「民のかまどから煙が見えなくなってきている時には、煙が出るようにするのは政治の役割だ。家計を助けていくということが政治の仕事、急務だ」
立憲民主党の野田代表は4月28日夜、BSフジの「プライムニュース」に出演し、「家計第一」というキーワードを強調した上で、こう語った。そして、3日前に党として決めた「原則1年間の食料品の消費税ゼロ」に関し、連休明けの早い段階で詳細な制度設計を示す考えも示した。

党内で意見が割れる消費税の減税をめぐり、野田氏ら執行部は深刻な対立に発展しないよう慎重に取りまとめを進めてきた。それを取材する過程で、野田氏の強いこだわりが垣間見えた。それは一言で言えば「責任ある減税」という考え方だ。そして、そこに至るまでは様々な葛藤があった。
消費税減税に野田氏「一貫性は問われる」2012年の決断で失った仲間への思い
立憲は25日、臨時に執行役員会を開き、夏の参院選の公約として、以下の案を盛り込む方針を決めた。
・原則1年間、食料品にかかる消費税をゼロとする
・その後は高所得者を除外した形で、生活必需品などの消費税にあたる分の給付や、所得税の控除を行う「給付付き税額控除」に移行する

方針決定から約30分後、財源なき減税に慎重な姿勢を示してきた野田氏は記者会見に臨んだ。そして、「私は社会保障と税の一体改革を推進したザ・当事者だ」と述べた上で、今回の結論に至った理由について次のように説明した。
「国民政党として、これまでは特徴として、将来世代を慮るということを強調してきた。一方で、今を生きる世代が困窮を極めている。食べるものに困っているという現実にも目を向かなければいけないという中での判断だ」

物価高やアメリカの関税措置を受けて、立憲の党内のみならず、世論も消費税の減税を求める声が高まっている。FNNが4月19・20両日に実施した世論調査では、消費税減税に「賛成」の人は68%で、「反対」の28%を大きく上回っている。
これまでに、立憲では消費税の一律5%への引き下げなども含む3つの案を検討してきた。しかし野田氏は、今回決めた案が党内の議論で最も有力だったと説明し、減税に慎重な議員にも「理解してもらい、まとまって行動してもらえると確信している」と強調した。そして、結論に至るまでの自らの胸中を次のように吐露した。

「悩んだり、困ったり、悶絶したり、七転八倒したけれども、決めた以上はしっかりと訴えていきたい」
野田氏が「七転八倒」した背景には、かつて自らが首相として消費税の増税に道筋をつけたという過去がある。立憲の源流である旧民主党は、菅政権と野田政権のもとで社会保障と税の一体改革を進めたが、それに伴う消費税増税の方針に反発した小沢一郎衆院議員らが集団離党し、党の分裂を招いた。その結果、2012年の衆院選では大敗し、政権を失った。
党内議論でも、所属議員から2012年当時を振り返り、「政策としては正しかったと思うが、党が分裂してしまった。今回はそうならないようにしてほしい」と求める意見が出ていた。25日の会見で、こうした意見があると問われると、野田氏は胸に一番刺さったとして、次のように語った。

「苦労をかけて、戻ってこられない人たちがまだいっぱいいる。やっと戻ってきた人もいる。戻れないまま辞めた人もいる。そういう人たちの思いも含めて、自分の言っていることに一貫性というのは問われると思っている。そのことを自覚しながら訴えていきたい」
2012年の解散総選挙では、野田氏の側近も含め、多くの民主党議員が落選の憂き目にあった。野田氏に近い関係者は「野田氏の決断で多くの仲間の人生を変えてしまった。本人はそれをずっと気にかけてきた。党の代表になったのも、私心ではなく、その人たちのためにも、もう一度政権交代への道筋を付けなければならないと考えているからだ」と、その心中を推察する。
野田氏「財源」と「期限」にこだわり「ワンショットの財源で対応できる」との見方も
今回、その野田氏が消費税の減税にあたって強くこだわったのが「財源」と「期限」だ。党内議論の取りまとめが進められている中、野田氏は22日朝、東京都内で記者団の取材に応じ、減税の財源は「大事だと思う」とした上で、財源を考慮しない減税策は「政策ではない」と強調した。さらに、25日の方針発表の会見でも、「赤字国債に頼ることなく、地方財政、未来世代に負担を及ぼさない財源を確保するよう、政調会長に指示した」と明らかにし、「消費税率を戻すことは責任を持ってやりたい」との考えを示した。

党内議論で案が絞られていくのに伴い、野田氏は消費税の減税に向けて本格的な検討を始めた。しかし、なかなか自らの意向を明言はしなかった。方針決定の前日24日、党の政策決定機関である「次の内閣」(NC=ネクストキャビネット)では、3案から絞らず、野田氏と重徳政調会長に判断が一任された。
その日の夜から翌朝にかけて、筆者は関係者への取材を進めたが、複数の幹部が今回決定した方針を結論とする方向で調整を進めていると明かした。しかし、ある幹部は「その方向で調整は進めているが、野田代表から明言されたわけではなく、最後の腹がまだ分からない」と漏らした。

その野田氏が直接、明確に指示を出したのは25日の執行役員会の場だ。この場で、野田氏は次のような意向を示した。
「ゼロ税率は1年間に限る。そして経済情勢によっては、1回だけ延長することができるという後ろをしっかりと法律で決めたい」
ある幹部は「野田代表は期限を区切ることに強いこだわりがあった。財源を重視する面からだろう。食料品の消費税ゼロを行えば、5兆円程度の財源が必要になる。最長2年であれば、場合によっては恒久財源ではなく、ワンショットの財源でも対応できる可能性がある」との見方を示す。

先述の番組の中で、筆者がこうした点を尋ねると、野田氏は、2025年度予算をめぐり石破政権に修正を求めた際に、立憲が掲げた政策実現に必要な3.8兆円の財源を提示したことに言及した上で、次のように語った。
「1年だったらワンショットのお金で、その対応は可能な状況だと思うが、延ばす可能性もあるので、恒久財源も考えなければいけない」
目指すは「給付付き税額控除」野田氏「雨が降ったら傘をさす。やんだらたたむ」
さらに、野田氏がこだわりを見せたのが、先の衆院選でも公約として掲げた「給付付き税額控除」だ。立憲民主党の源流である旧民主党も実現を目指し、野田氏自身も「今も到達点だと思っている。逆進性対策としては、軽減税率よりも正しいと思っている人が多い」との認識を示している。
しかし、党内では、この給付付き税額控除については、「なかなかイメージできず分かりづらい」などと、必ずしも評判がよいとは言えない。番組の中でも他の出演者から、分かりづらいので名称を変更したらどうかとの指摘を受けると、野田氏は「消費税還付法案、キャッシュバックを実現したい」と語った。

そして、この給付付き税額控除にこだわるのは野田氏だけではない。それは立憲民主党を立ち上げた枝野元代表だ。枝野氏は12日の講演で、消費減税派を厳しく批判し、「減税ポピュリズムに走りたいなら別の党を作ってください」とけん制した。さらに、2024年の党代表選挙で、給付付き税額控除を主張した自身と野田氏が決選投票に残ったことを指摘し、「党として決着はついている」と主張した。
枝野氏の発言を受けて、党内からは党分裂を懸念する声も出たが、野田氏は番組の中で「2012年の議論に関わった人たちは熱くなりがちだ」とした上で、次のように語った。
「枝野さんもちょっと熱くなって、援護射撃をしていただいたと思う。代表選挙の時には給付付き税額控除という同じ立場だったので、なおさらだと思うが、むしろ中堅の人たちは過去の反省があってまとまらなければいけないとなり、新人もそれを見ていたので、なおさら侃々諤々の議論はあってもよいが、決まったら従おうという空気はあった。今回決めた後に、特段何か離党、割れるという話は出てきていない。そこは政治文化としては成長してきているのではないか」

枝野氏に対しては、小川幹事長が17日、枝野氏の事務所に出向き会談したほか、野田氏も方針決定の25日、事前に枝野氏の事務所を訪れ、直接、理解を求めた。番組の中で、枝野氏との会談内容について問われると、野田氏は次のように語った。
「まとめる前に報告には行って説明させていただいた。分かりましたとは言わなかったが、説明は聞きましたという感じで、その後、何か仰っているわけではないし、どなたも激しい議論をしている方はいないと思う」
野田氏に近い幹部も「大丈夫だ。野田・枝野両氏は互いに信頼し合っている。その信頼関係が壊れることはない」と話す。

今回の方針決定を受けて、野田氏は27日朝、フジテレビの「日曜報道 THE PRIME」に出演した際、イギリスやドイツ、オーストラリアでは一時的な消費税の減税を実施していると指摘し、次のように強調した。
「私は財政規律派だが、雨が降ったら傘をさす。雨がやんだら傘をたたむ。当たり前のことをチャレンジしてみようということだ」
減税の財源に責任を持ち、1年か2年後に税率を元に戻すことを前提にした挑戦、「責任ある減税」を例えた発言であり、消費税の減税を掲げる他の政党の主張とも一線を画すものだ。

衆院が少数与党の状況の中で、事実上の政権選択選挙になると指摘されている参院選まで約3カ月。野党第1党として、政権交代を目指す立憲民主党の「責任ある減税」と「家計第一」というスタンスが浸透するか、そして有権者から支持を得られるかどうか、注目が集まりそうだ。
(フジテレビ政治部 野党担当キャップ 木村大久)