89歳の店主が一人で焼き続ける、岐阜県飛騨市にあるお好み焼きの店「浪花」。飛騨ねぎと牛すじが香る鉄板の前には、地元客も観光客も集まります。寒い町で人と心を温める“母ちゃんの人情の味”に密着しました。
■89歳の店主が焼く飛騨ねぎと牛すじのお好み焼き
JR飛騨古川駅前で70年。「浪花」の店主・長瀬英子さん(89)が焼く店の看板メニューは、「飛騨ねぎと飛騨牛すじのお好み焼き」(750円)です。
英子さん:
「飛騨ねぎは、やわらかくて美味しい」
切り置きはせず、注文が入るたびにねぎを切り、生地にのせていきます。
隣町の肉問屋から仕入れた飛騨牛のすじ肉は、大きな鍋に入れて弱火で3時間。コトコトと煮込みます。
英子さん:
「下準備が大変」
生地の上に牛すじをのせ、仕上げにソースをたっぷりと塗ってマヨネーズをかければ完成です。
客:
「脂がおいしいです」
別の客:
「お母さん、牛すじおいしい」
■昭和のぬくもりと人情の味
店内では、ストーブのやかんで日本酒の熱燗。懐かしい昭和の光景が、今も残っています。牛すじで一杯やるお客さんの姿も。
客:
「筋は普通硬いけど、しっかり火が通っていてやわらかい」
牛すじ入りのお好み焼きと並んで人気なのが、この地方ならではの「中華そば」(650円)。スープは醤油をベースに、野菜や豚骨などを加えて仕込みます。
チャーシューとナルトを入れて煮込んだら、細ちぢれ麺に合わせて、シンプルイズベストな一杯が完成です。
客:
「中華は昔ながらの味」
「五目焼きそば」(790円)も人気で、特に海外からの観光客から大好評です。
イタリアから来た客:
「この焼きそば一番好き。ほんとに美味しい」
アメリカから来た客:
「オイシイ、スゴイ!」
味はもちろん、リーズナブルな値段も魅力の一つです。
客:
「ほんと良心的な価格です」
別の客:
「おいしかった。これで採算合うの?」
英子さん:
「そんなにたくさん儲けないでもいいの」
この店では、客たちが自然に食べた後のお皿を持ってきてくれます。それは海外の観光客も同じです。
常連客:
「お母さんが一人でやっているので食べ終わったら、みんな持ってきてくれる。優しい客ばかり」
■体が動く限り母ちゃんは鉄板の前に立ち続ける
大阪の出身の英子さんは、戦時中に疎開して飛騨へ来ました。
英子さん:
「大阪の出なので、看板が浪花」
太平洋戦争の末期、大阪空襲を逃れるため父親の故郷・飛騨市へ疎開。あれから約70年。英子さんは親兄弟とともに、お店を切り盛りしてきました。今は甥の長瀬浩さんが英子さんを支えています。
毎朝、なじみのスーパーへ出かけ、野菜などの買い出しを担当。浩さんにとって英子さんは母親のような存在だといいます。
浩さん:
「やっぱり(英子さんは)いてもらわないと。かけがえのない人っていう感じですね」
店が混んでくると、浩さんは現れ、英子さんが仕事をしやすいよう注文などをサポートしています。
英子さん:
「ありがたい。私はただ焼いていればいい。あの子がいないと何もできない」
夜になると、地元のなじみ客が集まります。
客:
「おばちゃん元気?」
英子さん:
「どうやら元気」
英子さんには、定休日はありません。
英子さん:
「休んでボーっとしていても仕方がない。ボチボチでも動いている方がいい。体が動く限りはやりたい」
体が動く限り、焼き続けたい。89歳の母ちゃんは、今日も鉄板の前に立ち続けています。
