百日ぜきの感染拡大が止まらない。

国立健康危機管理研究機構によると、6月29日までの1週間に報告された患者数は3353人で、2週連続で過去最多を更新している。

百日ぜき-。聞いたことはあるが、実はよく知らない。名前からして、長期間、せきが続くのだろうか?

感染症学が専門の昭和医科大学・二木芳人名誉教授に詳しく話を聞いた。

昭和医科大学 二木芳人名誉教授
昭和医科大学 二木芳人名誉教授
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■小さい子供が危険!重症化し死に至ることも

昭和医科大学 二木芳人名誉教授:
百日ぜきは古くからある病気で、その名の通り、特徴的な激しいせきが長い間続きます。

「百日ぜき菌」という細菌による感染症で、感染力が非常に強く、また小さい子供がかかると重症化して死亡することもある危険な病気です。

感染から7~10日程度の潜伏期間を経て発症。

最初は普通の風邪のような症状で、その内、せきが出はじめます。発症から2週間ほどの期間を「カタル期」と呼びます。

百日ぜき菌
百日ぜき菌

その後、「コンコンコンコン」という特徴的な強いせきが出て、最後に「ヒュー」っと笛を吸うような音が出ます。

これは、英語でいうと「スタッカートレプリーゼ」、日本語だと「犬吠様咳嗽(けんばいようがいそう)」といいます。

息が吸えないほどの激しいせきが続き、最後の「ヒュー」はやっと息を吸えた時の音です。

この時期の症状が最もひどく、小さい子供(乳幼児)は呼吸困難や無呼吸、けいれんなど、時には命にかかわるような状況になります。

このような激しい症状「痙咳期(けいがいき)」が2~3週間続きます。

そして「回復期」。せきは徐々に治まってきますが、なかなか切れず、完全に止まるまで2~3週間かかります。

感染から完治までだいたい2~3か月かかるので、「百日ぜき」と呼ばれているのです。

厚労省の啓発チラシ(厚労省ホームページより)
厚労省の啓発チラシ(厚労省ホームページより)

■薬が効かない!「耐性菌」と「新しい株」

百日ぜきは、細菌が原因の感染症ですから、治療には抗生物質が効きます。

ですから本来は、薬を飲めば長引くことなく治る病気のはずなのです。

ところが、今、通常使われる抗菌薬に耐性を持つ百日ぜき菌が増えています。

そのため、他の強い抗菌薬を投与したり、長期間使うことになったりしているのです。

しかし新生児には強い抗菌薬を使いにくいなど、現場は難しい判断を迫られています。

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さらに、今、流行している多くは、海外から入ってきたタイプの異なる「株」です。

実は昨年あたりから、百日ぜきは世界的に流行しています。

アメリカの2024年の感染者数は前年比の5倍以上、中国や韓国では小児を中心に感染者数が急増しています。

今の日本は、海外から新しいタイプの「株」が持ち込まれ、それに加えて従来の薬が効かない「耐性菌」が増えているという、非常にやっかいな状況になっているのです。

空港(イメージ)
空港(イメージ)

■生後2か月と小学校入学前にワクチンを

百日ぜきは、小さい子供、特に乳幼児にとっては非常に怖い病気です。

生後2か月でワクチンを接種することからも、乳幼児の危険性が分かります。

欧米などでは、「最初の2か月もどうにかしなければいけない」と、妊婦にワクチンを打つ国もあります。

妊婦の体内で出来た抗体は赤ちゃんにも有効で、それで生まれてから最初の2か月を守るのです。

医学的には、妊婦にワクチンを打って誕生直後の赤ん坊を守ることは正しいのですが、日本は未だ妊婦へのワクチン接種は認可されていません。

しかし、厚生労働省は、認可はしていないものの、「打っていい」というスタンスを取っており、ワクチン接種をしてくれる産婦人科医は多くいます。

今のように大流行している時は、妊婦の方は検討してみてもよいかと思います。

尚、百日ぜきの予防にはワクチンが有効ですが、数年したら効果が落ちます。

子供の予防接種としては、生後2か月と小学校入学前に打つことになっています。

小学校に入れば子供同士の接触も増えますし、忘れずに接種をしてください。

また、赤ちゃんの場合は、母親や家族からうつるケースが多くみられます。

ワクチンは不足気味ですが、できれば赤ちゃんを持つ親、赤ちゃんと接する機会が多い保健師、看護師などの方は、小さい命を守るために、ワクチン接種を意識して欲しいと思います。

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■大人はどう対処すべき?

乳幼児にとっては危険な病気ですが、大人の場合はそれほど重い症状にならないことがほとんどで、抗菌薬を服用すれば治ります。

乳幼児と接する機会が少ない人は、ワクチンをうつよりも、基本的な感染対策をしっかりすること、そして「怪しいな」と思ったら早めに医療機関を受診することが重要です。

目安は「風邪かな?」と思ってからだいたい1週間。

通常の風邪…のどの痛みや鼻水、発熱などは2~3日をピークに徐々に改善していきます。

1週間ぐらい経ってもせきが止まらない場合は、百日ぜきを疑い、検査を受けて下さい。

実は、せきなどで周囲に菌をばらまく量が多いのは、最初の風邪のような症状の時なのです。

発症から2週間程の「カタル期」は、なかなか風邪との区別がつきにくく難しいのですが、早く治療を始めるほど、早く症状も改善しますし、周囲に菌を撒き散らかすことも抑えられます。自分の症状を注意深く確認して下さい。

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■「せきエチケット」を思い出して!

百日ぜきの感染ルートは、飛沫感染と接触感染です。

感染対策は「手洗い」と「マスク」。細菌なのでアルコール消毒も効果があります。

暑い日が続く今、マスクをつけるのは大変なことです。

ですが、周囲にうつさないために、「せきが出ている人」がマスクをつける、「せきがなかなか収まらない」と思ったら、特に人の集まる場所ではマスクをつけて下さい。

そして、せきを周囲に飛び散らかさないために、肘の内側や手で口元を抑える「せきエチケット」を、今一度思い出して下さい。

周りの人を感染させないために、互いを思いやって行動して頂きたいと思います。
(昭和医科大学 二木芳人名誉教授)

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