2020年7月の豪雨災害からの復興を見つめる、中原 丈雄さん主演の映画『囁きの河』。全国に先駆けて熊本で公開されます。作品に込められた思いに迫ります。

(6月20日/俳優 中原丈雄 一人芝居&弾き語りLive)
熊本出身の俳優、中原 丈雄さんが6月20日、熊本市中央区のバーで一人芝居と弾き語りのライブを開催しました。

【中原丈雄さん】
「皆さんの息遣いが伝わるからやりやすいというのも変ですけど、いいですね。緊張して、ドキドキするんですけど、〈間違えたら間違えたでいいや。なんとかなるだろう〉みたいな楽しく気持ちよくやらせていただきました」

俳優業のほか、音楽活動など多彩な一面も見せる中原さん。特別な思いで撮影に臨んだ映画が公開されます。

『囁きの河』。2020年7月の豪雨で球磨川が氾濫し、甚大な被害が出た人吉球磨地域。22年ぶりに戻った男が、失われた過去と現実に向き合う物語です。球磨川とともに生きる人たちの思いや日々の営みが静かに、穏やかに描かれます。

(去年2月/球磨郡球磨村)
豪雨災害の被災地、球磨村に撮影スタッフの声が響いていました。映画『囁きの河』の撮影は去年2月に始まりました。

【中原 丈雄さん】
「僕らが子供の頃に経験した水害の規模とは全く違いましたね。たくさんの友人たちや知り合いの家や店が流されたり、水に漬かったりで、その後、なかなか熊本に来られないんです。〈どうすればいいんだろう〉と。何も自分ができない、もどかしさがずっとありました。人吉球磨の人たちが球磨川の悪口を言わない。これだけひどい災害に遭いながら、誰一人『球磨川の野郎』なんて言う人、聞いたことないし、〈川と一緒に人があるんだな〉というふうに〈川があって、町があって、そこに生かされているんだな〉ということを人吉の人たち、球磨の人たちはみんなそう感じていらっしゃるんじゃないでしょうか」

中原さんは寡黙な主人公・今西 孝之を演じます。

2020年の豪雨災害から3カ月。母の訃報を受け、孝之はふるさとに戻ったものの、息子の文則は、かつて家族を捨てた孝之に心を開こうとしません。

【今西 文則 役/渡辺 裕太さん】
「被害に遭ったことを話す方々がそうなってしまった。〈じゃあ、これからどうするんだ〉という思いを地元の人たちからは感じました。その人たちが何を思ってるのか、次に向けてどういうことを思って、生活されているのかを極力寄り添って作っていけたらなと思います」

『球磨川くだり』の再開を信じて船頭を志す文則は、思いを寄せていた同級生と再会します。

【中川 樹里 役/篠崎 彩奈さん】
「地域の人と一緒に作っているという感じがすごくあって、どの店に行っても(映画の)チラシを張ってくださったりとか、映画を作ることをすごく喜んでくださって、それだけでもすごくうれしいですし、たくさんの方に人吉の良さとかも知っていただける映画になったらいいなと思います」

一方で、孝之の幼なじみ、山科 宏一が営む老舗旅館は半壊の痛手を負っていました。

女将の雪子は旅館の再開を目指しますが、水害で父を亡くした宏一は前を向けないままでいました。

やがて、孝之たちが暮らす仮設住宅の隣人・横谷夫妻は自宅に戻ることを決め、孝之は、水害で荒れた田畑の手入れに希望を見出していきます。

【横谷 さとみ 役/宮崎 美子さん】
「自然災害が起こった時はみんな注目しているし、でも、だんだんどうしても地元であっても風化していくところがあると思うんですが、いやいや、もう一回、ちょっともう一回、皆さんで考えてみてもらえませんか? 心を寄せてもらえませんか? それが次に私たちがそれぞれが進む糧にもなるんじゃないかなと。そんな気持ちも持って伝えられたらなと思います」

【横谷 直彦 役/不破 万作さん】
「被災現場に来ると、〈想像とこんなに違うんだ〉と思って、その落差に驚きました。復興しようというやる気が起こるまでが大変だと思う。〈ふるさとにしがみついていたい〉、そういう思いで生きてるんだなと思うと、この映画はやりがいがあります」

【中原 丈雄さん】
「まず人吉球磨の人たちは見るのも結構つらいようなところもあるかもしれません。でもやっぱり、どうやってこれから自分たちが生きていかねばならんのかということも含めて、人吉球磨の人たち、たくさんの人に見てもらいたいです。今やもうこれは日本中どこでも起きうる災害ですから、身近に災害、復興を感じてもらいたいです」

撮影は去年2月中旬から3月にかけて、そして、6月に行われました。大木 一史 監督は水害の爪痕が残る被災地で取材を重ね、復興の歩みを見つめてきました。

【大木 一史 監督】
「有史以来、河があって、そこに人が住んで、そこで文明ができて暮らしていく。ごく当たり前の生活があったはずなのに、最近の豪雨とともに、当たり前の生活も失われつつある。そんな時に一体、人はどうやって次の時代を生き抜いていくかを描いてみたいと思ったのが一つのきっかけです。一人一人の小さな人間が非常に小さな選択をしていく。でも、その小さな選択こそ、実は非常に大きな問題と直接、間接的につながっていくんじゃないかという気がしています。『河とともに生きる』。それはどのようなものなのか。それをもう一度見直したい、描きたいと思います」

【中原 丈雄さん】
「映画の中のシーンで山の奥の集落に行くんですが、人が住めなくなって、子どものアナウンスが『5時になりました。気をつけて早く帰りましょう』みたいな。『夕焼け小焼け』の音楽が流れて、誰も聴いていない。なんかもう切なくなるくらい悲しい。家はちゃんと残っているんです。今にも人が出てきそうな感じなのに誰一人、もうそこに住んでいない。そういうことがないような時代になるといいですけどね」

【映画/今西 孝之の言葉】
「居場所ばなくしたら、自分で取り戻すしかなか。それしかなかよ」

映画『囁きの河』、全国に先駆がけて熊本で上映開始です。

【中原 丈雄さん】
「映画は、観客の皆さんの目で育つと思うんです。よく言うんですけども、子どもが玄関先でランドセルを背負って、『お父さん、お母さん行ってきます』と言って出たのが映画の公開の日だと思うんです。その子どもが大きく育っていくのは親の力でじゃなくて、皆さんの、ほかの人たちの力で育っていくように思うんです。ぜひ皆さんで、この映画を育ててください。よろしくお願い致します」

映画『囁きの河』は全国に先がけて、26日と29日に人吉市で、27日から熊本市で先行上映が始まります。

テレビ熊本
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