23日、万博会場に起きた、異変。
【記者リポート】「リングの上には、上れないようになっています」
万博のシンボルが、立ち入り禁止となった理由、それは…雷です。
専門家は「ピンポイントでの予想ってのは難しい」と言います。
突然起きる「落雷」から逃れるすべは、あるのか!?これからの季節、こわい「雷」について、徹底取材しました。
■「雷」で大屋根リングが立ち入り禁止
先週の猛暑から、一転。どんよりとした天候が続いた、今週の関西。
そんな中、6月23日、万博のシンボル「大屋根リング」に異変が…。
【記者リポート】「雨雲が接近しているということで、リングの上には上れないようになっています」
午後6時ごろに突如、大屋根リングに上るエスカレーターがストップ。立ち入り禁止となりました。
【来場者】「大屋根リング上ろうとしていました。残念です」
一体何があったのか。
その原因となったのは…「雷」です。
■去年1年間で落雷は400万回以上 猛暑の影響か
23日、関西各地で落雷があり、伊丹空港では、落雷の影響で、エスカレーターなどが一時停止しました。
【当時空港にいた人】「暗くなって、一瞬で消灯して、荷物運ぶやつも止まっていた。どうしようもないなという感じ」
気象会社の調査によると、去年あった落雷の件数は全国でなんと400万回以上。
専門家は、「近年の『猛暑』も影響しているのでは」と話します。
【近畿大学理工学部 森本健志教授】「暑くなったら雷が起こりやすいというのは間違いなくて、6月や5月でも夏日になると、雷の起こりやすい気象現象が起こっている」
■万博会場では“大屋根リングの下”が安全!
一般的に、高いところに落ちると言われる雷。そのため、万博の会場では、リスクの高い大屋根リングの遊歩道への、入場制限が行われていました。
では、落雷のリスクがあるとき、会場内に安全な場所はあるのでしょうか?博覧会協会の担当者に、聞いてみました。
【施設維持管理局参事 矢倉政雄さん】「基本的には、このリングの下に入っていただければ大丈夫」
意外にも「リングの下にいるのが安全」とのこと。
一体なぜなのか?その答えはリングの上にありました。
【施設維持管理局参事 矢倉政雄さん】「一番外側、金属板のようなものが見えるが、水平導体と言われるもの」
よくみると、リングの縁に取り付けてあったのが、「水平導体」と呼ばれるアルミ製の板。
この「水平導体」が雷を受け止めると、配管を通じて電気を地中に安全に逃がす仕組みとなっていて、まさに「避雷針」のような役割を担っていたのです。
■雷の「監視」? 落雷のリスクをリアルタイムでチェック
さらに、万博会場の夢洲からおよそ12キロ離れた、大阪・梅田では雷の「監視」が行われているそうで…。
【記者リポート】「オフィスの一角で雨雲レーダーでしょうか、大きな画面に映し出されています」
巨大モニターの前に座るのは、2人の気象予報士。ここでは、万博会場周辺の気象状況をリアルタイムでチェックしています。
【日本気象株式会社 佐藤伸亮気象予報士】「こちらの画面が、23日の夕方6時半の画面になります」
実は23日のケースでは、この場所で、落雷のリスクについて判断がおこなわれ、その結果、立ち入り制限が行われたということです。
【日本気象株式会社 佐藤伸亮気象予報士】「リングの上にいる人に避難してもらう時間として20~30分。危ないとなってからでは間に合わない。20分後に雷が起きそうとなったら、弊社からご連絡を差し上げる」
■「落雷リスク」を検知するレーダー活用して対策する学校
一方で、突然やってくる「落雷」への対策が、困難なことには変わりありません。
ことし4月、奈良市の帝塚山学園の、グラウンドで落雷が。
(Q.雷の予兆はあった?)
【現場を見た人】「ない!なんにもないの。あんなん初めて」
部活動中だった中学生と高校生が病院に運ばれる事故となりました。
そんな中で、長年強い警戒心をもって対策にあたってきた学校もあります。全国屈指の進学校、灘中学・灘高等学校。
グラウンドの隅に設置されているのが…。
【灘高校 久下正史教頭】「雷探知機のランプになります」
学校の屋上には、半径50キロ以内の雷を検知できるレーダーが。(※撮影用にランプを点滅しています)
「落雷リスクが高い」と判定されると、職員室に設置されたランプが点滅し、グラウンドにも伝わる仕組みとなっています。ランプが点滅すれば、屋外での活動はすべて中止となります。
【灘高校 野球部主将】「晴れていても(ランプが)いきなり回転しだすことがある。練習の途中、きりが悪くてても、いったん生徒は全員、屋内の方に避難する」
【灘高校 久下正史教頭】「もし(予測が)外れたとしても、アラームを優先する」
■「空飛ぶ避雷針」世界で初めて雷をおびき寄せることに成功
終わりのない「落雷」対策。
そんな中で、いま、画期的な研究が進められているそうで…。
【NTT宇宙環境エネルギー研究所 枡田俊久主任研究員】「雷が落ちる前に何とか対策をしようと。こちらのドローンになります」
これはドローンを活用して雷をおびき寄せる、その名も「空飛ぶ避雷針」。
金属のパイプを取り付けたドローンを、空中へ。
「200メートルまで上昇お願いします」
すると…地上付近に青白い光が。
これは、空中のドローンからワイヤーを通じて伝わった電流を示していて、世界で初めて、ドローンによって人工的に雷をおびき寄せる、「誘雷」に成功した瞬間となりました。
2030年ごろの実用化を目指し、いまも研究が進められています。
【NTT宇宙環境エネルギー研究所 枡田俊久主任研究員】「屋外のイベントとか、より広い街全体を守ったりするようなところまで、『空飛ぶ避雷針』を使うと、将来的には雷防できるんじゃないかなと」
最新の技術が「落雷」の被害を減らしてくれることに期待しつつ、気象予報士の片平さんに対策を教えてもらいます。
■今から数ヶ月が雷要注意の月間にあたる
【片平敦気象予報士】「雷は雷雲から発生するんですが、専門的には積乱雲という雲からできるんですよ。ということは梅雨時に大雨が降りますよね。夏の夕立でも大雨が降りますよね。
この時期が一番雷が起こりやすいということで、おととしまでの10年平均ということで、月別の落雷の数をまとめた統計ですが、6月ぐらいからぐーんと増えて、夏場にかけてピークを迎えると。まさに今から数ヶ月が雷要注意の月間にあたるというわけなんです」
■音が聞こえたら射程圏内! 雨雲レーダーの活用も
雷は本当に命に関わる事故もしばしばおきますが、どういう対策が必要なんでしょうか。
【片平敦気象予報士】「まず、ポイントとしては音が聞こえたら、あなたのいる場所は射程圏内です。ガーンって音じゃなくて、ゴロゴロって言っているぐらいでも、せいぜい数十キロ先の雷なので、雷雲の大きさとかスピードを考えると、もうそこは射程圏内と思っていただきたいです。だから五感をフルに使って、音が聞こえたり、光っているのが見えたり、こんなものがあったら、もう自分のいる場所は危ないと思ってほしいですね。
あともう一つ、文明の利器として、雨雲レーダーをぜひ活用していただきたいです。雨雲の動きとか、スマートフォンのアプリだと雨雲接近中ですよって、通知が来るようなものありますよね。よく当たりますので、そういったものと自分の五感を両方使って、命を守っていただきたいですね。
対策としては、まず雷から身を守るためには、雷は高い場所に落ちますから、木の下の雨宿りは絶対にダメです。雨から身を守るためかもしれないですが、そこは雷が落ちる場所だと思って離れていただきたいです。
あとは避雷針のある建物や車の中も安全なので、こういった場所に避難する。雷が近づいてきそうなときは、『あの建物かなとか車に帰ろう』とかあらかじめ考えておくのがとても大切になります」
(関西テレビ「newsランナー」2025年6月25日放送)