「東京デフリンピック」代表内定の石本選手 デフ陸上日本選手権ですい星のごとく現れたスターの原石

「デフリンピック」と出合って、人生が変わった。

デフリンピックの代表に内定し、喜びを爆発させる岡山大学陸上部の石本龍一朗選手。

「デフリンピック」とは耳がきこえない・きこえにくい人のためのスポーツの国際大会で2025年11月に、日本で初めて東京で開催される。聴覚障害の選手はパラリンピックに含まれず、4年に1度開かれるデフリンピックが最大の舞台となる。

石本選手は、デフ陸上の日本選手権に2024年、初めて出場。400メートルハードルでいきなり大会新記録を出して優勝した。まさしく、すい星のごとく現れたスターの原石だ。

そんな彼が目指すのは・・・「東京デフリンピックで金メダルを取ること」。

生まれつきの難聴…大学の授業では「聴覚支援機器」が必須アイテム

岡山大学教育学部に通っている石本選手。生まれつきの難聴で、授業ではマイクで教員の声を拾い直接石本選手の耳に届く「聴覚支援機器」を使っている。

マイクがない場合、先生の声がマスクでこもってしまう、あるいは声が小さい時はところどころしか聞こえず、自分でパソコンを見て勉強をするしかないそうだが、この機器の使用で講義の内容が聞こえるようになるのでうれしいと、石本選手は話す。


授業が終わると向かった先はグラウンド。石本選手は陸上競技部に所属していて、週に4日、部活で汗を流す。

教員の首にかけられた「聴覚支援機器」。これで音声が石本選手装着のイヤホンに伝わる
教員の首にかけられた「聴覚支援機器」。これで音声が石本選手装着のイヤホンに伝わる
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高校最後の中国高校総体で予選敗退…良くない結果での引退に「悔しい」

父の影響で中学から陸上を始めた石本選手。以前は健聴者と同じ大会に出場していた。

高校生活最後の大会、中国高校総体。全国出場を目指し、万全を期して挑んだものの、予選敗退という結果に。

「すごく練習を積んでいて、準決勝までは絶対に行けるという自信があったが、それが油断につながった」自分の力を全然発揮できずに、高校陸上を良くない結果という形で引退したことが一番心残りと、当時の悔しさは今も忘れていない。

高校時代の石本選手
高校時代の石本選手

「デフリンピック」出場に向けて努力…デフ陸上を始めて2ヵ月の日本選手権で優勝

大学ではケガが続き、陸上をやめようと思ったこともあったという石本選手。そんな時、思い出したのが、ろう学校時代の友人が教えてくれたデフリンピックの存在だった。「デフリンピックという一つの大きな目標ができたので、そこに向けてしっかりと努力しよう」という気持ちになったという。

デフ陸上を始めてわずか2ヵ月で出場した日本選手権でいきなり大会記録を更新し優勝。「スランプの時期が長かったのでそこで思うような結果も出ず焦っていたが、一つ自分の納得のいくタイムが出せたことで、ちょっと目の前が明るくなった」

石本選手の人生が大きく変わり始めた。

日本選手権で優勝 真ん中が石本さん
日本選手権で優勝 真ん中が石本さん

「手話交流」に「練習姿勢」…デフ陸上と出会ったことで石本選手に新たな変化

デフ陸上で出会った仲間たちと積極的に交流しようと、石本選手はそれまで使う機会がほとんどなかった手話の勉強を始めた。すると・・・

「心が楽になった。悩みを相談できる仲間ができてすごくうれしかった。本当にいいきっかけになった」

変化は練習に取り組む姿勢にも。左右どちらの足でも踏み切れるのが石本選手の強みだが、より速く走るため、利き足の右で踏み切る練習を強化したという。両足で跳べるからこその攻め方も、守りに入ってしまってスピードが落ちることがあるため、現在は逆足をあえて封印し、得意な右足で距離を稼ぐという練習をしているそうだ。

その延長線上にあるのが日本記録(55秒99)。「早めに更新しておきたい」と石本選手は語る。

石本龍一朗選手
石本龍一朗選手

補聴器などは外すルール デフ陸上の生命線「ランプの光」に反応し日本選手権2連覇

5月に埼玉県で行われた、デフリンピックの代表選考会を兼ねた日本選手権。これまで支えあってきた石本選手の仲間も多く出場する。

デフ陸上の基本ルールは一般的な大会とあまり変わらないが、普段付けている補聴器と人工内耳は外さなければならない。

また、デフ陸上の選手は音だけではなく、「スタートランプ」の光を見て一斉に走り出す。聞こえない選手にとって、ランプの光は生命線だ。

男子400メートルハードル決勝。

ランプに素早く反応した石本選手。他の選手を大きく突き放し、日本記録更新とはならなかったが、大会2連覇を飾った。

石本選手は「2連覇できたことはすごく良かった」と喜ぶ一方で、目標の日本記録更新が果たせなかったことについては「練習でもしっかりと55秒前半を 出せるタイムは出ていたが、自分の弱さ、プレッシャーに負けた部分があったので、自分に打ち勝てる強さを身につけたい」とレースを振り返った。

スタートランプ
スタートランプ

デフリンピックでは“スタートから積極的に攻める姿を見て”

目標のデフリンピック出場を決めた石本選手。次の目標「金メダル」へ向けた課題も見つかった。陸上だけでなく、今後の人生でもデフリンピックが大きなターニングポイントになるのではとの希望を背負い、石本選手の挑戦は続く。

「準備をして自分に自信を持った状態で臨みたい」

デフリンピックでは石本選手の「スタートから積極的に攻める」レースに注目だ。

(岡山放送)

石本龍一朗選手
石本龍一朗選手
岡山放送
岡山放送

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