【旅行】豊かな自然、漁師さんや農家さんとの交流など、個別のニーズに合わせた体験型観光で外国人らの集客を図る北海道宝島旅行社(札幌)。鈴木宏一郎社長に地域の魅力を掘り起こし、まちを元気にする観光について聞きました。BOSS TALK#102

――学生時代はどういうふうに過ごされていましたか。
「出身が北九州市小倉北区で、育ったのが兵庫県西宮、大学が仙台で、順調に北上してきました。北海道は住んで30年くらい。西宮の高校時代は打ち込むことがなく、大学時代は親に申し訳ないぐらい学校に行きませんでした。オートバイで国内を旅行し、あこがれの北海道を走り、あまりに楽しく、いつか北海道に住みたいと思いました」
――就職は?
「若くして活躍できそうで、先輩がいたリクルートに入りました。求人や研修などの仕事をして、その間に北海道に勤務し、地元の方々が大好きな郷土を守ろうと頑張っているのに触れ、ますます北海道が好きになり、39歳で退職し、北海道に引っ越してきました」


効率的な定番ツアーに背を向け “あなただけ”の小さな観光に活路を見いだす

――観光の仕事をするという志があったわけですか。
「地域おこしをする人やアウトドアのガイドさんなど、地域の魅力をお客さんに紹介して生業にしている人が多くいらっしゃるのに、お客さんがあまり集まらず、(経済的に)厳しい現状でした。事業はそうした方の支援のため、ポータルサイト「北海道体験」を作って始めました。地域、時期、体験内容で検索し、予約ができるプログラムです」
――順風満帆でしたか。
「最初の3、4年は本当に大変でした。外国人観光客の増加に向けた『ビジットジャパン』のキャンペーンが国を挙げて始まり、好転しました。北海道へのあこがれがあるシンガポールに行き、”竹やり営業”を行いました」
――成功しましたか。
「オーダーメイドのツアーを行っており、お客さんの家族のお誕生日や記念日、趣味、北海道でやりたいことを根掘り葉掘り聞き出します。例えば、ジオグラフィック的なものに関心がある人がいるとします。どういう火山活動で山ができているか、山を歩きながら身をもって感じてもらい、人が住む平野部を眺めながら降りて来て、地元の方と交流し、おいしい料理を一緒に味わう。普通ではできない深い体験を作ってご提供しています」


観光地でない地域の”宝”を掘り起こし、ニーズに合わせ、観光の目玉に

――完全にお客様のニーズに合わせたプランですね。
「同じプランは一つもありません。そうしたことに頑張ってくださるまちや、地域の方が増えており、本当に北海道は宝の山、宝の島です」
――今、力を入れられていることは?
「昔は外国人のお客さまは富裕層と言われていましたが、(近年は)家族連れなど、普通のお客さまもどんどん増えており、テーマやサービスのレベルを変えています。自転車に乗ってみたい、ハイキングしてみたいという方も多いです。欧米豪の方は体を動かすのが好きです。そうした観光に北海道は最高です。山の頂上を目指すだけではなく、景色の良いところを歩きたいというニーズもあります。(ツアーの成否は)お客さんのニーズをきっちり聞けるかどうかにかかっています」
――商品開発は常に新しい視点で行う必要がありますね。
「北海道各地の観光地ではない地域の漁師さん、農家さんとの触れ合いがめちゃくちゃおもしろい。農家さん、漁師さんが毎日、お客さんを受け入れるのは不可能です。暇な時期に『1カ月に2組ぐらいなら』と受け入れてくださる方々を大事にしています」


外国人の感動に触れ、住民が気づく普段の生活の価値 郷土の魅力

――北海道の地域の方がインバウンドの方と触れ合う機会が増えています。地元からはどんな声が届いていますか。
「それが実は自分たちのやりがいになっています。お客さんを受け入れてくださる方は地域の普段の生活、生業をお裾分けしてくださる。外国のお客さまは本当に感動すると『ワーオ』と握手を求め、ハグしてくる。『また来るよ』と言って本当にやって来ます。富裕層だから行きたいところは多くあるのに。地元の方は『次はどこの国の人が来るの?』って楽しみにしてくださる。一番うれしいのが地元のお子さんや若者の反応です。外国人のお客さまの感動する姿に『うちのお父さん、お母さんはすごいな』『うちの地域は格好いい』ってなります。観光が地域の活性化に活用できる。金銭面だけなく、そうした価値があると思います」
――無形の価値ですね。自分の親や地域の人、地域自体をリスペクトする若者が増えているのですね。
「農家さんはトラクターの上が格好いいし、漁師さんは港や船の上にいるのが一番、格好いい。本物が勝負。北海道は本物だらけなので強いですよ」


「観光業界のステータスを上げたい」 北海道から待遇改善を推進

――本当に宝島ですね。ボスとして大切にしていることは?
「地域の農家さん、漁師さん、商店街の方に信頼をいただいているのは、うちの社員です。コロナ禍(の厳しい営業状況)でも1人も辞めさせたくなかった。小さな会社なので給料をバンバン上げられるわけではありません。でもフレックスタイム制度を導入したり、お休みを取りやすくしたり、(子育てに優しい企業を認定する)『くるみん』を受けたり。大事な宝物である社員を幸せにして仕事しやすくし、この会社に行って良かったと思えるよう、頑張りたいです」
――これから先、宝島の北海道で事業をされる意味や未来の展望をどういうふうに考えていますか。
「観光の仕事のステータスをもっと上げたい。観光立国とか、観光は北海道の基幹産業だって言われる割に、働く方々の給料や待遇はあまり良くないです。世界の富裕層が来ているのに、おもてなしをし、喜んでいただく仕事をする人間が幸せでなければ、ちぐはぐだと思います。『今だけ』『ここだけ』『あなただけ』という旅行に北海道の価値を認め、対価を払い、地域をリスペクトしてくれるお客さんを少しずつ増やしたい。それに携わる観光旅行業界の人の給与、待遇を良くして、観光の仕事に誇り高く取り組む人が自慢できるよう、頑張りたいと思います」

北海道文化放送
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