今月20日に発売された小説「ここにいるよ」。人気経済小説「ハゲタカ」シリーズで知られる作家の真山仁さんが能登半島地震の被災地を舞台にした新作です。小説に込めたメッセージを真山さんに伺いました。
稲垣真一アナウンサー:
「珠洲市の宝立町に来てますけれども…真山さんはどれぐらいぶりにいらっしゃいましたか」
真山さん:
「多分5カ月ぶりぐらいですかね。(当時は)倒壊した家が多かったイメージがあって、いつまで続くのかなという印象があったので、逆にこれだけ更地になっていくと急に進んだ…大体被災地って急に何かが変わるんですけど、何となくまだ更地じゃないんですよね。とりあえず上をどけたみたいな感じで…さてどうしようここって皆さんはどう思っているのかな、という興味に変わりますよね。」
稲垣アナ:
「次の未来をどうするかという…」
真山さん:
「そうですね。」
作家、真山仁さん。経済小説『ハゲタカ』シリーズなどで知られる真山さんは、今年1月から7月まで、北陸中日新聞で能登半島地震をテーマにした小説「ここにいるよ」を連載。
阪神淡路大震災で妻と子どもが犠牲になり、東日本大震災の被災地の小学校に赴任したことがある主人公の男性が旅行先の能登で能登半島地震に被災。その後、支援活動で能登の住民や子どもと触れ合う中で、日本社会の抱える問題が次々と見えてくるという物語です。それをまとめた単行本が今月20日に出版されたのを機に能登を再び訪れた真山さんに、お話を伺いました。
稲垣アナ:
「真山さん改めて、この本をお書きになられようと思ったきっかけはどういうものだったのでしょうか?」
真山さん:
「東京は本当に能登の地震のことが日々とは言いませんが、週間単位でどんどん忘れ去られていく…その感じは多分過去(の震災で)最も早かったかな、という。一番問題だったのは、正しく伝わっていない。じゃ『能登が声を上げればいいじゃないか』っていうふうにみんな思うんですけど、声を上げても届かない場合もありますよね。なかなかアクセスが難しくて奥へ入るのが非常に難しい。実際の奥にいる人たちの声が全然聞こえてないのに、もういいんじゃないのって思ってしまったっていうことで、これは今までの大地震のパターンとは違って、それは正しく発信するものを一緒に離れた人がやらなきゃいけない。現場で色々と見て、色んな人に取材というよりは何気なくお話を聞くことで、阪神淡路(大震災)の際はこうで東日本大震災の時はこうで、まだこんなことやってるのかみたいなこととか、あるいはここは全然違うなということをできるだけ分かりやすい物語で伝えようのが小説家としての使命なのかなというのがこの本に至ったという感じですね。」
去年6月から能登で現地取材を重ねてきた真山さん。そこで「あること」を感じたといいます。
真山さん:
「港ごと、集落ごとですごく自己完結力が強い。いかに自己完結力で生き残ってきたかっていうのがありますよね。これって、なかなか(外の人間には)分かりにくいことなんですよね。だからそういう意味では、最初は遠慮深いのかなと思ったらそうじゃなくて、誇り高いのかなと。自分たちは自分たちでちゃんとやるんだと…だからそれができなくなった時に多分声を発するんだろうなと。我々って何があればもっと元気になるかな。あるいは子供や孫がいつか戻ってくるたびに何がいるかなっていうことをやっぱりずっとみんなで話し合って、それで自分たちでの独立独歩の精神が強い人たちが、それをより強くするために何がいるんだろうねっていうところから始める時が今なんだと思うんですよ。」
真山さんと一緒に訪れたのは、見附島。地震によって形が崩れてしまったことよりも「ここまで形が残ったことに目を向けてほしい」と語ります。
真山さん:
「震災の後に生まれた子どもたちがこれを見て大きくなってくるんですよね。昔を知っている大人からすると『これは本当の見附島じゃないんだよ』って言うかもしれないけど、これを見てしか育ってないと『これが見附島じゃないの』って話ですよ。どっちが大事かというと、「これが見附島」なんです。逆に今度これ変わらないんですよ。つまり、ゼロスタートの原点がここに、いわゆるグランドゼロがここにあるんですよ。そういう意味ではもっとシンボルになってほしいですよね。」
稲垣アナ:
「最後にテレビをご覧の皆さんにどういうふうに読んでほしいということをメッセージをお聞きいただいてほしいですか?」
真山さん:
「小説って読んでいただくと感情移入できますよね。まさに自分が発災からずっと能登で生きているような人の気持ちの疑似体験ができる。そうすると、多分行ってみたいと思って頂けるようになると思うんですよ。そういう意味ではぜひそんな難しい小説ではないので手に取って頂いて、物語の中に少し自分を置いて頂くことで、今までと違う能登半島地震との距離感を持ってもらえればいいかなと思っています。」