いま、夏に欠かせないエアコン。その「室外機」の盗難が相次いでいるそうです。
命にもかかわる可能性がある、深刻な実態を取材しました。
■命に関わる事案につながる可能性も エアコンの“室外機”の盗難被害
7月7日も京都で38度近くまで気温が上がり、各地で猛暑日が続いている日本の夏。
【街の人】「バリくそ暑いっすね」
そんな中、滋賀県・近江八幡市では、夏に欠かせない「あるもの」に異変が。
【近江八幡市北津田町 辻伸仁自治会長】「全部で8台ずらっと並んでいた。ポカーンと。え?なんで…と思いましたね」
公民館の外にあった、エアコンの「室外機」8台が、何者かによって盗まれたのです。
【近江八幡市北津田町 辻伸仁自治会長】「不用心といったら不用心ですけど、(室外機を)固定もしてないですから。ある程度、広く見えるところですから、安心はしていましたけどね」
再び盗まれることがないよう、高い場所に新たな室外機を設置しましたが、予算の都合で、購入できたのは3台だけ。一部の部屋では、この夏、エアコンが使えなくなりました。
高齢者の利用も多く、命に関わる事案につながってもおかしくありません。
【近江八幡市北津田町 辻伸仁自治会長】「30度きましたよ。汗じわーって来ますよ。年寄り70~80代は倒れますわ」
■盗難件数は5年前に比べ13倍 驚異的なペースで急増
いま、この「室外機の盗難」が、全国的な問題に。
その盗難件数は、5年前に比べ、およそ13倍と驚異的なペースで増えているのです。
理由の1つは、「銅」の取引価格の高騰。
室外機には銅が多く使われていて、いま、「集中的に狙われている」と防犯の専門家はいいます。
【防犯アドバイザー 京師美佳さん】「最初は太陽光のケーブルとか、企業の物が狙われていたが、対策が進んできて、できるだけ銅のケーブルを使わない方向になってきた。そこで個人宅が狙われるようになった。室外機は外の目立たないところに置かれていることが多いので、盗みやすい」
さらに、この時期ならではの「リスク」もあるそうで…。
【防犯アドバイザー 京師美佳さん】「(室外機は)個人間売買、ネットでもやりとりが成立する。売買が成立しやすい時期というのは、絶対的にありますね」
実際にサイトを見てみると…。
【記者リポート】「大手フリマサイトには、室外機のみの出品が複数確認できますね」
再使用のために売ること自体に問題はありませんが、「売れる」時期にあわせて、犯罪集団が動いている可能性もあるといいます。
【防犯アドバイザー 京師美佳さん】「(エアコンを)そろそろ付けようかな。ほしいなっていうときに、アップしたほうが早く売れるというのはあります」
■室外機は重いが…取り外し自体は簡単
標準的なものでも20キロの重さがある室外機。ただ、取り外すこと自体は、簡単にできてしまいます。
【関西エアコン本舗 中原博彰さん】「ただの銅なので、ハサミで切ってしまえば、簡単に切れる。誰でも切れる」
本来は、環境への配慮のため、冷媒ガスを室外機の中に閉じ込める必要があり、30分ほどかかる作業ですが…。
【関西エアコン本舗 中原博彰さん】「1分とかでいけますね。外して切るだけなら。固定はされていなくて、置かれているだけ。簡単に動かすことはできてしまう」
中古エアコンを販売する会社の間でも、問い合わせが相次ぐ、異常事態になっているといいます。
【関西エアコン本舗 光本竜也代表】「この2、3年で10倍くらい、盗難の相談が増えたというのは聞く。(うちでも)ことしに入って4件ほど、(盗まれたという)問い合わせがありました。4件とも戸建てですね」
■簡単に「盗める」「売れる」
問題を深刻にしているのは、簡単に「盗める」ことだけではありません。
【金田商事 金田大地社長】「これが室外機に入っている熱交換機だが、大体650円ぐらい、1キロあたりする。これで2000円ちょっとぐらいの価値」
この業者にも、室外機を解体したとみられる金属くずが持ち込まれることはあるそうですが、それが「盗品」かどうかを判断することは容易ではありません。
【金田商事 金田大地社長】「金属は色んなところにあるので、どこから発生してくるのかは、僕らは詮索するものではない」
簡単に「盗める」だけでなく、簡単に「売れる」現状。
そんな中で、警察庁は6月、業者に対し、室外機などを売りに来た人物への本人確認を義務化する方針を決定しました。
対策は進んでいるようにも見えますが…。
【金田商事 金田大地社長】「実際に盗難品が発生してるっていうことは、身分確認なしでも買い取りをしている同業者がいるということだと思います。法をもっと厳しくするというところでなくしていくしかない。スクラップ業者のモラルの向上(が必要)」
■スクラップ業者のモラル 違法な買い取りする業者を取材
金田社長がいう、「モラル」とは。関西テレビが取材を進めると、ある業者にたどり着きました。
【記者リポート】「店の外には、家庭用とみられる室外機が、10台以上並べられています」
話を聞いてみると…。
【記者】「個人の(室外機の)買い取りもOKか」
【業者】「はい。(1台)4500円前後でみといてもらったら」
家電リサイクル法では、室外機の中古での再販売については禁止していませんが、廃棄物としての処分については、行政の許可を得るなどした、一部の業者に限定しています。
この業者は、「許可は得ていない」そうですが…。
【記者】「買い取って販売しているのか」
【業者】「販売はしていないです。処分、スクラップするので」
【記者】「買い取ったらスクラップして、それぞれの部品をまた別の業者に売る?」
【業者】「そういう形になりますね」
あっさり、違法な買い取りをしていることを明かしました。
改めて、記者と名乗った上で、違法行為をしているワケについて問いただすと…。
【業者】「どうしても個人で処分に困っている方は、しょうがなく受け入れている」
【記者】「室外機の盗難を助長する可能性があるが」
【業者】「まぁ…そうですね。盗まれたものかの判断は、身分証をもらっても確認はできないので」
【記者】「取引自体が禁止では?」
【業者】「そのへんは上司とお話いただくしかない」
■「音、光、時間、人の目」で防犯対策を
専門家はこうした現状を受けて、「自衛」が重要だと話します。
【防犯アドバイザー 京師美佳さん】「(違法な)買い取りをする業者はいまだにいる。(盗難は)なくならないのが現状。犯罪者が嫌がる四原則、音、光、時間、人の目。防犯グッズで対策すると良いと思う」
暑い夏を快適に過ごす一番の秘訣は、室外機の防犯かもしれません。
■室外機が無くてもエアコンは動く場合があるが…
室外機の窃盗について、注意してもらいたい点を「関西エアコン本舗」の光本代表に聞きました。
・盗まれて室外機がなくても、エアコン自体は動く場合がある
・ただ涼しい風ではなく暖かい暑い風が出るだけ
・高齢者は室温が下がっていなくても、生ぬるい風が出ていたとしても、気付かずに熱中症のリスクがあり、命に関わる恐れがある
自分の家は大丈夫だと思わず、対策をお願いします。