「健康保険証」の新規発行停止から半年。

今後、主流となるはずの「マイナ保険証」の利用率は、今年4月時点でも28.65パーセントと低迷している。

マイナ保険証が使われない大きな要因は、医療現場でのトラブルが続いていることだろう。

全国保険医団体連合会(保団連)が5月に発表した調査結果によると、回答した全国9741医療機関の内、9割近くが「何らかのトラブル」に見舞われている。

内容は、「カードリーダーの認証エラー」「読み取った情報が文字化けする」といった以前からのものに加え、今回の調査では「有効期限切れ」が大幅に増加したという。

どういうことなのか。調査を担当した、全国保険医団体連合会の上所聡子さんに詳しく聞いた。

■「有効期限切れ」でマイナ保険証として使えない

【全国保険医団体連合会 上所聡子さん】
調査は今年2月から4月にかけて行い、回答した9741医療機関の約9割、8526医療機関で様々なトラブルが確認されました。

今回の特徴として、「有効期限切れ(3023件/31.0パーセント)」が急増したことが挙げられます。昨年8~9月の調査と比べて2倍以上に増えました。

これは、マイナンバーカードの「電子証明書」の有効期限のことです。

マイナ保険証は、マイナンバーカードのICチップ内の「電子証明書」を用いて資格確認を行うので、電子証明書の有効期限が切れると確認ができず、保険証として利用できなくなってしまうのです。

■さらに増加する「有効期限切れ」

政府のマイナポイントキャンペーンが始まったのが2020年9月。

電子証明証の有効期限は「マイナカード発行日から5回目の誕生日」ですから、キャンペーンをきっかけにマイナカードを作った人たちの「電子証明書の有効期限」が、今年の後半以降、続々と切れていきます。

総務省の想定では、今年度に電子証明書の期限を迎えるのは約1580万件。マイナカード自体の更新(有効期限10年)が必要となる約1200万件と合わせると2780万件にのぼります。

来年以降はもっと増えると予想されます。

多くの国民が、「マイナカードを取得はしたけど使っていない」という状況が長らく続いています。

普段使わないので、有効期限が切れていても気が付かない。

7月末にこれまでの保険証が使えなくなり、マイナ保険証で受診をしたら有効期限が切れていた…となることが多数起こってくると思います。
(全国保険医団体連合会 上所聡子さん)

■更新手続きはどうするのか?

では実際に「電子証明書」の更新手続きはどのようにすればよいのか。

マイナンバーカードの発行などを行っている「地方公共団体情報システム機構(J-LIS)」に確認した。

■更新手続きは、有効期限の3カ月前から可能。

■住民登録をしている市区町村の窓口で行う。
※本庁舎以外の出張所などでも可能か、予約が必要かなどは自治体ごとに異なるので、住所地の自治体に確認が必要。

■有効期限の2~3カ月前を目途に、有効期限を知らせる「有効期限通知書」が自宅に送られてくる。

■手続きは、本人もしくは代理人にでも可能。代理人に依頼する場合、「有効期限通知書」と一緒に届く「必要書類」に本人(申請者)が記入をし、代理人が本人(申請者)の住む市区町村窓口で手続きを行う。

■職員立ち合いのもと、機器を利用し、暗証番号の入力などを行う。
※マイナンバーカード発行時、4種類の暗証番号を設定しているが、更新手続きにはその内3種類が必要。暗証番号が不明だと手続きができないので、発行時に暗証番号を書いた「記載票」などで、事前に暗証番号を確認することが重要。
どうしても不明な場合は、その場で初期化、再設定もできる。ただし通常よりも時間がかかる。

■所要時間は暗証番号などがスムーズに入力できた場合、10~15分程度。

現状、多くの自治体で機器の台数は限られ、また暗証番号忘れなどでスムーズに進まないケースも予想される。

既に役所の窓口では混雑が始まっており、神奈川県川崎市は混雑緩和のため、今秋以降、役所以外に複数の専用窓口を設置することを決定した。

愛媛県松山市は4月から市内のデパートに「マイナンバーカードセンター」を設置、休日でも更新手続きができるようにした。

今後、各自治体でもこのような動きが広がることを期待したい。

■後期高齢者「資格確認書」一斉交付が招く混乱

従来の健康保険証に代わるものとして「資格確認書」が誕生した。

見た目は従来の健康保険証と非常によく似たものだ。

政府の当初方針では、「マイナ保険証を持っていない人に対し、従来の保険証の有効期限が切れる前に交付される」はずだった。

ところが、厚労省は4月、すべての後期高齢者(75歳以上)に対し「資格確認書」を交付すると発表。

これにより、後期高齢者には、7月末に従来の保険証の有効期限が切れる前に、「資格確認書」が自動的に送られてくることとなった。

その理由として「資格確認書の交付を求める申請が、自治体の窓口に殺到することを防ぐため」とし、1年間の暫定的な対応としている。

しかし、保団連の上所さんは次のように話し、憤る。

「75歳で線を引く合理性がまったく分かりません。例えば、同じ家族内に73歳と75歳の方がいるご家庭は非常に多いでしょうし、1人にだけ『資格確認書』が送られてきたら、かえって混乱を招きかねません」

■被保険者の当然の権利

そんな中、5月、東京都渋谷区と世田谷区は、国民健康保険に加入する区民全員に対し、「資格確認書」を交付すると発表した。

『地方自治と地域医療を守る会』の幸田雅治氏(神奈川大学法学部教授、弁護士)は、「資格確認書は、国保と各健康保険組合の“被保険者全員”に交付すべきです」と強く訴える。

【幸田雅治氏(地方自治と地域医療を守る会)】
保険料を支払っている人が、保険診療を受けるのは当たり前の権利です。

従来の保険証と同様に、目視ですぐに情報が確認できる「資格確認書」を必要とする人は大勢います。

また、マイナ保険証には個人情報の観点からの問題や危険性があるため、マイナ保険証によらずに医療を受ける選択肢を残すべきだと思います。

したがって、「資格確認書」を全員に交付するのは当然のことで、渋谷区や世田谷区の取組みは、極めて適切な対応だと言えます。

国民IDカードと健康保険証を一体化しているG7の国は日本以外にありません。

マイナ保険証は医療アクセスを侵害し、地域医療の崩壊を招きかねないのです。

すべての被保険者がより良い医療を受けられるよう、今一度制度の見直しを期待します。
(幸田雅治神奈川大学法学部教授、弁護士)

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