富山県内のハンコ店が30年前の4分の1に減少するなか、外国人からの注文という思わぬ需要に活路を見出す店がある。射水市の「泉印房」は創業78年を迎える老舗だが、ここ数年で外国人客が急増している。

減少するハンコ店、残るのは技術と誠実さ

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「息をこらすというか、手が動かないようにすることがすごく大事。1ミリじゃなくて0.何ミリ」と語るのは、泉印房3代目の泉吉昭店主だ。

仕上げは一本一本、熟練の手作業で行われる。機械に全て任せることもできるが、画数の多い漢字と少ない漢字を同じ大きさで並べようとする機械では、バランスが悪くなると泉店主は説明する。手作業で仕上げることで唯一無二のハンコが完成し、偽造されにくいという安心感がある。

その技術を生かした「開運印」を求め、県外からの注文も寄せられている。しかし、現実は厳しい。

「認印の需要は確実に減っている。富山県の印章業組合に加入している店は60〜70件あった。それが今、17件に。4分の1に減っている」と泉店主は語る。

外国人顧客の増加がもたらす新たな活路

そうした中、2、3年前から増えているのが外国人名の注文だ。泉印房ではカタカナと英語、どちらにも対応している。

「外国人のコミュニティ内での紹介。ほとんどの方が通帳を作りたい、銀行印や実印の注文が多い」と泉店主。「どうやったら外国人がいちばん喜んでくれるかなと。『カッコいいね』と言ってくれる外国人がいるので」と笑顔を見せる。

取材当日、店を訪れたのはインドネシアから来県した技能実習生の2人だった。射水市内の建設会社で働き始めたばかりの彼らは、日本のハンコ文化に初めて触れた。

「初めて見ます」と言うアルフィンさん。使い方を尋ねると「わかりません」と返ってきた。もう一人のノファンさんは「便利そう」「カッコいい、カンペキ」と感想を述べた。

外国人にとっての「特別なもの」という価値

外国人からの注文は年々増加しており、今年に入ってからの半年間で約60本の注文があったという。スピーディーで柔軟な対応が人気を集めている要因だ。

「良いものを作ってくれるし早い。値段的にもそれほど難しくない。カッコいいはんこ。頑張らないと」と外国人客は満足そうに語る。

泉店主は3人の息子がいるが、本人からの希望がない限り、後を継いでもらうことは考えていないという。脱ハンコの流れについても現実的な見方をしている。

「実際に『認印は要らない』と言われていることは間違いない、それで世の中が便利になっているなら、はんこ業界のためにひっくり返す必要ない、そのなかでどうやっていくかが勝負になってくる」

変わりゆく時代のなかで、外国人との出会いが新たな喜びとなっている。「はんこ文化に触れたときのリアクションが嬉しい。頑張ってねという気持ちを込めて作った」と泉店主は語る。

「喜んでもらえるのがいちばんうれしい。できるだけ要望に応えることを基本に考えている。自分が自信をもってお客さんに提供できる間は何歳であろうと続ける」

富山テレビ
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