音楽を病気の治療に活用しようという取り組みが、県内で行われています。
全国でも珍しい、病院でのコンサートを持続可能にした音楽家の取り組みを取材しました。
今月、広島市内の病院で開かれたコンサート。
音楽は、病気の人の心のケアやリハビリなどに活用されています。
【五日市記念病院 看護部・高橋直美副部長】
「リハビリだったり日ごろ看護する中で音楽が好きな人は一緒に歌ったりなど音楽を取り入れたりはしますが、音楽というのはただ聞くだけではなくて聞くことで脳に刺激が入るし、音楽は思い出とか思い出す事もあるので、記憶の部分に影響があったり」
コンサートを企画したのは、ギタリストの上垣内寿光さん。
広島を拠点にヨーロッパやアジアなど世界を舞台に演奏会を開催する一方、県内で活動する音楽家の支援も行っています。
上垣内さんが企画した今回のコンサートは、病院が契約すると定期的に音楽家が出向いて演奏するという仕組みで行われます。
【クライスミュージックエンターテーメント・ギタリスト 上垣内寿光社長】
「もちろん気持ちでミュージシャンたちもやりたいという事はありますが、現実的には継続することが難しい。1回はできるけれども、それが連続で毎月とか毎年になるとミュージシャンたちの実生活に負担をかけることになりますので」
ボランティア活動には、どうしても限界があります。
音楽と医療を持続的に結び付ける。
それが上垣内さんの「音楽の定期便」なのです。
コンサートの1週間前。
上垣内さん、何か納得いきません。
【上垣内さん】
「バタっぽいな伸ばしましょうか。何だろう。何がバタっぽいんだろう。これか、ここだ。僕の問題だ」
上垣内さんの口癖、「バタくさい」。
【上垣内さん】
「ほらバタ臭いでしょ」
「何ですか「バタ臭い」って。ちょっとダサいって…」
打合せといっても、ほとんど演奏しながらの本番さながら。
【上垣内さん】
「ここはラにいかずにファに戻ってもらっていい。こっちの方がいいかも」
「神は細部に宿る」。最高のものを提供するために、細かいところまで、妥協しないのがプロの流儀です。
「2カッコの所って」
「ワンコード入る」
「カットしておいた方がいい」
コンサートで演奏する曲は、アンコールを含めて11曲。
この日の打合せは、2時間以上かかりました。
【上垣内さん】
「お互いに楽譜を持ち寄ってせいので音を出したら「あれ」っていう所が出てくるので、直したり楽譜を書き直したり」
【クライスミュージックエンターテーメント・フルート大林恵美さん】
「本当に助けてもらって楽譜作りから何から楽しいです」
【クライスミュージックエンターテーメント・ボーカルMinaさん】
「本番の時実際にその時の空気を感じながら歌わせてもらっています。
Q:アドリブをやるということですよね?
「宜しくお願いします。それは信頼しているので」
【上垣内さん】「実際は何するか分からない」
コンサート当日。
入院している患者さんたちが集まりました。
コンサートに行って生の演奏を聴くことが困難な人たちです。
時間が経つに従って会場の雰囲気が変わりました。
【上垣内さん】
「何のために演奏しているのか。何のために音楽をやっているのかという所に常に立ち返るという事はすごく大事だと思う。こういう病院で(お客の)目の前で演奏すると涙を流す人がいたり終わった後に駆け寄って来て「よかった」と言ってもらえる。これはミュージシャンにとってもすごくエネルギーをもらうという事があると思う」
【五日市記念病院 看護部・高橋直美副部長】
「日ごろ寝ている時間が長い人とか日ごろあんまり話をしない人とか実はたくさんいて、その人たちが自分から起きようと言ったり歌を歌っていた姿を見ると本当に感動した」
コンサートが終わりました。
【上垣内さん】
Q:あっという間でしたね?
「あっという間でしたね」
Q:どうでした?
「たくさんの方が聞いてくれたし、食い入るように見てくれたので、何か乗ってきましたね。普通の演奏会でやるようなライブ感というのが、この病院でもできたので、僕らも感動しました」
【入院患者】
「うれしいですね。病院にいてこういうことを経験させてもらうんだから初めてです」
「演奏もすごくいいし歌声も素晴らしいです」
Q:また聞きたい?
「ぜひ聞きたいです」
病院でのコンサートを持続可能にした「音楽定期便」。
医療の現場には、どんな効果があったのでしょうか?
【五日市記念病院看護部・高橋直美副部長】
「今日という日を楽しみにしていた人もたくさんいたのです。治療をがんばる励みだったり生き甲斐になったりするのかなと思うので、次を楽しみにする事できるという事は非常に期待できる部分があると思います」
医療と音楽がタッグを組んだ持続可能な取り組みは始まったばかりです。
【上垣内さん】
「ちょっと(企画を)準備するのに時間がかかりましたが、日本ではそういうことがあまりないと聞くので、この「音楽定期便」が広島からスタートしたことは、意義があると思っています」
《スタジオ》
【コメンテーター:JICA中国・新川美佐絵さん】
「練習の様子など見ていると、善意やボランティア、チャリティだけでプロの方に無料で頼むことにはやはり限界があると思います。こういった取り組みがどんどん展開して、小児病棟や高齢者施設などに広がっていくといいですね」