保護犬が刑務所の受刑者と接することで更生を促す新たな取り組みが広島で始まっています。
一緒に寝泊まりする受刑者と保護犬の姿を追いました。

優しく犬をなでる緑色の服を着た人たち。
この人たちは罪を犯し刑務所に入っている受刑者です。
尾道市にある尾道刑務支所。

いずれ社会に復帰する受刑者たちが犬と接することで、罪と向き合い更生につなげるためのプログラムが、いま進められています。
中国矯正管区と犬の保護活動を行っているNPO法人「ピースウィンズ・ジャパン」が連携し、全国に先駆けて取り組みを始めたのは、おととしの11月。
今は宿泊に挑戦していて今回は16泊のプログラムです。
同様の取り組みは全国に広がっていますが、刑務所の中で1週間以上に渡って保護犬を宿泊させるのは全国でも例がありません。

【プログラムを担当する刑務官】
「自分よりも弱い相手の面倒を見るというところで、優しい気持ちであったり、また自分が必要とされるという、自尊心の回復であったり。改善、更生に繋がれば素晴らしいなあと思います」

雑種のロバート、推定7歳。
そして、高齢のナチュレ。
推定10歳です。
飼い主の都合など様々な事情で行き場を失い保護された保護犬。
そのため、人にはあまり慣れてくれません。
尾道刑務支所の受刑者の多くは初犯で、今回のプログラムに参加するのは素行などが良い受刑者が選ばれています。
犬と宿泊する受刑者は1人1匹を担当します。
今回、怖がりのナチュレとすごすのは実家で犬を飼っていたというA受刑者。
ロバートと暮らすのは、前の月、一緒に宿泊していたB受刑者に決まりました。
寝泊まりに使用するのはプログラムのために特別に用意した部屋です。
保護犬が、今後、誰かに譲渡されたときのことを考え、犬が入るサークルを置いて家に近い環境を準備しました。
刑務作業以外の時間にエサやりや散歩、排泄の世話をし、自由時間は一緒に過ごします。
軽快な足取りで散歩を楽しむロバートの一方で、ナチュレは塀に体をくっつけおびえた様子です。

逃げるようにして歩く姿にA受刑者も少し困った表情を浮かべます。
不安そうな表情を浮かべるナチュレ。A受刑者は優しく声をかけ続けます。

【A受刑者】
「初めましてだもんな、ナチュレな」

そして、いつの間にかA受刑者もサークルの中に…。

【A受刑者】
「やっぱ我慢できなかったですね。外から見てるだけじゃ。楽しみにはしてたんで、すごいやらせてもらっていることに感謝しますし、でも不安もありますし、そんな中でやっぱりナチュレがどんどん人慣れをしていくようにどうすればいいかを考えながら、接していって今以上にもっと元気になってくれればいいなと思いますね。頑張ろうな」

ナチュレは自分に慣れてくれるのか…長い16泊が始まります。

受刑者が起床する時間に犬も一緒に起床します。
保護犬は人と一緒に過ごすことを目標にトレーニングを積みます。
人の生活リズムに慣れるため人がいないときに部屋で静かに過ごすことも大切だといいます。

また、犬とふれあうことで認知機能が低くなった高齢の受刑者や障がいなどの影響で感情の起伏が大きい受刑者の精神的なケアにもつながっています。

【作業療法士】
「自分自身の気持ちを言葉で表現するっていうことがすごく難しい人が多いんですけれども、どんどん言葉での表現が上手になってきたのかなっていう変化はすごく感じられるところがあります。社会復帰に向けて、まず第一歩としていい機会になるんじゃないかなというふうに思っています」

プログラムは順調に進み、16泊も残すところあと1泊となった日。
散歩の様子を見てみると…。
ロバートと並んで歩けるようになったナチュレの姿が…。
グラウンドでも一緒に走れるようになりました。

【A受刑者】
「すごい成長してくれたなと思いますね。楽しいし、うれしいですね。やっぱりそうやって動いてくれると。動かなかった子がやっぱりこうやって走ってくれたら私は嬉しく感じますね」

ナチュレの変化は一目瞭然。
それは受刑者も同じです。

【A受刑者を担当する刑務官】
「ネガティブなタイプではあったんですけど、どんどん表情も良くなりましたし、今までなかったようなリーダーシップという所を出してくれてる」

せっかく犬との生活に慣れてきたのも束の間。
明日でいったんお別れです。
2匹は塀の外にある保護犬のシェルターに帰ります。
ナチュレとの共同生活でA受刑者も大きな心の変化を自覚していました。

【A受刑者】
「(刑務所に)入る前はすごい自分のしてしまったことにすごい後悔をしてしまって、なんでこんなことをしてしまったんだと全然前を向くことが出来なかったんですけど、このプログラムに参加させてもらうことができて、早く社会に戻れるような人間になりたいっていうのはすごく強く思って。自分だけが癒されるんじゃなくて、保護犬のためにどうしたらいいかっていうのをしっかりと考えながら、どうやったらもっと人懐っこくなってくれるのか」

素行に問題なければまた保護犬のプログラムに参加できる。
塀の中という限られた環境の中で自分を律する存在にもなっています。

【A受刑者】
「いつお別れになるのかわからないですけど、こうやって来てくれるうちはすごいかわいがりたいし、一緒に成長していけたらなとすごい思いますね」

同じ会社で働いていた父親を受刑中に亡くしたB受刑者。
自らの感情を抑えきれずに罪を犯し、父親の葬儀にも出席できなかった…。
被害者への贖罪の気持ちとともに大きな後悔を抱えています。

【B受刑者】
「会社にいた犬がこんな感じの犬なんですよね。その犬が父親にすごいなついてて、それを思い出しちゃうんで、悲しくなる半面、やっぱり常に父親に対して申し訳ないって気持ちがすごい強いから、そういうのを思い出させてくれるきっかけにこの子が今なっているので」

なぜ罪を犯してしまったのかー。
犬と関わるうちにようやく芽生えてきた思いがあります。

【B受刑者】
「(会社で)地位的には上にいたんですけども、その時の気持ちじゃダメだなというのがあって。ロバートと生活してみて、すごい感じるんで、人に感謝することを意識して生きていく」

犬との信頼関係を築いた2人。
とうとう明日は最終日です。

今回のプログラム最後の散歩。
思いは複雑です。

【A受刑者】
「いい子にしてるんぞ。向こうに帰っても。また来月待ってるからね、なっちゃん。覚えといてよ。できたこともね、なっちゃん」

刑務所の中でまじめに暮らしていればまた会える…。
そう思いながら2匹に背を向け、いつもの刑務作業に戻っていきました。

【プログラムを担当する刑務官】
「自主性であったり、積極性であったり、そういったのがとても芽生えたかなと思います。彼らも刑期が終われば社会に戻っていきますので、彼らが出所後に(保護犬を)引き取って飼育するというようなことに繋がれば素晴らしいのかなと考えています」

犬を育てながら自らの罪に向き合う受刑者たち。
寄り添い、支えることで社会復帰への道を一歩ずつ歩んでいきます。

テレビ新広島
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