一部で避難指示が解除された福島県浪江町大堀地区の窯元が、陶磁器の新ブランドを立ち上げた。新たな作品を通して大堀相馬焼の「伝統」や「技術」を発信する。

■大堀相馬焼・陶吉郎窯
福島県浪江町で300年以上の伝統を誇る大堀相馬焼。
窯元「陶吉郎窯」の十代目・近藤賢さんは、原発事故で福島県いわき市への避難を余儀なくされたが、父・学さんと2018年に避難先で工房を新設した。
2023年3月に東京電力・福島第一原発から約10キロの距離にある浪江町大堀地区の一部避難指示が解除されたことを受けて、2024年に故郷の大堀地区にも工房を再建した。

■十代目が立ち上げた新ブランド
近藤さんは2つの拠点で活動するなか、2025年9月に新ブランド「TAKASHI KONDO」を立ち上げた。「テーマとしては、白い、釉薬を掛けていない磁器の作品。作り方としては、その形にあった様々な作り方をしている」と近藤さんはいう。
新ブランドは、趣が深い日本の伝統的な美しさに、立体的な動きなどを加えた現代のセラミックアート。近藤さんは「私が普段、制作している『イノセントブルー』というデザインからかインスパイアされた自然の情景。空気の流れ、大気の動き、水の動き、そういったものをテーマに作っている」と語る。

■遺伝子を残した新たな作品
父・学さんは「新ブランドといえども、今までの特徴は残っている。もしかしたら、新しい『令和の大堀相馬焼』になるかもしれないし。ものを作って発信していくのは、非常に有意義なことではあると思う」と、新ブランドに期待を寄せる。
近藤さんは「出来上がりは全然違うものになるけど、私が培ってきた技術で制作するので、大堀相馬焼が根底にもちろんある。新しい人がやりたいって思う仕事になるようにしていきたい」と話す。

■共鳴する思い
新ブランドの立ち上げを企画したのは、東京都を中心に工芸ブランドをプロデュースする菊地耀仁(きくちてるひと)さん。
2年前に実家の宮城県へ帰省中、テレビで陶吉郎窯を知った菊地さん。近藤さんの作品に魅せられ、一緒にブランドを作って発信したいと考え、2024年6月からプロジェクトを始動させた。
「こんなに美しいものだし、こんな歴史あるものなのに、こんなに頑張らないと繋げられない。できればお力になれればなと思っていた」と菊地さんはいう。

■課題解決につながる一歩
大堀地区の約20の窯元のうち、故郷に戻っているのは2025年の時点で陶吉郎窯だけ。産地の継承や、担い手不足などが課題となっている。
菊地さんは「こういう素晴らしいブランドがあるということを知っていただいて、ひいては、後継者不足とか、流通額不足、そういったところに貢献できる一助になるかなと思っている」と語る。

■お披露目 評価も上々
2025年9月に福島県いわき市のギャラリーで開かれた作品発表会。平安時代、祭祀用に使われていた素焼きの器「瓦笥(かわらけ)」をイメージした器や花瓶など、約30点を展示・販売した。
来場者からは「とても良いことだと思う。震災もあったし、なかなかこんな風に持っていくのは大変だったと思う。だから、とてもこれから楽しみですよね」との声が聞かれた。

■大堀相馬焼のこれから
今後、新ブランドでは大堀相馬焼の特徴を活かした陶磁器を生み出していく予定だという。近藤さんは「大堀相馬焼はある意味誇りでもある。大堀地区で生まれ育った1人として、担い手の1人として、これからも続けていきたい。私が作ることによって、大堀相馬焼の一部にもなると思うし、違うアプローチから見ていただいた方が大堀相馬焼も知るきっかけにもなると思う」と語った。

現状維持ではなく、新たな挑戦が大堀相馬焼の「伝統」や「技術」をつないでいく。

福島テレビ
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