去年6月、熊本市中央区で車をバック走行させ、女性2人をはねて死傷させたとして危険運転致死傷罪などに問われていた男に熊本地裁は27日、求刑通り懲役12年の判決を言い渡しました。
熊本地裁は「時速約70キロのバック走行は制御困難な高速度に該当する」として危険運転致死傷罪の成立を認めました。
判決を受けたのは、熊本市中央区島崎に住む元ホストクラブ従業員、松本 岳 被告(24)です。
松本被告は去年6月15日の早朝、熊本市中央区細工町の県道で、酒気を帯びた状態で軽自動車を運転しトラックに追突。現場から逃走しようと、車の走行を制御することが困難な時速70キロ以上で約240メートルにわたって車をバックで走行させた後、歩道に突っ込み、熊本市職員の横田 千尋 さん(27)を死亡させ、横田さんの友人の女性にけがをさせた罪に問われていました。
先週月曜日から始まった裁判員裁判。松本被告は車をバック走行させ、横田さんら2人をはねて死傷させたことについて認めたものの、検察と弁護側の主張が真っ向から対立。被告の「時速約70キロでのバック走行」が〈危険運転に当たるかどうか〉が争点となっていました。
27日の判決で熊本地裁の中田 幹人 裁判長は「バック走行でも一定の速度であればまっすぐ走ることもできるが、時速約70キロでは車の進行を制御できておらず、『進行を制御することが困難な高速度』に該当する」と判断。危険運転致死傷罪の成立を認め、求刑通り懲役12年の判決を言い渡しました。
判決後、被害者参加制度を利用して裁判に参加していた亡くなった横田さんの父・邦祐 さんの代理人弁護士が取材に応じました。
【亡くなった横田さんの遺族代理人 籾倉 了胤 弁護士】
「適正な評価、法に従った評価が下された」
「いかなる処分が下ったところで被害者にとっては終わりのない事件であり、法の中ではきょうが一区切りだが、被害者にとっては終わらない事件の一過程にすぎない」
一方、松本被告の弁護人は控訴について「被告と話をして検討する」としています。
スタジオには裁判を取材した前田記者です。
まずは27日の裁判、どのような雰囲気だったのでしょうか?
【前田 美沙希 記者】
27日は傍聴を希望する人で長い列ができ、定員72人の法廷も満席となりました。この裁判の注目の高さがうかがえました。
改めて、この裁判の争点はどんなところだったのでしょうか。
【前田 美沙希 記者】
今回の裁判の争点は、被告の〈時速約70キロでのバック走行〉が危険運転致死傷罪の成立要件の一つ、「制御困難な高速度での走行」に当たるかどうかでした。
検察は「時速約70キロという高速度でバック走行したことが制御困難になった原因で、危険運転致死傷罪が成立する」と指摘。これに対し、弁護側は「法律はあくまでも高速度が原因で車の制御が困難になった場合を想定していて、〈バック走行〉という特殊な運転によって制御できなくなった場合を〈危険運転〉として規定していない」と主張していました。
これについて熊本地裁は「法律が定める『走行』には前進とバックの両方が含まれている」としました。
時速約70キロが高速度と認められたのにはどのような理由があったのでしょうか?
【前田 美沙希 記者】
自動車工学の専門家への証人尋問などから、裁判所は「バック走行でも一定の速度であればまっすぐ走ることもできるが、時速約70キロでは速度が速すぎて車線を逸脱している。道路に合わせた運転ができておらず、『進行を制御することが困難な高速度』に該当する」としました。
判決は求刑通りの懲役12年でした。量刑の判断にはどのような背景があったのでしょうか。
【前田 美沙希 記者】
裁判所は「将来ある命を突然絶たれた被害者の無念は察するに余りある。遺族の悲しみは深く、無謀な運転は強い非難に値する。危険運転致死傷罪の中でも比較的重い部類」としました。遺族の厳しい処罰感情も判決に反映されたものだと思われます。
ここまで前田記者に聞きました。
亡くなった横田さんが勤務していた熊本市の大西市長は先ほど、コメントを発表。「どのような判決であっても失われた命が戻ることはなく、その悲しみは決して癒えるものではない。今回の痛ましい事故を決して風化させることなく、飲酒運転の根絶に向けた啓発活動を続けていく」としています。