく食べる」と応じた。おにぎりだけではなく、日本食が好きだった様子だ。
国費にによる強制送還が約2倍に…
1時間ほどでバスが空港に到着すると、2人はうなだれた様子で、入管の施設に入った。

送還対象となる不法滞在者の9割は自費で帰国するが、今回の2人のように、説得に応じず強制送還となるケースでは政府が費用を負担する。

さらに、複数人の護送官も飛行機に乗り、国まで付き添うため、不法滞在者のみならず護送官の渡航費用も国費、すなわち私たちの税金でまかなわれている。
こうした護送官を伴った「国費での強制送還」は、2025年6月からの3カ月間で119人にのぼり、2024年の同じ時期と比べて、約2倍に増加している。
護送責任者は、「例年よりも多くなったと実感はしてます。正直毎日出かけてる、毎日誰かが海外に出かけているというような感覚です」と話した。

政府関係者によると、送還費用は護送官の付き添いも含めて1回あたり「数十万から数百万円」。年間では5億円以上の国費がかかっている。
護送官は、自分たちの使命について、「国を守る一助となるよう尽力していることを、皆様に知っていただけたらと思う」説明した。
国費送還は「最後の手段」
2人は現地まで同行する護送官に連れられて飛行機に乗り込み、母国へと旅立った。
日々、こうした強制送還の対応にあたる入国警備官たち。政府は2025年、護送官付きの送還を倍増する「不法滞在者ゼロプラン」を開始した。しかしこれについては、保護されるべき人を排除する事になりかねないとして、日本弁護士連合会などが反発している。

また、筑波大学の明石純一教授は、護送官付きの国費送還について「一番理想なのは自発的に帰国いただくということです。それができない場合に限っては、無理にでも強制的に帰っていただくという最後の手段が護送官付きの国費送還ということです」と話した。
増加する強制送還の最前線。
不法滞在者を安全に送還するために、入管職員たちは、日々、慎重な対応に当たっている。
