外国で取得した運転免許証を、日本の免許に切り替える「外免切替(がいめんきりかえ)」。
中国のサイトでは「外免切替」の取得を手助けするサービスも登場。
取材を進めると今の制度に潜む、多くの課題が見えてきました。
■逆走・ひき逃げ…事故の背景に「外免切替」?
「うわぁ~!えっ?逆走!?」
突然現れた青い車。
5月18日、三重県亀山市の新名神高速道路で、車が逆走し、車2台と衝突しました。当て逃げの疑いで逮捕されたのはペルー国籍のロッシ・クルーズ・ジョン・エリアス容疑者(34)。
さらに5月14日、埼玉県三郷市では…小学生と衝突した車が逃走。逮捕された中国籍のトウ洪鵬容疑者(42)は、酒を飲んで車を運転したとみられています。
逆走に…ひき逃げ…容疑者の2人が日本の免許を取った方法、それは「外免切替」。
「外免切替」とは、外国の運転免許証を持つ人が、日本の免許証に切り替えられる制度のこと。学科試験と技能試験をクリアすれば取得できます。
■「外免切替」取得者が2倍以上に増加 背景には「ジュネーブ条約」
この「外免切替」で日本の免許を取る人の数は、10年前と比べ倍以上に増加していて、中でも多いのが、ベトナム人と中国人による切り替え。
なぜ、ここまで急増しているのか。
専門家は…。
【自動車生活ジャーナリスト 加藤久美子さん】「中国の免許は十数カ国でしか使えない。でもジュネーブ(条約形式)の国際免許を取得すれば、約100カ国で運転できる」
背景にあるのが「ジュネーブ条約」。中国やベトナムは条約に加盟していないため、日本で有効な国際免許証は、取得できません。
しかし外免切替によって、日本で運転が可能になり、さらに、その免許で国際免許証の申請もすると、100カ国近くの加盟国で運転できるようになるのです。
■予約枠が即日完売 外免切替の実態
本当に切替をする人は、増えているのでしょうか?
大阪府内の運転免許試験場を取材すると。
【記者リポート】「けさは10人ほどの中国人の方が、通訳や友人などが付き添う形で、外国免許切替のために訪れています」
この日、訪れた人のうち半数以上が中国人。
予約受付の日には、2週間分の予約枠が、その日のうちに埋まるほど人気だといいます。
■“簡単すぎる”試験? 「1時間の勉強で満点」と語る受験者
切り替えは簡単にできるものなのでしょうか?
【中国出身の受験者】「(学科試験は)基礎的な交通ルールだった。酔っぱらって運転できる?といった問題。10問解くために、1時間ぐらいの勉強でOKです。満点です。簡単です」
学科試験では、10問のうち7問以上正解すれば合格で、この男性はSNSで投稿されていた例題を1時間勉強しただけで満点をとれたということです。
さらに中国人の付き添いで訪れた通訳に話を聞くと…。
【通訳】「これまで20人ぐらい(担当)」(Q.どこで募集する?)「SNSです」
【通訳】「(外免切替申請する人の)ほとんどは留学生とか、就職の方、あとは移住の方。観光ビザの人はたまにいるけど、やっぱり少ないです」
■制度の“抜け穴” 観光ビザでも取得可能
数は少ないものの、日本に短期滞在する「観光ビザでも免許を取れる」という情報が。
実際に中国の通販サイトで調べてみると…。
【記者リポート】「中国のサイトで日本の免許と検索すると、日本での免許取得サービスを提供する業者がいくつもヒットします」
【中国の通販サイト】「中国の運転免許証を日本の運転免許証に切り替えます。旅行も安心!」「大阪での試験16万9000円」
値段は様々ですが、「外免切替」を手助けするサービスが続々と出てきます。
サービスを提供している中国の業者に問い合わせると。
【記者】「免許を取るのに、どのくらいかかりますか?」
【業者】「順調にいけば半年」
【記者】「日本に住んでいなくても大丈夫ですか?」
【業者】「観光ビザがあれば大丈夫」
すると業者から質問が。
【業者】「教えていただきたいのですが、日本の法律では許可されていないのですか?」
法律では認められている手続きだと伝えると、業者からは、「日本社会が安全運転を重視していることも理解していますので、今後は制度の面でより良いバランスがとれるようになることを願っています」と回答がきました。
■審査の“ゆるさ”が露呈 ホテル住所でも取得可能な驚きの実態
そもそも、なぜ日本に住所をもっていなくても日本の免許をとれるのか?
取材を進めると、制度には”抜け穴”が…。
これは中国人の男性が日本に観光に来た時に取得した免許証。免許の住所に「ホテル」と書いてあります。
「在留カード」を持っていなくても、宿泊先のホテルに滞在の証明書を出してもらえば、免許を取ることができるのです。
【自動車生活ジャーナリスト 加藤久美子さん】「事故とかトラブルがあったときに、(免許証の住所)がホテルの住所だったら、追い切れない。かなりハードルが低いし、緩いなと。やっぱり見直すべきだろうと思います」
こうした状況を受け警察庁は、「住民票の写し」を原則とするなど、住所の確認を厳格化する検討を始めました。
すると日本政府の動向を察知したのでしょうか。中国の通販サイトでは早速…。
【中国の通販サイト】「まもなく政府が手続きを認めなくなる。最後のチャンスを逃さないように」
様々な課題が浮彫りにされている「外免切替」。
事故を減らすために、制度や運用の見直しが必要そうです。
■「逆走」は「外免切替」と別の問題があると安藤優子さん指摘
ジャーナリストの安藤優子さんは、「外免切替」と「逆走」の問題は切り分けて考えて、逆走を防ぐためには標識の改善などの方法も考えないといけないと指摘しました。
【安藤優子さん】「写真付きの日本の免許証を持っているということが、社会的なある種の信用につながる。それを悪用して、買ったり、詐欺を働いたりということにつながりかねないぐらい。日本の社会ではきちんと認知された証明書でもあります」
【安藤優子さん】「一方で、外免切替の緩さみたいなところについて、例えば逆走のような事故につながりかねないと言われますが、私が自分で運転していて、『これどっちに行ったらいいの』という標識のまずさもあったりする。やはり逆走を防ぐ違った方法論も同時に考えないと、外免切替の問題だけで逆走を防ぐことにはつながらないと思います」
日本での車のルールの周知の仕方にも課題があるといえるでしょう。
■「学科試験があまりにも簡単。問題ですね」と橋下徹さん
「外免切替」問題について、弁護士の橋下徹さんは日本に定住して働くために免許が必要な外国人もいるので、「外国人に与えちゃいけないみたいな議論はあってはならない」と話しました。
【橋下徹さん】「まず一つ、住民票で裏付けられた住所が必要で、定住している所をしっかり示してくださいということ、ちょっと遅すぎましたよね」
【橋下徹さん】「ただ気をつけないといけないのは、外免切替の問題がいま各メディアで取り上げられています。一時滞在でホテルの住所でやっている外免切替の数と、日本に移住・定住して働くために必要だから外免切替している人の数がどうか。さきほどインタビューに答えてくれた通訳の方が『一時滞在の人は少ない』というふうに言っていました」
【橋下徹さん】「ですから外国人の方が日本で働く上において、免許が必要なので、外免切替自体を大騒ぎして『外国人に全部与えちゃいけない』みたいな議論はあってはならないと思います」
【橋下徹さん】「ただ学科試験があまりにも簡単だから、日本の文化とかルールを知ってもらうために、日本人に課している学科試験程度は、やはりテストしないといけないんじゃないか。技能に関しては結構厳しくて、合格率29パーセントぐらいで、しっかり見ている。学科試験が問題ですね」
「外免切替」見直しについて、慎重な議論が必要になってきます。
(関西テレビ「newsランナー」 2025年5月21日放送)