今回は、いまだ影響が続く令和の米騒動について考えていきます。
販売価格の推移を示したグラフをご覧ください。
騒動の発端は、２０２４年の夏以降、コメが不足したことです。
夏以前に、コロナ明けのインバウンド客やパンや麺の値上がりによる割安感などで米の需要が増加、さらに日向灘地震や台風１０号により消費者の買いだめが起き、拍車をかけました。
新米の出た２０２４年秋以降も店頭価格は上昇を続け、異例ともいえる量の備蓄米を放出することで、価格はようやく下落傾向にあり、２３日は５ｋｇ４０００円を下回る３９２０円となったんです。しかしコメ騒動の余波は鹿児島の焼酎にも及びつつあります。
この騒動はいつまで続くのか、これからの米農家の姿とは？
２０２４年の夏から米が不足し、価格が高騰した「令和の米騒動」。
当初、新米が出回る２０２４年秋以降、落ち着くと見られていました。
しかし、国が発表するスーパーでの店頭価格は上昇を続けます。
農業市場学が専門で鹿児島大学の豊教授はその理由をこう指摘します。
鹿児島大学農学部（農業市場学）・豊智行教授
「民間在庫量が圧倒的に以前と比べて少なくなっている。供給力が弱まっていた」
米の民間在庫とは、ＪＡなどの流通業者が市場に売るために確保している米の量です。
４月末時点での推移を見てみると、令和の米騒動が始まった２０２４年も、ここ最近で最も少ない量でしたが、２０２５年はそれを１２万トン下回りました。
米の品薄感が広がり、価格を押し上げているとみられる中で、需要と供給のバランスを保つために放出されたのが備蓄米でした。
県内にも出回り始め、米の価格は下落傾向にある中、２０２５年の米作りはどうなるのでしょうか？
若松正大記者
「伊佐市の農家にきています。まもなく始まる田植えを前に準備が進められています」
伊佐市の農家では、６月初め、田植えの準備が進められていました。
こちらでは田んぼの持ち主の依頼を受け、国の補助金がでる飼料用の稲を生産することが多かったそうですが、２０２５年はこんな変化が。
グリーンネットワークとどろき・轟木高昭代表
「３２ｈａのうち今回１７ｈａぐらいが主食用米に変わる（６月６日時点）」
地主からは飼料用の稲から主食用米に変更したいという多くの申し出があったそうです。
九州農政局によりますと、このように県内の水田では飼料用や加工用米などからの変更が相次ぎ、主食用米の作付け面積は、早場米だけで１０００ヘクタール増加する見込みです。
九州農政局 鹿児島県担当・窪山富士男地方参事官
「主食用米の価格が高いので、それ以外の作物を生産していた方が『２０２５年は主食用米を生産しよう』という動きがある。主食用米の作付面積は２０２４年より増える」
水田の面積が限られる中で主食用米が増えれば、当然、加工用米などの生産は減ることになります。
この影響をまともに受けるのが鹿児島が全国に誇る焼酎です。
県酒造組合・濱田雄一郎会長
「非常に深刻。量の確保ができるか。確保できても価格が暴騰している」
イモ焼酎と黒糖焼酎は、製造工程の中で加工用の米を使用しています。
７月から８月中旬に焼酎の仕込みの時期を迎えますが、県酒造組合の濱田会長は県内の多くの酒造会社が加工用米を確保できていないといいます。
こうした状況を受けて政府は、備蓄米を加工用米として販売する方針を打ち出しているものの、濱田会長はコメ農家の生産体制に危機感をにじませます。
県酒造組合・濱田雄一郎会長
「小泉農水相の発言には期待している。（一方で）価格が下がりすぎてしまって、米農家の生産意欲がなくなって、生産体制が維持できないことになるのも非常にこわいところ」
稲が青々と育つのは、東串良町で主食用の早場米を主に生産する農家です。
全体の１０％ほどを加工用米として酒造会社に販売していますが、価格が高騰する中、これまでの取引を重視し、酒造会社の言い値で販売することを決断したそうです。
大幸農産・中島正幸代表
「うちが助けた形になるがそれでいい。今の酒造会社がいい焼酎をつくってくれる。私の誇り」
このケースは、農家の好意で成立しましたが、多くの酒造会社は今、高騰する加工用米の確保に二の足を踏み、安価な備蓄米の放出を待っているとみられます。
主食以外にも余波をもたらしている「令和の米騒動」。
終わりが見えない中、浮上してきた課題は安定的な米の生産体制です。
九州農政局 鹿児島県担当・窪山富士男地方参事官
「県内どの地域を見ても６０歳以上が８割以上。７～８割が１ｈａ未満の農家。鹿児島の稲作は小規模高齢農家で支えられているというのが実態」
担い手の高齢化が懸念される中、生産体制を維持するために何が求められるのでしょうか？
九州農政局 鹿児島県担当・窪山富士男地方参事官
「（農家同士で）機械を集約してコストを下げるとか、生産を集約して担い手を確保することが大事」
米農家も将来を見据えてこう話します。
大幸農産・中島正幸代表
「お金が残らないと作る喜びはない。借金だけ残っても何もならない。スマート農業、ロボット化など若い人が飛びついてくるような仕事内容をつくっていくことが今からの自分たちの仕事」
米の供給力の低下が要因のひとつといえる「令和の米騒動」。
生産の集約化、担い手の確保といった根本的な課題を解決しない限り、本当の終着点は見いだせないかもしれません。
