リスクが大きい「ジェル状充填剤」

手軽に「プチ豊胸」のはずが…今、豊胸に使用するジェル状の充填剤が原因で、健康被害が相次いでいる。

2019年に「使用自粛」となったはずなのに、なぜ…その背景を取材すると、日本特有のある事情が浮き彫りとなった。

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豊胸の施術を受けた40代女性:
胸にジェルを入れる形での豊胸で、3倍~4倍ぐらいに腫れ上がって、炎症でもう一刻を争うような状況だった

2020年5月、福岡市内の美容クリニックで豊胸した女性。仕上がりに満足したのもつかの間、1週間後には「激痛」が襲い、緊急手術を受ける事態に…

この女性には、こんな願いがあった。

豊胸の施術を受けた40代女性:
以前に長く不妊治療をしていたんですね。それをきっかけにホルモンのバランスがすごく崩れてしまって、もともとあったもの(バスト)が落ちてしまって…元に戻したいというのが大きかった

費用は、自由診療で約50万円。

ジェル状の充填剤を胸に注入する施術だったが、実はこの充填剤が「使用自粛」を求められているリスクの大きな薬剤だった。

豊胸の施術を受けた40代女性:
ちゃんと安全が保証されていないので、きちんと良識のある病院ではされてないというのは、後からは知りました

今回使用されたジェル状の充填剤は海外製で、国内では未承認。これを注射し、体内に入れていく。

固形のシリコンバッグなどを入れる従来の手術と異なり、メスを使わないため、「切らない豊胸」として人気がある一方、健康被害の報告が相次いでいる。

合併症も…「異常な数値で命の問題」

日本美容外科学会(JSAPA)の調査では、美容医療に携わる医師の実に半数以上が「充填剤による合併症を診察した経験がある」と回答した。

最も多かった症状は「しこり」。もし、充填剤で大きなしこりができると、乳がんのしこりを見落とす危険性も指摘されている。

福岡市中央区にある美容クリニックでは…

ザ・クリニック 福岡院 志田雅明院長:
ジェル剤を使った豊胸もやっていたが、やはりいろんなトラブルがあるということで、早々にやめている

合併症のリスクを重く見て3年前、ジェル状の充填剤を使用中止に…ただ、最近は他のクリニックで施術を受け、合併症に悩む患者が殺到しているという。

ザ・クリニック 福岡院 志田雅明院長:
ちょっと見ていただきましょうか。右側だけ、かなりぐ~っと腫れ上がってきて、熱が38~39度ある。

ザ・クリニック 福岡院 志田雅明院長:
腹膜炎と同じような血液検査の状態だった。明らかに異常な数値で、命の問題ですね

一度注入すると全て取り除くのは困難

駆け込んできた患者に応じて行っているのが、充填剤の「除去」手術だが…

ザ・クリニック 福岡院 志田雅明院長:
シリコンバッグは、簡単に言うと、引っ張り出せばおしまい。包まれているし、つるっと取れる。だけど充填剤は、下に落ちて陰部まで流れたりとか、わきから入れているので、手の方に流れて取り出せなくなる方がいる

患者のCT画像。胸に入れたはずの充填剤が、なんと下腹部まで移動していた。

ジェル状の充填剤は、体内で散らばりやすく、一度注入すると、全てを取り除くのは困難だという。

ザ・クリニック 福岡院 志田雅明院長:
ちょっとでも残ってると、またばい菌がついて熱が出るのを繰り返すので。入れてしまった物は全部取り出せないが、95%以上しっかり取らないといけないので、小さい傷では無理。5cm弱しっかり開けさせてもらって、右胸だけで6リットル以上の水で全部洗い流している

さらに、もし無症状が続いていても、決して安心はできないという。

日本医科大学付属病院(美容後遺症外来)朝日林太郎医師:
非吸収性の物(ジェル状の充填剤)は、ずっと体内に残っているので、5年、10年たってから炎症反応や感染が顕在化してくることは、決して珍しいことではない

「使用自粛」求めるも日本特有の事情が…

2019年4月、厚生労働省で開かれた記者会見。美容関連の学会など4団体が共同で明らかにしたのは…

日本美容外科学会(JSAPA) 大慈弥裕之理事長:
充填剤注入による豊胸術に関する過去の経緯を踏まえて、われわれは安全性が証明されるまで非吸収性(ジェル状の)充填剤を豊胸目的に使用することは実施すべきでない

全国の美容クリニックに対し、ジェル状の充填剤の「使用自粛」を求める声明を発表。同時に、厚労省もその声明の周知に乗り出した。

だが、現在も相次ぐ合併症の患者。ジェル状の充填剤を使うクリニックは、いまだ少なくない。一体、なぜなのか…

日本美容外科学会理事長で、福岡大学の大慈弥教授が指摘したのは、美容分野など「自由診療」における日本特有の事情だった。

日本美容外科学会(JSAPA) 大慈弥裕之理事長:
日本の場合は、医師の裁量権がすごく強い。自分の患者さんに必要と判断した時には、医師の裁量で、海外からいろんな医薬品とか材料とか機器を取り寄せて、日本で承認されていないものも使えるという制度。国が規制するわけではないので、医師の見識に任せるしかない

「個人輸入」という制度。

日本では、自由診療の場合、今回の充填剤など国が承認していない薬剤でも、医師が「患者に必要」と判断すれば、個人の責任で輸入し使用することが認められている。

こうした国は、世界的に見て「異例」。

安全性が確認されず、海外ではまだ使用できない新商品も次々と日本に流れ込んでいるわけだ。

日本美容外科学会(JSAPA) 大慈弥裕之理事長:
国際学会なんかで海外の美容の先生と話をすると、日本は「実験場」になってるんじゃないかと。日本で試してみて良ければ、その国で承認してもらうとか、そういうことまで言われるので。新しい材料にとって日本は非常に使いやすいし、日本で何か効果が出れば世界で売れるというような、非常に危ない状況

インタビューした女性の施術をしたクリニックは今…ホームページには、充填剤をPRする文言が並び、中にはこんなフレーズも…

真意を確かめるべく、クリニックの担当者に取材を申し込んだが、これまで(9月26日)のところ折り返しの連絡はない。

(テレビ西日本)