さまざまな理由で9月は若者たちの心が限界に近づく季節だ。厚生労働省の統計によると、10代・20代の自殺者数は9月に急増する傾向がある。

「親に頼れない」若者が直面する現実

日本には、児童養護施設や里親家庭で育つ子どもが約4万人いる。児童福祉法の改正により、2024年4月からは最長で22歳までだった支援の対象となる年齢制限は緩和され、自立するまで支援を継続できるようになった。
しかし、実際には親を頼れない若者は、依然として多くの壁に直面しているという。中でも住まいの確保は、最も大きな課題のひとつだ。

居場所をつくる取り組みも

親を頼れない若者に居場所を届ける活動をしているのが、一般社団法人Masterpiece(マスターピース)だ。社会の中で埋もれがちな若者の「生きづらさ」や「制度の壁」に寄り添い、役所や病院への付き添いなどの支援も行っている。

菊池代表が運営するシェアハウス
菊池代表が運営するシェアハウス
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代表の菊池まりかさんは児童養護施設で働いていた経験を持つ。施設を巣立った子どもたちの知らせを聞くたびに、何もできないことにもどかしさを感じ、2018年、私財を投じてシェアハウスの運営を始めた。現在は、安心して暮らせる住まいの提供に加え食料支援なども行っている。

「野宿することもよぎった」

物心ついた頃から児童養護施設で育ったみおさん(仮名)は18歳で自立援助ホームに移り、20歳まで、人生の大半を社会的養護のもとで過ごしてきた。一人暮らしを始め順調に自立への道を歩んでいたが、結婚後、夫のモラルハラスメントによって住まいを失った。

シェアハウスでの生活の様子
シェアハウスでの生活の様子

「生活費もなく、公園やガード下で野宿することもよぎった」と語るみおさんは、知人を介してマスターピースのシェアハウスに辿り着いた。保険証を使うと居場所が夫に知られてしまうため病院にも行けず、離婚する方法も分からなかった時、代表の菊池さんが一緒に考えてくれたことが心の支えになったという。それでも、親がいないことで新しい住まいを借りる際の保証人の確保に苦労するなど、親を頼れない若者が直面する困難は多い。

「まずは信頼できる人を一人見つけて」

施設出身の若者たちは、リアルな声を発信している。
「施設を出たら自己責任」「誰に頼ったらいいのか分からない」

一方、みおさんは自分と同じように悩んでいる人達に、こう伝えたいという。「まず繋がりを作りにいってみて、一人信頼できる人をみつけてほしい。困っている時は気力もなくて大変なので、元気な状態の時に繋がっていってほしい。助けてくれる人はたくさんいるから」

制度の隙間に落ちる若者たちの居場所を

「頼れる人がいる」という事実がどれほどの希望になるか。話を聞いて胸に迫るものがあった。制度の隙間に落ちてしまう若者たちを受け止める場所がひとつでも多く必要だと思った。

シェアハウスでの生活の様子
シェアハウスでの生活の様子

マスターピースは、シェアハウスの修繕費やスタッフによる伴走支援費などを目的に、9月30日までクラウドファンディングを実施している。

(フジテレビ社会部 松川沙紀)

松川沙紀
松川沙紀

フジテレビ社会部・省庁キャップ こども家庭庁担当