世界的に長期金利の上昇基調が止まらない。日本国内でも指標となる新発10年物国債の利回りが、15日、一時、2.73%を記録した。約29年ぶりの高い水準となる。
ガソリン基金枯渇の可能性
債券市場では、中東情勢の混乱や原油高の長期化による物価の上振れが強く意識されている。原油先物市場でWTIの期近物は15日、1バレル=105ドル台で取引を終えた。
日銀が15日発表した4月の国内企業物価指数は前年同月比で4.9%上昇した。
前月からは2ポイント拡大し、市場予想を大きく上回った。エネルギーを輸入に依存する日本にとって、原油価格の高騰がインフレ圧力を高めるとの警戒感が一層強まっている。
エネルギー高への対応で、政府が補正予算案編成の検討に入ったことも、債券相場の重荷になっている。
3月から実施しているガソリンなどの燃料費補助は、足元の価格水準が続けば6月に基金が底をつく可能性があるほか、夏に向けて値上がりが予想される電気・ガス料金をめぐっては、冷房需要の高まる7月~9月を念頭に補助の再開が視野に入る。
インフレと財政悪化リスク
高市総理大臣は5月上旬の時点では、補正予算案の編成について「すぐさま必要な状況と考えていない」としていたが、2026年度予算で計上している予備費1兆円の積み増しも含め、財源の裏付けが検討される見通しとなった。
財政拡張への懸念が改めて強まり、財政悪化リスクを反映しやすい超長期債を中心に、投資家が買いを手控える姿勢が目立つ。
日銀の早期利上げ観測も強まっている。日銀の増審議委員は14日の講演で、「景気下振れの兆しがはっきりとした数字で表れないのであれば、できる限り早い段階での利上げが望ましい」と話した。
日銀は、4月の金融政策決定会合では、9人の審議委員のうち増氏を含む6人が現状維持に賛成し利上げを見送ったが、増氏が利上げ支持に回る可能性が意識されたことで、次回6月の会合では金融政策の正常化に前向きな「タカ派」色に傾くとの見方が国内債に売りを膨らませた側面もあった。
消失したアメリカ利下げ観測
アメリカでも、原油価格の高止まりによるインフレ加速懸念が長期金利を押し上げている。4月の消費者物価指数は、ガソリン価格の高騰などを受けて前年同月と比べ3.8%上昇し、約3年ぶりの大幅な伸びを見せたほか、卸売物価指数も6.0%上昇し、約3年4カ月ぶりの高水準となった。
利下げ観測が大きく後退し、年内にも利上げに転じるとの見方も広がるなか、アメリカの10年物国債利回りは、15日、一時4.60%とほぼ1年ぶりの高水準をつけた。
金利先物市場の動きから政策金利を予想するフェドウォッチによると、年内にアメリカで利上げが実施される確率は50%にまで高まっている。
FRB=連邦準備制度理事会の次期議長に就任するケビン・ウォーシュ氏は、次回6月会合から金融政策の議論を取り仕切るが、インフレ警戒と景気・雇用下支え双方への目配せで、難しい舵取りを迫られることになる。
イランとの戦闘終結が見通せず国防関連支出が膨張する一方で、連邦最高裁が「トランプ関税」を無効とし、輸入企業への巨額還付が始まることにより、財政赤字の拡大懸念も強まっている。
金利の跳ね上がりは超長期債でも顕著となり、30年物国債の利回りが5.1%台に突入した。
金利上昇の波はヨーロッパの債券市場でもうねりを見せる。イギリスでは15日、10年債利回りが一時、約18年ぶりの高水準となる5.18%まで上昇、インフレ懸念による利上げ観測とともに、財政リスクへの警戒感が金利を押し上げる展開となっている。
7日に行われた地方選でスターマー首相率いる労働党が惨敗し、退陣圧力が高まる一方で、次の首相候補の1人と目されるマンチェスター市長のアンディ・バーナム氏は、拡張的な財政政策を志向していて、市場では財政悪化への警戒感が目立つようになってきた。
インフレリスクを踏まえ、ECB=ヨーロッパ中央銀行も、6月の理事会で利上げに踏み切るとの見方が浮上する。
預金・ローン金利への波及は
インフレと財政への懸念がグローバルに広がるなか、日本でも、金利が一段高となれば株価の重荷となりかねない一方で、家計への影響も懸念される。
みずほ総合研究所の試算によると、長期金利が1%程度上昇した場合、定期預金金利は10年定期で0.7%程度上がる一方で、住宅ローンの固定型金利は、フラット35で1%程度引き上がる見通しだ。
イランをめぐる軍事衝突の長期化と財政拡張リスクの金利への波及が、景気や暮らしにどう影響を広げるのか、注視が必要な局面が一段と強まってきた。
(フジテレビ解説副委員長 智田裕一)