「31文字」で人の心を打つ短歌を詠み続け、札幌吉本のお笑いコンビとしても活動するスキンヘッドカメラ・岡本雄矢さん。その根底にあるのは一貫した言葉へのこだわり。今回発表された初の小説『僕の悲しみで君は跳んでくれ』は、もともとは短歌の“下の句”として浮かんだものだという。この物語が生まれた背景には、短歌とお笑いという二つの領域で磨かれた岡本さん独自の感性が息づいていた。

――初の小説、タイトルが印象的ですが、この言葉が生まれたきっかけは?

 「僕はずっと“短歌”をやっています。5-7-5-7-7で短歌を作るのですが、タイトルの『僕の悲しみで君は跳んでくれ』は『僕の悲しみで』、『君は跳んでくれ』は8文字と8文字なんです。

 両方一文字多いですが、短歌の下の句に使えそうだと感じて、ブログに載せてみました。それを見た僕の短歌の本を作ってくれた編集者の方が、小説のタイトルで書けそうですねと言っていただいて、その方が小説を書いてください、と言っていただいたので、このタイトルからこの物語を想像し始めました」

――中身は何もないところからタイトルだけあって物語を書いたということですか?

 「そうです。ただタイトルだけが先に決まっているというのは珍しいパターンのようですね。後で決めるのが多いみたいなので

 その時点では物語の構想も何もなかったですね。とりあえず小説を書くっていうことと、このタイトルで書いてみようということから始まりました。書き始めたのは、一昨年の4月くらいです。そこから4ヶ月ほどで一度書き上げましたが、完成した小説の半分ほどの内容しかありませんでした。編集者さんに見せたところ、『こうした方がいいですよ』『ここをもっと増やした方がいいですよ』『登場人物の背景をもっと深く描いた方がいい』といったアドバイスをいただきました。そうしたやりとりを約2年続けて、ようやく1冊の本になりました」

「僕の悲しみで君は跳んでくれ」岡本雄矢著  幻冬舎
「僕の悲しみで君は跳んでくれ」岡本雄矢著 幻冬舎
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「跳ぶ」という言葉から物語が動き出す

――小説のアイデアはどのように生まれてきたのでしょうか? 

 「アイデアはこのタイトルだけがあったので、跳んでくれっていう言葉があるから、誰かが跳ばないと物語ができないなと思って、最初は高跳びとか幅跳びとかも考えましたが、あまりスポーツ経験もないので、多分書けないだろうと思って。

 でも音楽は結構聞くので、ライブに行くとギタリストが跳んだりボーカルが跳んだりする瞬間ってあるじゃないですか。あの瞬間っていつもかっこいいと思っていたので、アーティストの跳ぶ瞬間で何か書けないかというのを思ったのがきっかけでアーティストが出てきますが、そのアーティストと周りの人の物語というのを書こうと思いました。

 自分もお笑いで舞台に立つので、お笑いとアーティストは違うけど、自分の気持ちと重ねながらアーティストの心情を描けたかなと思います」

――短歌と小説、表現方法の違いに戸惑いはありましたか?小説に「短歌」を取り入れたのはこだわった部分ですか?

 「やはり短歌は31文字しかなくて、『一瞬を切り取る』とよく言われていて、一瞬のことを書くのですが、小説はその一瞬からどんどん広げていかなくてはいけないので、そのあたりはやったことがない作業だったので、結構大変でしたけど楽しかったです。

 物語の中に短歌を作る登場人物がいるので、短歌は出てきますが、これも編集者さんが短歌の本を2冊出させていただきましたが、短歌のエピソードも小説に入れてもいいと言っていただきました。僕は一度出した本に載せたものは使っちゃ駄目だって思っていましたが、何か小説の中にもノンフィクションの話をフィクションとしてまた変えて入れてもいいですと言ってくれたので、前の2冊の短歌のエピソードは結構この本には入っています」

著者の岡本雄矢さん
著者の岡本雄矢さん

キラキラした高校時代への憧れを物語に

――「お笑い」と「文学」、共通点があると思いますか。「お笑いタレント」と「執筆」、自分の中でのウエイトは?

 「どっちも100%の力で取り組んでいますが、やっぱりお笑いは基本的には最少人数でもコンビなので相方と2人。テレビとかライブになるともっと多い人数でやります。

 でも執筆は基本的には1人なので、そこの住み分けは自分の中ではいいなと思っています。1人でやることと、人と物を作るということは全然違うことなので、それは自分の中で二つあるということはとても嬉しいことなので、どちらも100%の力でやらせていただいています」

――2つやることで互いの活動に良い影響はありますか?

 「それはめちゃくちゃありますね。やっぱりお笑いで使った発想が、単純に小説に使えるとか、小説を書いたことでお笑いに使えた発想は行き来するので、相乗効果として自分の中ではすごくいいと思っています」

――青春、高校時代がテーマになっていますが、ご自身の経験が反映されていますか?

 「高校時代の話とそれから25歳ぐらいになるまでの話ですが、もちろん自分の思っていることやエピソードは入っていますが、ここに出てくる登場人物は結構キラキラした友達とか、青春を過ごしている方もいるので、僕は高校時代、あまりそういうタイプではなかったので、こういう友達がいたらよかったなとか、こういう高校時代を過ごしたかったなっていう憧れの方が強いかもしれないですね。経験というよりは、その憧れの気持ちの方が強いかもしれません」

札幌市の文教堂札幌大通駅店でも大きく展開された
札幌市の文教堂札幌大通駅店でも大きく展開された

「あの頃」を思い出したいすべての人へ

――「応援したくなる物語」になっていますが、どんな人に読んでもらいたいですか?

 「編集者さんが青春の延長線みたいなキャッチフレーズをつけてくれて、内容自体が高校時代の友達と再会して、何か一つの物事をやり遂げようみたいな話なので、高校卒業してちょっと大人になって、その昔の友達と疎遠になって、あまり会わなくなったなと思っている人とか、高校時代楽しかったなと思っている人に読んでもらうと嬉しいなと思います。

 青春小説と言われていますが、50代以上の方に結構刺さったとか、年が上の方でも読んでみてあの頃を思い出したと言っていただけることも多いので、もちろん高校生にも読んで欲しいですけど、結構上の方にも読んで欲しいというのはあります。僕は札幌出身で北海道しか知らないので、札幌に近い町が舞台ですので北海道の方には読んでほしいなと思います」

――お笑いコンビ「スキンヘッドカメラ」の相方シモさんや周囲の反応は?

 「シモは、短歌の本を2、3冊出したときはそうでもなかったですが、最近は会うと敬語になってきましたね。“先生”扱いされているのか、タメ口で話しかけてくれなくなりました。少し話しづらく感じることもあります。なんか変な尊敬の眼差みたいな感じです。

 この本が、コンビ格差といった声もあるので、シモがどう思っているのか、たまに喋ったりしますが、この本がきっかけで一緒に出る機会があったりすれば嬉しいということなので、応援してくれていますね。

 周りの方々も買ってくれたとか、ちゃんと読んで感想をくれた方はまだそんなにいませんが、Xでは『買ったよ』という投稿が上がっていてとてもありがたく思っています。
でも自分が逆の立場だったら応援できるかなとか思ったりしますね。なんか羨ましくなっちゃうと思います。でもみんないい人で、応援してくれてとても嬉しいですね。

 札幌吉本の支社長とマネージャーさんは、活字が2人とも得意ではないということと、お忙しいということもあり、まだ読んでないと言っていますが読もうとはしてくれています。でも今後、『オーディオブック』も出る予定ということで、耳で楽しんでいただけるようにもなると思います」

スキンヘッドカメラ・岡本(左)とシモ(右)
スキンヘッドカメラ・岡本(左)とシモ(右)

書店で手に取ってもらえる喜び

――今後も小説を書いてみたいという気持ちはありますか?

 「まだ何もないですが、小説にチャレンジしてみたい気持ちはありますね。もちろん漫才のネタも作っていますよ。僕らは二人ともネタを作りますけど、お互いに持ちよって喋りながら作るみたいなスタイルです」

――最後に岡本さんからメッセージを。

 「読んだ方はぜひ感想を聞かせていただけると嬉しいですし、読んでない方はぜひ書店で。北海道は書店員さんがすごく頑張ってくれていて、POP作ってくれているので、買える場所はいろいろあると思いますが、本屋さんで手に取って買っていただけると、とても嬉しいなと思います」

「僕の悲しみで君は跳んでくれ」岡本雄矢著 幻冬舎

 18歳の時に “あいつ”が放った光を、もう一度見たい。
 「その一瞬」のために始まった青春の延長戦は、あまりにも――。
 読んだら、誰かを“応援”したくなる!
 全ての人の感動スイッチを押す、胸アツ青春小説。

北海道文化放送
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