オンライン会議の“ちょっとした不便”にぴったり
新型コロナウイルスの感染拡大を受け、増えるリモートワークの機会。
それに伴い、スーツを着る・メイクをするといった機会も減りつつあるが、オンラインでの会議がある日には、出社時と同じように身だしなみを整えてから参加する…という人も多いだろう。
編集部では以前、カメラに映る胸から上の部分だけがワイシャツ、その下はスウェット生地で出来ている「テレワーク用部屋着」についてご紹介したが、他にも「カメラに映る範囲だけでも片付けておかないと…」「服も大事だけれど、やっぱりメイクもしないと…」と、様々な不便さを感じている人もいるだろう。
(関連記事:上半身だけ“ビジネス仕様”…着替え要らずの「テレワーク用部屋着」が便利かも?)
そんな悩みに応えてくれそうな、“パジャマでもオンライン会議に臨める”アプリが登場している。
この記事の画像(5枚)それが、株式会社EmbodyMeが手がける、バーチャルカメラアプリ「xpression camera」。
このxpression cameraは、あらかじめ用意したビデオや画像に、カメラでとらえた自分の表情・まばたき・口の動きなどをリアルタイムで反映させて動かすことができる、というもの。
スーツ姿でばっちりメイクをした自分の写真を1枚用意しておき、あとはカメラの前でいつも通り喋るだけ。
カメラの前にパジャマ姿で座っていても、オンライン会議のメンバーには、身だしなみばっちりの自分が喋っているように見えるというわけだ。
アプリのダウンロード後はカメラ設定からxpression cameraを選ぶだけで、ZoomやGoogle Meetなど、様々な場で使うことができる。
オンライン会議のたびに着替えたりメイクをしたり…とバタバタ用意をすることがなくなりそうな「xpression camera」。
「顔を映したくないから、普段はカメラをオフにして音声だけの参加をしている」という人でも使いやすそうな印象があるが、株式会社EmbodyMeに詳しくお話を伺った。
「常に他人から見られる疲れ」に対応
――xpression camera開発のきっかけは?
コロナ禍でリモートワークやオンライン診療、オンラン授業やオンラインイベントなど、ビデオチャットやライブストリーミングが欠かせなくなってきていますが、様々な問題点も生まれてきています。
例えば、Zoom疲れという言葉をよく聞くようになってきていますが、その⼤きな原因は、⾃分の顔が表⽰されていて常に他⼈から⾒られているように感じることです。
Zoom疲れをしないために、また化粧をしたくない、散らかった部屋を⾒せたくないなどの理由で、カメラをオフにしている⼈は多いですが、カメラをオフにすると相⼿が会話をしにくく感じてしまいます。
xpression cameraは⾃分の実際の顔を隠して表情だけを伝えられるので、Zoom疲れをすることがなく、化粧をする必要もありませんし、散らかった部屋を隠すことができます。
――どのようにしてリアルタイムで表情を反映させている?
ディープラーニングで顔の詳細な形状を認識し、GANと呼ばれる技術で画像生成を行っています。
従来の顔認識技術では、2Dで70点ほどの顔の点しか認識できなかったのですが、弊社技術は3Dで最大50000点の、より詳細な顔の形状や表情が認識できるのが特徴です。
動かす画像とユーザの顔の認識を行い、GANで画像を生成する処理をすべて0.01秒の間に行い、リアルタイムでの動作を実現しています。
xpression camera開発の背景にあるのが、「Zoom疲れ」という言葉にもあるような、オンライン会議へのストレス。
普段の会議の場と違い、常にお互いの顔をしっかりと見ながらのやりとりには、確かに“監視”されているようなプレッシャーを感じる人もいるだろう。
そんな時、自分の顔が表示されつつも表情以外の部分は隠せるxpression cameraは、ストレスの軽減につながり、むしろ積極的に会議に参加しやすい雰囲気づくりにも一役買ってくれそうだ。
――実際にxpression cameraはオンライン会議で活躍している?
今年2月以来、全社員がフルリモートワークを行っています。
ミーティングでは、ほとんどの社員がxpression cameraを使用しており、顔を出すことによるストレスが軽減されるという声を多く聞きます。
また、ビデオチャットでは雑談のようなコミュニケーションが難しいという問題がありますが、普段のミーティングでは、xpression cameraで使っている画像にツッコむことで自然とコミュニケーションが生まれていて、とてもよい効果だと思っています。
今後は「オンラインのマナー」にも変化が?
また、EmbodyMeが指摘するのが、今後のオンライン会議でのマナーの変化だ。
――オンライン会議にはメイクやスーツが必須という雰囲気について…
xpression cameraを使えば、画像一枚あれば、実際はどんな格好でも、メイクをして、オフィスカジュアルの服を着て会議に参加できるので、マナーもいずれ変わるのではないかと思います。
他人に自分の姿をよく見せるというのは、マナーでもありますが、ファッションや美容でもあり、服やメイクの他にも髪型、香水、美容整形など様々なものがあります。
しかし、ほとんどがオンラインで行われるコロナ禍ではそうしたファッションは必要とされなくなってきていて、実際に服を買わなくなってきたという声は多く聞きます。
xpression cameraを使うと自分の体の制約がなくなるので、従来のファッション、マナーの概念が大きく変わると思っています。自分が3歳の時の写真を使うとか、別の人になるとかを、ちょっとおしゃれをするぐらいのファッションとして気軽に使われるようになる、また、フォーマルなミーティングでは自分の一番良い頃の正装の写真を使うことがマナーというように変わってくるかもしれません。
――その他追加していきたい機能は?
音声だけから表情や頭を動かす機能を開発中です。
PCのWebカメラの前でビデオチャットをする必要がなくなるので、家事や子供の面倒みたりしながら、散歩・ジョギングしながら、どんな状況でもビデオチャットができるようになります。
また、体全体を動かすことができる機能も開発中です。今のビデオチャットでは上半身しか写すことができませんが、体全体を使った多彩な表現ができるようになり、対面でもできないような様々な動きを取り入れたコミュニケーションが可能になります。
――今後、xpression cameraがどのように活躍することを期待する?
最近、Black Lives Matter、Me Tooなどの運動が大きな社会問題になっていますが、我々は無意識のうちに、外見、性別、人種などで人を差別をしてしまう、もしくは先入観をもって人を判断してしまいます。
xpression cameraを使えば、外見に左右されずに仕事ができるようになるので、真に平等な環境を実現できます。
将来的には採用面接段階からxpression cameraを使い、普段の仕事もすべてxpression cameraで行われるような活用を期待していて、外見、性別、人種などが何であれ、誰もが平等に働ける世界を実現していきたいと思っています。
xpression cameraは、まずはMac版をアプリサイトのウェイティングリストに登録したユーザーに順次無料で配信し、Windows版については近日公開予定。
オンライン会議のための着替えやメイクが面倒…という人にぴったりのアプリだが、「オンライン○○」が増える今、変化しつつある常識に対応するためのもっと大きな可能性も見えてきた。